651話・純潔の痴女VSむっつりスケベのジュントス
ジュントスとの交渉は、予想通りの展開だった。
彼の行動のほぼすべてが、セクハラと受け取られても仕方がない有様だった。
小夜子の健康的な肉体美に魅了されたむっつりスケベのジュントスに、理性を期待するのは難しい。
「あの、ジュントスさん。わたし……」
小夜子は突然急接近されて匂いを嗅がれたことに驚き、しどろもどろになっている。
桃色の障壁が周囲に広がった。
「ホウ! これが無敵の障壁! ……ツンツンしてもよろしいですかな?」
「えっ? ええーっ」
「失礼。……失礼は承知であります。桃色の障壁は、法王猊下の一撃をも防いだ。軍事的には大変脅威ですので……」
ジュントスは大真面目に答えた。
たぶんもっともらしいことを言って、単純に小夜子の匂いを嗅ぎたかっただけだと思われるのだが。
言いつくろうところをみると、同盟に関してはジュントス自身はまんざらでもないと言った感じか。
「は、はあ……」
「障壁に触れてもよろしいですかな?」
ジュントスがさらにどシリアスな顔で尋ねると、小夜子はしぶしぶ頷いた。
「どれ、どれ、ウホホホホーイ」
待ってましたとばかりに、桃色の障壁を指で押す生臭坊主、いやらしい手つきで揉んだり匂いを嗅いだり、堂々としたむっつりスケベぶりを示す。
「これはマシマロのような柔らかさ、フム、ほのかに甘い匂いもしますな。どれ、舐めてみてもよろしいですかな?」
「あ、ジュントスさん、舐めるのはダメ! ゼッタイNGです!」
小夜子はかすかな吐息を漏らしながらも、拒絶する。
少し残念そうな顔をしながらも、あっさりと身を引くジュントスはまさに変態という名の紳士といえるだろう。
「豊満な肉体を白日の下に晒しながらも、何物をも寄せつけない、やわらかな障壁。ふむ、『純潔の痴女』とはよく言ったものですな」
「………はぁ」
そんな二人を、冷ややかな目で見るヒナ・メルトエヴァレンス。
俺はいつ彼女がブチギレするか、気が気ではなかった。
彼女の気持ち次第で、この同盟の行方が決まると言ってもいい。
のっけからのセクハラ的な行動に対する、ヒナの無反応が怖い。
彼女の小夜子に対する感情は、母親のそれを超えた特別なものがある。
俺は注意深く様子を伺った。
「……なるほど、『純潔の痴女』の障壁を、“軍事的脅威”と呼称しますか」
ヒナは静かにつぶやいた。
ここまでされても彼女が怒らなかったところをみると、勇者自治区としてはこの同盟には乗り気と考えることができる……のか。
法王庁からの回復術師の派遣と、エルマの再生医療技術の提供。
空爆されて多数のけが人を出した自治区としては、いまもっとも必要なのは回復手段だ。
ヒナにとって、法王庁の助けは喉から手が出るほど欲しい案件なのかもしれない。
「軍事的脅威……。美しい女戦士どのをそのように申し上げるのは気が引けますが、御聖龍さまとも戦える存在、その肉体美ともども、脅威と申し上げざるを得ない。ウシシシシ」
ジュントスの目は笑っていなかった。
さらに彼は鋭い眼光でヒナを見る。
「美しいといえば、女賢者メルトエヴァレンスどのにも、是非お会いしたかったですが、さすがにこの地では憚りがありましょうな」
ジュントスはヒナの変装に気づいているのだろう。
まあ単にピンクアフロにしただけだし、バレバレなのは仕方がない。
ヒナの顔つきが変わっていた。
セクハラ的発言の裏で、ジュントスが政治的に切り込んでくるのを感じたのだろう。
少しだけ両者の間に緊張感が漂った。
ここで俺は二人の間に割って入り、今更ながら司会進行を買って出た。
「ジュントスどの。紹介するまでもないが、こちらは元勇者パーティの主力戦士、小夜子さん。そしてこちらが……」
「勇者自治区執政官ヒナ・メルトエヴァレンス様の代理で参りましたアレサ・アリソンです」
ヒナはクールにそう名乗った。
たぶん有名な歌手のもじりだと思うけど、まあその辺りはどうでもいい。
ジュントスも「ふーん」と聞き流していた。
そこにヒナが、鋭く切り込んでいく。
「……ヒナ執政官が聖龍さまを手にかけたこと、ジュントス様はどのようにお考えでしょう」
まるで人ごとのように問うた。
聖龍殺しの是非を……。
「……御聖龍討伐は、『言語道断の大罪』であります。法王庁の公式見解であり、これは、揺るぎません」
ジュントスはヒナの胸元から覗く深い谷間に目を奪われながらも、取り繕うように大真面目な顔で言った。
「……でしょうね」
聖龍討伐の是非なんか問われて、法王庁としてはそう答えるよりほかはない。
しかし、ジュントス声を潜めて話を続ける。
「……ですが、以下は拙僧の個人的な見解です……」
ジュントスは少し声をひそめ、続けた。
「……今回の件、“やっちまったものは仕方ねえ”、どっちもどっちだと考えております」
「やっちまった……!? 仕方ねえ……ですって!?」
その答えに驚いたのがヒナだった。
ネコのような眼を丸くして、身を乗り出して尋ねてきた。
「なぜそう思ったのか、詳しく教えていただけませんか! もちろん口外いたしません。あくまでオフレコで、ヒナ執政官に伝えたいので」
ヒナの大きな胸が机の上に乗った。
ジュントスの位置からだと、かなりきわどい角度になる。
下手したら乳の輪も見えかねない位置だ。
暖炉からの熱い風が、ヒナの甘い香りを運ぶ。
ジュントスの鼻が、ぴくりと動いた。
次回予告
※本編とはまったく関係ありません。
知里「こないだ業務スーパーにプロがいたんだ」
直行「そりゃ業務だもん、プロはいるだろ」
知里「いや、値引きコーナーに直行して、お勤め品を狙い打ちしていった」
直行「それはプロ中のプロだな。しかし知里さんが業務スーパーとは意外だな」
知里「ワインの穴場なんだよ。スペインの発砲ワイン『カヴァ』が1000円以下で買えるし、南アフリカの白ワインやチリワインのコスパいいやつが1000円以下であるんだ」
エルマ「あたくしもおフランス産の解凍ブタ肉がお安くて大好きですわ♪」
直行「地球を半周してやってくるのに妙に安いんだよな」
エルマ「次回の更新はおフランスから予定しています♪ 海外からも投稿しておられる方もいますし♪ あたくしたちもやってみましょう♪ 6月19日を予定していますわ♪」




