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663話・魚面ver.2

 戒めを解かれた虎仮面を信頼できるかどうか、魚面にとっては賭けだった。


 罪人を解放した行為は、間違いなく罪に問われる。

 それも承知の上で、魚面は虎仮面を頼った。

 つかの間の安息を得たこの地を、どうしても守りたかったのだ。


 かつての上役“虎仮面”に対し、魚面は依頼主となる。

 そのことにお互い違和感を覚えながらも、2人の元暗殺者は共闘の道を選んだ。


「俺の目標はネオ霍去病を始末してお頭の仇を取ることだ」


 “鵺”の虎は、組織内では粗野で好色な男で知られていた。

 一方、頭目の“猿”に対する忠誠心は誰よりも強い。


 裏表のない性格で、命知らずの武闘派でもあるため、魚面は彼に依頼をした。


「ワタシたちは別動隊として敵将を討つ。直行サンが帰ってくるまで、敵の総攻撃ヲ遅らせるんだ」


「……戦力を確認しておくぜ」 


 荒野に立つ虎仮面と魚面は、それぞれが持つ召喚獣を呼び出した。


 魚面の保有するのは白いグリフォン一体。

 戦斧で武装したオーガー四体。

 ガーゴイルが三体。

 

「お頭が下さった魔神と飛竜は、黒猫の女魔導士にやられたのか……」


 虎仮面はため息交じりにつぶやいた。

 知里とは直接戦いはしなかったが、単騎で飛竜を瞬殺し、魔神をも倒した存在と対峙したことは、“鵺”にとって相手が悪かったとしか言いようがない。


「黒猫の女魔導士と派手な女賢者、裸の女戦士……。あいつらがいりゃ、勝てるんじゃねえか?」


 一方、虎仮面が保有する戦力は体高五メートルほどの巨人型ストーンゴーレム一体。

 ミノタウロス六体、リザードマン八体……。


「現状コノ戦力で挑むしかナイ……」


「そいつはちと心許(こころもと)ねえな」


 大国の正規軍と正面から戦うには厳しい。

 奇襲をかけて敵将を討ち取ることは難しい、のみならず知里が打ち漏らしたという“七福人”グンダリ、そして謎が多い超人ネオ霍去病を相手に、どこまで戦えるかは未知数だった。


 (知里サンは行方知れず。ヒナサンと小夜子サンは立場上参戦デキナイ……)


 この時点で魚面はロンレアと勇者自治区・法王庁の連立同盟を知らない。

 知里の不在は最重要機密のため、口にすることはできないが、戦力不足は否めない。


「仕方ねえ……」


 虎仮面は吐き捨てるように言い、胸に飾られた宝石のひとつを外した。


「猿のお頭から預かった『極化の魔石』をくれてやる。とっておきだ」


 彼の掌の上に、鈍色の宝石が置かれた。


 『極化の魔石』はいわゆる進化系魔道具に分類される。

 “鵺”の頭目から蛇、虎にだけ与えられる特別な品であった。


 その効果はあらゆる術具を一段階進化させることができる。

 直行たちが密貿易に利用したスキル結晶の道具版といったところだ。


「この石にテメェの魔力をありったけ注ぎ込んで何か“モノ”に食わせろ。効果は未知数だがな」 


「…………」


 石を受け取った魚面は、無言で一礼した。

 虎仮面が何を思って“とっておき”を託したのかは分からない。


 そもそも彼女にとって彼らが何故、暗殺を生業とするのか理解できなかった。

 顔を奪われた自分にとっては、生きるための手段でしかなかったのだが、彼らはそうではない。


 ──闇に生きる者たちの矜持、か……。


 魚面ははじめて猿や蛇や虎、同胞たちの戦う理由が理解できたような気がした。

 口に出したら、虎仮面に鼻で笑われて否定されるだろう。

 分かり合うことはできないとしても、彼女はもう過去を否定しない。


(闇に生きタ者の覚悟デ、道を切り開ク!)


 魚面はありったけの魔力を『極化の魔石』に込めた。

 鈍色の宝石がみるみると緑とオレンジの斑模様に輝いていく。


「それがテメェの色か!」


 虎仮面は仁王立ちしたままその一部始終を見つめていた。

 彼の中にある裏切り者=魚面への憎しみと嫌悪感とは違う、純粋に強者を前に高揚感を覚えた。


 一方、魔力を出し尽くした魚面の心は静かだった。

 戦いを前に魔法力を消耗するなど愚の骨頂ともいえたが、後悔はなかった。

 

 虎仮面の命令ではなく、自分の意思で魔力を注ぎ込んだ『極化の魔石』を握りしめる。


「…………」 

 

 彼女はそれを魚仮面の口元へと運ぶ。

 すると忌まわしき魚の仮面は意志を持っているかのように二色の宝玉を吸収した。


 魚面の全身が光に包まれ、その姿が変容していく。

 出し尽くした魔力も、仮面の力で増幅されて自身に還る。


 魚の仮面はより意匠が凝られたものへと変貌した。

 不規則なな幾何学模様のボディスーツも規則的な鱗模様に生まれ変わった。


挿絵(By みてみん)


「鵺の衣装は持ち主の心のありようで変化するという。なるほどそれがテメェの! 今の心のありようか!」


 魚面の変容に、虎仮面も思わず声を弾ませる。


「行こウ! ワタシたちのそれぞれのために」


 鵺との不可思議な縁を感じながらも、魚面の心は晴れやかなものを感じていた。


 一方、その一部始終をかくれ見ていたクバラ麾下のジュダイン・バート。

 彼の心は元鵺の2人とは真逆に、忌まわしきものを感じていた。


(マズいことになったな……。どう上に報告したらいいものか)


 元A級冒険者で凄腕の盗賊でもあったバートは頭を抱えた。

何と宝輪鳳空さまから魚面のFAをいただきました。

挿絵(By みてみん)

魚面のコスチュームver.2をデザインして下さいました。

私が描いたイラストをさらに磨き上げて、アルティメットなデザインにブラッシュアップしてくださいました。

さっそく本編に採用させていただきました。


次回の更新は作者多忙につきまして8月25日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宝輪鳳空さまから魚面のFAも凄いです!!(^O^)/
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