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648話・特級戦犯の来訪

 法王庁は、古代魔法王国の空中都市に長い階段をつけて改装した独特の外観をしている。


 ここにやってくるのは、俺にとってはこれで5度目だ。

 ヒナと小夜子にとっては、はじめて訪れる聖域だった。 


挿絵(By みてみん)


「……すっごーい! ねえヒナちゃん見て階段! ひゃー高ーい! あれ上がって行くのかー……ねえ」 


「…………」


 無理にはしゃぐ小夜子とは対照的に、沈んだ表情のヒナ。


 聖龍をこの手で滅ぼした転生者ヒナと、前法王ラーと命のやりとりした小夜子。


 信仰の総本山に乗り込んだ、元魔王討伐軍の主力、勇者パーティの英雄2人。


 彼女たちはとても居心地が悪そうだった。


「……はしたない恰好」


「母上、なぜあの女人たちは裸で巡礼されているのですか?」


「……見てはなりません。目を合わせたら殺されてしまいますよ……」


挿絵(By みてみん)


 当然のように、神官や信徒たちからは奇異な目で見られていた。

 どう見ても聖地巡礼をするような恰好ではないし、浮いていた。


 ビキニ鎧とアフロヘアのサマードレス姿の、肌も露わな女子2人は、寒そうに肩を震わせている。

 心なしか俺も寒気がしてきた。


 聖龍法王庁はアウエー感がものすごい。

 しかし、今までとは比べ物にならないほど、すさまじい殺気を感じた。

 俺の能力『回避+3』が、「逃げろ」と警戒アラームを鳴らし続けるほどに。


「異界人ども」


 一般の巡礼者とは違う貴族用の入り口にいるからまだ穏やかに済んでいるものの、罵声を浴びせられてもおかしくはない状況だ。


「意外と寒いね。カーディガンとか羽織るもの持ってくるんだった」  


 そういった憎悪を、毅然とはねのけていたヒナだったが、寒いのか剥き出しの両肩を抑えた。


 確かに法王庁は肌寒い。

 連日30度を超えるような勇者自治区やロンレア領とは別世界だ。


「ヒナちゃん、寒いなら、着るもの召喚したら?」


「ううん。ママにだけ寒いカッコさせとくのも悪いし……」


 俺は先ほどからずっと違和感がぬぐえずにいた。

 ヒナと小夜子の会話も、ツッコミどころ満載だった。


 聖龍を倒した罪悪感に沈んでいるはずなのに、アフロヘアーなのはどうしてなのか。

 しかも、あろうことか剥き出しの背中が暗示するように、ヒナはノーブラじゃないのか?


 そもそも、普段なら小夜子のビキニ鎧を嫌がるヒナが、今回はまったく言及しないのもおかしな話に思えた。


「小夜子さんもビキニで寒いでしょ? ヒナちゃんさん……の代理さんはどう思う?」


 俺はヒナを、本人ではなく代理ということにして訊いてみた。


「え、うん……」


 その質問はヒナにとって予想外だったようで、彼女は少し驚いたようだ。


「即死魔法が4発に、脳を狙った極小の光弾魔法が3回。神聖属性による呪詛が7回。障壁がなければ、危なかったわ」


 代わりに小夜子が少し困った顔で答えてくれた。


「え……」


 今度は俺が言葉に詰まった。

 何度も敵襲を受けていた……のか?


「……ここが〝敵地〟である以上、警戒を解くわけにはいかない。前法王猊下の息のかかった〝凄腕の刺客〟が息をひそめている。これじゃ命がいくつあっても足りないし……、ってヒナ執政官なら、言うでしょうね」


 ヒナは毅然とそう言った。


 敵地。


 確かに聖龍教会にとって、神殺しの異界人一派なんて言語道断の存在だ。


 この聖地には、異界人に対する憎悪がひしめいている。

 それは決闘裁判のとき、俺もヒシヒシと実感したものだ。


 博愛主義者の小夜子でさえ、ときおり険しい顔で周囲を警戒している。

 彼女もまた、何となく敵意のようなものを感じているのだろう。


「失礼ですが、法王庁には何用でありましょうか」


 ようやく聖騎士のグループが声をかけてきた。

 全員が重武装で、奥には飛竜を従えた聖騎士も待機している。 


 どこまでバレているのかは分からないが、俺は堂々と名乗った。


「枢機卿ジュントス様の特命でやってきたロンレア領、および諸侯同盟の直行です。こちらの2人はとある重要機関の使者です。要人待遇をお願いします」


 もちろんヒナの身分を明かすわけにはいかないので、重要機関の使者ということにしておいた。


 いくら枢機卿ジュントスと強力なコネがあるといっても、アポなし訪問だ。

 お互い最大級の警戒は当然だろう。

 ましてやこちらの命を狙う刺客まで潜んでいるような状況だ。


 ◇ ◆ ◇


 貴族用のゲートで用件を伝えても、かなりの時間、待たされていた。


「あーそうだ。急いでたから手土産を持ってこなかったねー」


 ひたすらの待ち時間、小夜子がぽつりとつぶやいた。


「お花でも召喚しておきましょうか。ホントは応接室で派手にやるのがヒナ流なんだけど、本人の代理ってことになってるから……ね?」


 ヒナはそう言ってウインクすると、肩と膝を上下に動かしてリズムを取り始めた。

 

「1、2、3……&GO」


 いつものステップと手拍子、そして長い手足をしならせたキレッキレのダンス。

 一瞬で周囲の注目を浴びた。


 それと同時に、数百本のバラの花が雨のように降り注ぐ。

 さらにそれを手拍子のリズムで操るヒナ。


 宙に浮かんだバラの花たちがまとまり、大きな花束へと姿を変えていく。

 元旅芸人だけあって、ひとつひとつが芝居がかっていた。


 唖然として、それを眺める人々。

 喝采を浴びせる者はなく、場違いな凄腕の召喚士の術に、恐れおののいていた。


「…………」


 ヒナは冴えない表情で大きな花束を拾った。


 そのときだった。

 緊張感をぶち壊す、ノー天気な甘いイケメンボイスが響いた。


「いやー直行さま、お久しぶりですぅ。ドンゴボルトですぅ。覚えていおいでですかぁ?」


 見覚えのある青年が駆け寄ってきた。

 忘れもしない、聖騎士ドンゴボルト。


 ゴツイ名前とは裏腹に可愛い顔と声だが、意外と腹黒い男で、先代法王のラーに睨まれ左遷された青年だ。



次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


知里「こないだ入った洋菓子屋さん、微妙にブラック企業っぽかったんだ」


エルマ「地下で鎖につながれた不法就労者でもいましたか♪」


直行「エルマよ、それは犯罪案件だ。さすがにそこまでアウトじゃないんだろ、知里さん」


知里「まあね。店員の女の子みんな、生気がなくて、表情が悲しげなのよ」


エルマ「体調不良じゃないですか♪」


知里「そういうのじゃなくて、みんな何かに怯えてる感じ。思い過ごしだといいんだけど」


直行「高圧的なリーダーでもいるのかな。でもそういう職場ってネットには出てこない情報だからな」


知里「どうだろうね。ブラック企業大賞も2020年で止まったままだし」


直行「厚労省のサイトでは法令違反した企業の名前は公開されているけど、ブラック企業の問題はなかなか根深いものがあるよな」


知里「日本に限らず、労働環境って、なかなか厳しいものがあるよね」


エルマ「しんみりしたところで♪ 時間の更新は6月8日を予定しています♪ 『恥知らずと女工哀史』お楽しみに♪」

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