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665話・囚われた英雄と情婦

 ネオ霍去病の鎖の先には若い男女が繋がれていた。

 あどけない顔立ちだが、均整の取れた肉体の青年は英雄カレム・ミウラサキ。

 一方、長身の美女は“恥知らず”直行の愛人で、ロンレア領最高幹部レモリー。


挿絵(By みてみん)


 時間操作能力者と手練れの精霊使いの強者二人をつなぎ止める細い鎖には、弱体化と死の呪いが込められており、簡単に外すことはままならなかった。


 ロンレア領と勇者自治区の要人2名を引き連れてあらわれたネオ霍去病は、大股で陣内に割って入り、味方であるはずの諸氏たちに嘲笑を浴びせた。


「どうでもいい者たちが雁首ならべて、下らない軍議に精を出して、めでたい奴らよ!」


「…………」


 総司令官の傲岸な立ち振る舞いに、副官たちは凍りついたように静まり返った。


 その沈黙を、仮面の七福人「蘭陵王」が破った。


「めでたいのはどっちだ馬鹿野郎。敵将2人捕らえた程度で悦に入りやがって……。戦は1人でするもんじゃねぇ。ガキの出る幕じゃねえんだ」


 彼はそう吐き捨てて、ぷいと顔を横に向けた。

 霍去病の眉がつり上がり、持っていた鞭を「蘭陵王」に投げつける。


「…………」 


 彼はそれを容易く振り払おうとしたが、鞭を投げたタイミングとかみ合わず、その仮面に直撃した。

 「蘭陵王」は肩をすくめ、床に落ちた鞭を拾った。


「グレン団長……ですよね?」


 その一部始終を見ていたミウラサキが、おそるおそる声をかけた。

 対して「蘭陵王」は、席を立ち恭しく一礼する。


「英雄カレム・ミウラサキ殿だな。残念だが人違いだ。おれは“七福人”蘭陵王。クロノ王国で総参謀長を務めている。兵站の責任者でもあるが、グレン・メルトエヴァレンスではない」


 そう言って何事もなかったように着席すると、副将や将官たちは思い出したように敵将に敬意を表する。

 グンダリとソロモンは、きまりが悪そうに視線を逸らした。


「蘭陵王、この偽善者め。そんなことよりも、グンダリかソロモン、貴公らで即刻この2人を処刑しろ」


 霍去病はアゴをしゃくり上げてミウラサキとレモリーを指し、首をかき切る仕草を見せた。

 処刑という言葉に対して、当の二人は動じることはなかった。


 むしろ驚いたのは命じられたグンダリとソロモンの両人だった。


「ちょっと待て。情婦はともかく魔王討伐者を殺しちまったら自治区とも全面戦争だろ?」


「霍去病どの。処刑はあまりにも短絡的ではないか? 戦後も見据え、人質として置いておくのが外交上得策ではないか?」


「ふん」


 二人の危惧を、ネオ霍去病は鼻で笑った。


「馬鹿どもが。いいか、我々が手を焼いているのは魔王討伐者どもの存在だ。頭数はひとつでも潰したいのが道理だろう」


 彼は嘲笑しながら、「蘭陵王」の方へ歩を進め、値踏みするようにその仮面をのぞき込んだ。


「仰ることは間違いではないでしょうな」


 蘭陵王は肩をすくめ、持っていた霍去病の鞭を恭しく差し出した。

 それを模擬ととるように取ると、霍去病はグンダリとソロモンに告げる。


「ラー法王に敗れた勇者は生死不明、女賢者は刑死、この男をぶち殺せば残りは裸の女戦士一人。考えるまでもない、理解したなら今すぐ殺せ」


 霍去病は持っていた鎖をたぐり寄せ、ミウラサキを蹴った。

 しかし彼は身じろぎもせずにそれを受け止め、何事もなかったように平然と立っていた。

 

「レモリーさん。あなただけなら逃げられると思うけど」 


 ミウラサキは腕に巻きついた呪いの鎖を見つめながらつぶやいた。

 

 ネオ霍去病を追っていた彼らだが、気づいたら捕らわれていた。

 ミウラサキの時間操作とレモリーの流動化でも逃れられない異様な状況。

 

 直行は「現実改変ではないか?」と推測していたが、レモリーには「現実改変」という概念に理解が追いつかない。

 また、ネオ霍去病の異能がどれほどの範囲に効果を及ぼすのか、想像もつかなかった。


 そこでミウラサキとともにあえて抵抗せずに敵の本陣を探る手を打ったものの、まさか即刻の処刑とは想定外ではあった。


「いいえ。()()()()()()()()()()()()()さまを見捨てるわけには参りません」


 レモリーはあえて彼を転生先の本来の名で呼んだ。

 魔王討伐者ミウラサキはこの世界でも有力なドン・パッティ商会の御曹司でもある。


 あえてそう呼ぶことで、人質としての価値を示そうとしたが、霍去病が気にかけることはなかった。


「女! 誰がベラベラ喋っていいと言った!」


 罵声を浴びせながらレモリーの下腹部を蹴り上げようとするネオ霍去病を、ミウラサキが割って入ってかばった。

 鎖につながれながらも器用に膝を使って蹴りを止め、攻撃を軽く受け流した。


「……女性を蹴るなんて、トシヒコ君が知ったらブチ切れるだろうね。ボクも許せないと思う」


 あどけなさの残る表情をしていたミウラサキが一転して、険しい顔になった。

 そして闘気を込めると、いとも容易く呪いの鎖を引きちぎった。

 

 みるみる顔色が青ざめていくネオ霍去病は、鞭を振り上げて叫んだ。


「貴様わざと捕まっていたのか……!」


 間髪を入れずグンダリ、ソロモンが戦闘態勢に入る。しかし「速度の王」の異名を取るミウラサキの方が一手早かった。


 衛兵から槍を奪うと、ネオ霍去病の喉元に穂先を突きつけていた。次いでレモリーも鎖を解き放ち、それをソロモンに投げつけた。


 そのときだった。


「申し上げます! ロンレア領から魔物の集団が押し寄せて……!」


 捕虜の反逆という、緊迫した場面に乱入した伝令兵は言葉を飲み込み、固まってしまった。

 

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「この回が公開された24年8月31日は台風10号の予測不能の動きに日本中が翻弄されていましたわね……」


知里「ノロノロ台風にはまいったよね」


直行「次回の更新は9月6日を予定しています」


エルマ「こちらもグズグズ&ノロノロ更新から復活しないといけませんわね♪」

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