649話・思わぬ再会
「ドンゴ! 俺たちの案内役として世話をしてくれるのは、お前か!」
俺と彼は、わざとらしいハグを交わした。
ヒナと小夜子が、何となくシラケた様子で見ていた。
「左遷されたと思ってたけど……」
「いやー、ジュントス卿には頭が上がりませんですぅ。ボクがあんなことを言ったのに、再度引き立ててくれたんですから! 先代法王はクソですけどね!」
ドンゴボルトはこれまでの経緯をまくしたてた。
ほとんどラーの悪口だったが、要約するとジュントスが惜しいと思って、私設秘書に抜擢したようだ。
「いや、お前な……ジュントスにはマジで感謝しとけよ」
なんとも調子のいい男だ。
そもそも、ラーがコイツを左遷したのは、ジュントスの出自が(コッパイ公爵家七男の替え玉だった件で)バレた際に、思いきり見下したことが原因だ。
ラーだって別に悪意があって左遷したわけではない。
いや、それよりも身分で態度を変えるドンゴを許したジュントスは、なかなかの度量だ。
「………はじめまして。勇者自治区から参りました。ヒナ執政官の代理の者です」
ヒナは自ら名乗らず〝執政官の代理〟という立場で挨拶をした。
大きな花束で顔を隠すようにして、深々と頭を下げる。
「……代理、ね」
ドンゴボルトは軽く一礼すると、小夜子の方に目をやった。
ヒナが花束を召喚した場面を見ていたはずだが、スルーだった。
「あなたのことは存じておりますぅ! 勇者トシヒコ一行の女戦士さま」
「よろしくお願いします」
小夜子は深々と頭を下げた。
「なかなか、大胆なことをしますね」
ドンゴボルトは意味ありげに笑った。
ハッとして慌てて胸を隠す小夜子。
隠しきれてないし、お尻はほぼ丸見えだが。
大きな花束で顔を隠したヒナも、ピクリと顔を動かした。
「いえ、お花でも衣装でもなくてですね! 直行さんは大胆な行動に出たものだと」
ドンゴボルトも頬を赤らめて、小夜子から目線を逸らして俺を見た。
そして再度、ニヤリと笑う。
「直行さんが連れてきた、と考えてよろしいですね?」
「……敵意がないことは保証する。親睦を図りたい」
勇者一行の女戦士といえば、法王庁でもっとも忌み嫌われた存在とも言えた。
現在では〝聖龍討伐の実行犯〟ヒナが特級戦犯第一位の、最悪の嫌われ者なのだろうが……。
その二人を連れて、法王庁にやってきた俺を、ドンゴボルトは大胆だと称したのだ。
「ここが使えるのは国賓か、それに準じる立場の方々ですよ」
ある意味で権威主義者でもあるドンゴボルトが、法王庁最上部に直結したエレベーターを案内してくれた。
「文字通り世界の命運をかけた三者会談ですね。ようこそ法王庁へ」
先ほどまでとは打って変わって、ドンゴボルトは恭しくヒナと小夜子に一礼した。
エレベータを上がると、聖龍教会の聖殿に出る。
バルコニーからは広場が見えた。
かつて先代法王ラーの法話を聞いた場所だ。
現在法王は空位で、今日は集会もないので周囲は静寂に包まれている。
それにしても、荘厳な空間だ。
ていねいに切り出された石材による床や柱、神殿群から高い精神性を感じさせる。
そんな厳粛な空間では、小夜子はもちろん、ハリウッドセレブのようなヒナのドレスだって場違い感が半端ではない。
「ささっ、その恰好では寒いでしょう。室内は暖かくしますので、しばらく我慢してくださいね」
ドンゴボルトの案内に従って、俺たちは足早に聖殿へと向かっていった。
途中すれ違う高位の聖職者たちからの冷ややかな視線を、なるべく気にしないようにして門をくぐる。
さすがに聖殿内では、暗殺者はいないようだ。
小夜子の障壁が一度も発動していない。
しかし、目の前に明らかな〝殺気〟を感じた。
俺の能力『回避+3』も、警戒信号を出している。
門前で待っていたのは、紅い髪の姫騎士リーザ・グリシュバルト。
鋭い眼光で、突然小夜子に飛びかかってきた。
「……ご無礼を! お許し! ください!」
有無を言わせない突撃に、俺は硬直してしまった。
辛うじて目で動きを追った。
リーザは小夜子めがけて、雷光のような動きと共に、無駄のない所作で刺突剣を抜き放つ。
そして彼女の喉元を狙って〝突き〟を放った。
「!!」
小夜子はその一撃を、半歩下がっただけで回避。
障壁は出さずに、右手で抜刀する素振りを見せて牽制する。
ブワッ、と風を切る音が響いた。
「ならば!」
リーザはその〝空振り〟に対し、電撃魔法をまとわせた刺突剣で薙ぎ払った。
2つの〝空振り〟が、衝撃波と風圧を伴って周囲に広がる。
「っと!」
一瞬、リーザの体が仰け反った。
彼女の目の先には小夜子の長い脚が伸びている。
斬撃、回避行動の2連続キャンセルからの上段への回し蹴り。
すさまじく絵になる攻撃だが、Tバックのビキニアーマーからお尻丸出しでのハイキックは目のやり場に困る。
「……これ地味に外交問題よね」
ヒナの言葉は冷ややかだった。
先ほどからのリーザと小夜子の攻防に関して、少し距離を置いていた彼女だったが、この非難は姫騎士に向けられての発言だった。
大きな花束で顔を隠しているため、その表情までは分からない。
一方小夜子は、軽く息を弾ませながらもスポーツ少女のようなさわやかな顔で笑う。
「姫騎士さん! やるじゃない!」
これに対して、リーザは目に涙を浮かべて唇をかみしめた。
勝負あり、と考えていいのか……?
次回予告
※本編とは全く関係ありません。
エルマ「昭和の特撮って♪ お下劣だったんですってね♪」
小夜子「どういう意味? よい子のみんな! 僕と握手! 勧善懲悪だし健全じゃない?」
知里「お小夜はリアタイ過ぎて分かんないんでしょうけど、パンチラとかヒロピンとか、おかしな性癖が芽生えた男子たちも少なくなかったと聞くわ」
エルマ「さすが知里さん♪ よく知ってますわね♪」
知里「まあね。魔〇沙と〇夢の考察動画とかよく見てたからね」
小夜子「確かにレオタードとか網タイツはあったけど、そこまでエッチな印象はなかったわよ」
直行「そこが罠なんだろうな。特定の男子とお父さんに刺さる特殊性癖の世界だ」
知里「ゴールデンタイムで平気で乳〇出てたしね。昭和はヒャッハー! だからね」
小夜子「知里! 女の子なんだからあからさまに言っちゃダメよ」
エルマ「小夜子さんに言われても説得力ないですけど♪ さて次回の更新は6月10日を予定しています♪ 『ポロリ♪ ビキニ戦士小夜子の戦い』」
小夜子「ポロリはダメ―」




