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656話・ヒナの、ヒナによる、ヒナのための〝公開処刑〟

 ヒナの偽装処刑の段取りは、またたく間に決まっていった。


「まずはヒナのゴーレムを作りましょう!」


 彼女は軽やかに舞い、召喚術を起動する。

 ゴーレムは作った主人の命令だけを忠実に実行するロボットのような存在だ。


 話には聞いていたが、俺も現物を見たのははじめてだ。


「ワントゥスリー&GO!」


 ヒナの、バッチリ決まったフィニッシュポーズととともに空中に出現する魔法陣。

 そこから、生まれ落ちるようにスキンヘッドのマネキンを思わせる裸の人形があらわれた。


「おおっ!」


 ジュントスが生唾を飲むほどのプロボーションは、確かにヒナと同様に艶めかしい。

 普通は土くれや石などで作るが、ヒナが召喚したゴーレムは生々しいほどに肉感的だ。


 挿絵(By みてみん)


「素材はシリコン……なんだけど、ちょっとあまり見つめないでくださる?」


 ヒナは俺たちを少し咎めた。

 超精密記憶で再現されたヒナのゴーレムは、裸なのだ。

 髪の毛や体毛こそないものの、乳房の形や大きなお尻などは本人と寸分違わないと思われる。


 あんな盛り上がった先の突起も、このくびれのところも……。

 俺とジュントスは、鼻を膨らませて、生々しいゴーレムに見とれていた。

  

「もう! 男子ってこれだからねー」 

 

 彼女は口を尖らせたものの、止めるまではしなかった。

 軽くステップを繰り出し、自身と同じサマードレスを召喚すると、いそいそと人形に着せた。


 さらにカツラとメイク用具を召喚し、ヒナとほぼ同じ外見のマネキンを作り上げる。


「うわーヒナちゃんが2人だー」


 先ほどからかなり引き気味の小夜子が棒読で、素朴な声を上げた。


「はは……。法王庁の貴賓室で女体のゴーレムを召喚するなど……始末書では済みそうにありませんな」


 ジュントスの乾いた笑いに、ヒナは悪びれる様子もなく、またステップを繰り出す。


「さて、メルトエヴァレンス一座の花形女優の幕引き芝居。ヒナは地味なおばあちゃんとしてやり過ごしましょう」


 そして軽やかに口上を述べると、自身は老婆の姿に変身した。


 地味なおばあちゃん、と言ったが、お美しい姿で胸も垂れていない。

 往年の大女優とか美魔女の見た目だ。


 自慢の肌をさらすことにさほど抵抗もなく、しかし老メイクはほどほどに。

 なんだかんだ言っても、元芸能人のプライド的なものを俺は感じた。


 こうして、ヒナの、ヒナによる、ヒナのための〝公開処刑〟偽装工作の第一段階の仕込みは終わった。


「あのー、ジュントス卿、お茶でもお持ちしましょうか?」


 入り口のところで律儀に待機していたリーザがのん気な声をかけてきた。

 先ほどまで本気で「くっ殺せ」と言っていた彼女だが、気持ちの切り替えが早いのは見習いたいものだ。


「リーザ殿。ヒナ・メルトエヴァレンス容疑者を連行してくだされ」


「えっ、ちょっと……な、なにがどうなっているんですか???」

 

 リーザは目を疑った。

 彼女が驚いたのは無理もないことだった。


 部屋に招いたときよりも人数が一人増えていて、アフロの女従者が消えているのだ。


 着ているモノが同じなので、アフロがヒナの変装だとしても、やたら奇麗な中年女の存在は意味不明だ。


「ヒナ・メルトエヴァレンス!? 聖龍様を弑した大罪人! 許さん!!」   


 リーザは激高し、家宝の刺突剣レッド・ライトニングを抜き放った。

 しかし、足がもつれて転倒し、前のめりに床に叩きつけられた。


「拘束魔法! 貴様か!?」


 リーザは険しい顔つきでヒナが変装した美魔女を睨みつけた。

 紅の姫騎士は思い込みの激しい“脳筋”だが、実はそこそこの魔法戦士でもある。


「手出し無用! これはラー前法王の特命なんだ!」


「な……!?」


 俺の口から出まかせに、リーザはもちろんジュントスも絶句した。

 いや、出まかせ、というわけでもない。


 おそらくラーはこの事態を把握している。


 確かなことは分からないが、ヒナたちを暗殺しようとした者たち。

 この黒幕がラーだとしても、ふしぎではない。

 できれば始末しておきたいが、暗殺未遂に終わってもヒナたちは犯人を咎めない。

 始末しきれなかったら利用する。

 偽装処刑も計算に入れた上で、嘘だとしても勇者自治区には聖龍殺害の責任を取らせる。


 単なる俺の推論に過ぎないので、大外れしているかもしれないが……。

 曲がりなりにも命のやりとりをした、ラー・スノールという人は、そういう発想で動く。


 少なくとも現時点ではロンレアと対立しないということで間違いなさそうだ。


 恐ろしい法王をさらに騙すのは気が引けるが、今さらラーと俺の関係は最悪で、これ以上悪くなってもどうということもない。


 世界の謎を秘めた知里の携帯電話をすり替えたのがバレた時点で、俺はアウトだけれどな。


「聖職者さま。ヒナは御聖龍さまを殺めてしまった償いをするために、こちらに参りました……」


 ヒナは自身のゴーレムに白々しくそう言わせた。

 リーザの名を告げていないところをみると、たぶんプログラムした発言なのだろう。


「…………」


「リーザ殿、聖騎士の方々もお呼びして、賢者ヒナ殿をしかるべき場にお連れいたしましょう」 


 ジュントスは深呼吸した後、厳粛な調子でそう告げた。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


挿絵(By みてみん)


小夜子「あら、またサトミ寿司ね!」


直行「半額刺身が手に入るたびに握ってるようだな」


知里「この暑いのに半額刺身なんて、まるでロシアンルーレットみたいね」


直行「次回の更新は作者が食あたりにならなければ7月15日に更新予定です」


エルマ「『回れ♪ 大回転ロシアンルーレット寿司♪』お楽しみに♪」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  美味しそうなお寿司の写真をありがとうございます。ちなみに私は本当に1990年代初頭まで、お寿司の具で茹で海老の存在を知りませんでした。 [一言]  リーザさんを暗殺者として仕向けるのは、…
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