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646話 潜む手と、めぐりめぐってマナポーション

 それはほとんど漫画のような光景だった。


 小夜子とミウラサキが大きな板のようなものに人を乗せて飛んできた。 

 畳6畳ほどの大きさの瓦礫に、7~8人の怪我人が乗っているようだ。

 ほとんど空中疾走というような大ジャンプでも民間人が落ちなかったのは、レモリーが風の精霊術で守っていたからだろう。


「けが人がいるの! ヒナちゃんお願い!」              


「真ん中へんで寝てるのが重傷者だ」


 小夜子とミウラサキは慎重に残骸を下ろすと、ヒナを呼んだ。

 

 彼の言うように動けない重傷者を寝かせ、その人たちを取り囲むように軽症者が座る。


「少し待ってて」


 挿絵(By みてみん)


 ヒナはどこからか取り出したマナポーションを一気に飲み干すと、重傷者から治療にあたった。

 彼女の魔力残量も限界を超えているのだろう。


 大きく開いた背中からは滝のような汗が流れていた。


「手が足りないわ。誰か回復術師隊をこっちに回して! マナポもありったけ頂戴!」 


 ヒナの指示を受け、回復術師たちが駆けつけてくる。


 そして台車で運ばれてくるマナポーションの山。

 

 ──あれは間違いなく、俺が横流ししたものだ。


 若き法王ラーが、魔王討伐軍のために生産したマナポーション──。


 魔王討伐後、余った在庫をロンレア伯が無理をして買い取り、借金を背負った。


 その娘エルマが召喚魔法で俺をこの世界に呼び寄せ、俺が勇者自治区に横流しをして成り上がるきっかけとなったいわくつきのモノだ。


 何の因果か、巡り巡って勇者自治区にたどり着き、いま必要なアイテムとなった。


 回復術師たちは総出で負傷者の治療に当たっている。

 そこかしこから、回復魔法の優しい光があふれ出る。


 しかし、回復術師の絶対数が足りない。

 この世界の回復魔法は「神に祈る力」を魔力の源にする。


 法王庁と比べるまでもなく、転生者や被召喚者の多い勇者自治区では回復魔法の使い手は少ない。


「直行くん! ヒナは重傷者の応急処置が済み次第、法王庁に向かいます。素性は明かすわけにはいかないから、ママに代表をやってもらいます!」


 治療現場の最前線で重傷者の回復を担っていたヒナが、俺と小夜子に言った。

 頷く俺とは対照的に、小夜子は驚いて目を見開いている。


「待ってヒナちゃん。カッちゃんじゃなくていいの? わたしで……大丈夫?」


 この人選は、確かにおかしい。

 小夜子の言う通り、本来であれば、使者はミウラサキがベストだ。


 彼はこちらの世界でも名門商家の生まれで、転生者として世界を救った英雄。

 少し子供っぽいけど、逆にそれが好感度となる素直で善良な青年だ。


 ミウラサキは二つの世界をつなぐ橋になり得る人材だった。


「ううん。法王庁のジュントス卿には〝よくない噂〟があるようだから、今回はママにお願いしたいの」


 ジュントスにまつわる、よくない噂。

 先ほどの俺との会話で、ヒナが思い込んだジュントス=女性蔑視の考えの持ち主というところが引っ掛かったのだろう。


 ヒナはジュントスを試す意味でも、今回あえて小夜子を使者に指名した。

  

 ジュントスは決して女性蔑視ではないが、無類の女体好きで、存在と言動がセクハラなのは否定できない。

 ついに小夜子と会談してしまうわけだが、ヒナにしてみればジュントスという男を〝試す〟目論見もあるのだろう。


 ヒナと小夜子とジュントスの会合──。

 正直、不安だ。


「ヒナっち! ボクは負傷者の捜索を続けてくる! 時間を無駄にはできない!」


 一方、ミウラサキはすぐに次の行動に打って出た。

 この辺りの連携の速さは、さすが勇者パーティだ。


「そうだレモリーさんも一緒に! まだ敵ボスが潜んでるかも。ドルイドモードで索敵しよう!」


 一そして何とレモリーを名指しで索敵を頼んだ。


 英雄に頼りにされているレモリー、という構図が意外で、俺は、少し驚いた。

 同時に、苦楽を共にしてきた彼女の覚醒を誇らしくも思った。


「承知しました。ですが、ドン・パッティ商会の御曹司さま。私の主人は直行さまですので、主の許可をいただきたく存じます」


「そうだね! 直行くん! レモリーさんの手を借りてもいいかな」


 明朗快活なミウラサキが、珍しく険しい顔で俺に尋ねた。

 レモリーも同様、深刻な表情で俺に言った。


「……直行さま。ネオ霍去病と呼ばれる男について、少し気になる点があるのです」


「気になる点?」


「〝現実改変〟ができるほどの能力者であるにも関わらず、魔力も闘気も微弱。残滓がありません」


「ボクも気になってるんだ。あれだけの大技なのに、ほとんど気配がない」


「勇者さまヒナさまも然り、御曹司さまの時間操作能力も、磁場が歪むほどの〝圧〟を出します。当然、知里さまも法王猊下も小夜子さまも。ですがネオ霍去病は全く気配がない。それが逆に不穏です」


 魔力や闘気の〝残滓〟だとかは、俺にはまったく分からない領域だ。

 しかし2人の懸念はよく分かった。

 

 ネオ霍去病の不気味さは確かに気になる。

 あの恐ろしい暗殺者集団〝鵺〟の頭目を、少ない魔力で呪殺したということも引っかかる。


「わかった。ミウラサキ君、ウチのレモリーを頼んだ」


「了解!」


 ミウラサキは快活に敬礼をし、レモリーは俺に一礼して索敵に向かった。


 

次回予告 

※本編とは全く関係ありません。


エルマ「直行さん♪ 前のミニバン♪ 見てくださいよ♪ “丹”に羽が生えたステッカーが貼ってありますわ♪ “丹”ってカッコいいですわ~♪」


直行「“丹”じゃなくて“あゆ”のマークじゃないか。変なこと言うと怒られるぞエルマよ」


知里「豹柄のダッシュボードカバーにキティちゃんのぬいぐるみとかズラーって並べたりするのかな」


小夜子「バリバリじゃない! 前に回って確かめてみようよ!」


知里「お小夜、追い越し禁止車線だし。いくつくらいの人か分かんないけど相手100パー、マイルドヤンキーだから下手したら煽られるよ」


エルマ「面白くなってきましたわね♪ 歴戦のマイルドヤンキーとの国道沿いの死闘♪」


直行「次回の更新は5月31日を予定しています。『頭文字A』お楽しみに」

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