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645話・ハーレムでの首脳会談2

 聖龍を自ら葬った女賢者ヒナ・メルトエヴァレンス。


 なりゆきとはいえ、この世界の神を殺した罪悪感に、彼女の心は深く傷ついているようだ。


 彼女が法王庁での三者会談を拒む気持ちは理解できた。


 しかし、俺はこの同盟を成立させなければならない。

 そのための〝悪魔のような策〟を思いついていた。


 首脳会談の場所が勇者トシヒコのハーレムだったことは、俺にとっては幸運だった。


「ヒナちゃんさん。勇者自治区がこの同盟に参加してくれたら、ロンレアからは再生医療技術を提供しよう」


「…………」


 召喚士エルマと人体に精通した錬金術師アンナ・ハイム、そして天才回復少女のネンちゃん。

 この三人の技を組み合わせると、この世界の回復魔法のルールを捻じ曲げることができる。


 ここにいる女性たちの肉体の復元。

 それを外交の俎上にのせるのはよくないが、俺にためらいはない。


 今度も空爆でも、回復魔法では治せない人たちが出ている。


 ヒナはずっとあごに手をあてながら、何度も大きく息を吐いた。


「……再生医療技術。ヒナが絶対に断れない条件を出してきたわね。この場所の意味を一瞬で理解して、あなたという人は本当に、狡猾」


 そして彼女は少し責めるような目で俺を見た。


 勇者トシヒコのハーレムは、肉体が欠損した女性たちの隔離施設だ。

 

 俺は今日はじめてここに来て、すれ違っただけだけど、分かった。

 人権意識の希薄なこの世界で、障害を負った居場所は限られてしまう。


 勇者トシヒコは、彼女らを妻として、保護していたのだろう。

 ヒナにはそのことを知らせなかった。

 たぶん男女平等とか、ややこしい意見の対立を避けるためなのかもしれない。


「……勇者自治区としては、断る理由はない」


 ヒナは唇を噛んだまま、キッと俺を見つめていた。


「でも、現実問題……。法王庁との同盟なんて……。そんな都合よくいくの? ヒナは可能とは思えない」


 とはいえ普通に考えたら、法王庁を巻き込んだ大連立同盟なんて絵空事だ。


 盟主として法王庁を抱き込むことで、異世界間対立という構図をぼかす。

 俺だって実現できる確証はないが、打てる手は打つしかない。


「キーマンになる奴がいる。さっき言った、俺の〝ズッ友〟で、法王ラーの側近中の側近、ジュントス・ミヒャエラ・バルド・コッパイ卿だ」


「コッパイ公爵家の。でも、いい噂を聞かない家よね。直行くんとそこまで信頼関係できてる根拠は?」


 当然、法王庁のジュントスは替え玉で、コッパイ家と隠蔽工作の話をつけたなんて言えるはずもない。


「できる。男同士の理屈を超えた友情。一緒に飯を食べて風呂にも入ったし」


 俺の適当な答えに、一瞬、ヒナの顔が青ざめた。


 ひょっとしたら一部でささやかれている、俺が〝男もいける口〟だという噂を耳にしているのかもしれない。


「いや、()()()()()()ではなくて。彼は義理堅くて、経験への開放性がとても高い」


()()()()()()()ですって!」


 さらにヒナの目が〝危険なものでも見るように〟変化していく。


「……知的好奇心の高さとか新しいものに抵抗感がないとか、性格診断ビッグファイブの……」


「……ふーん」


 ヒナは冷え切ったまなざしを、故意に俺からそらした。

 何だか妙な話の流れになってしまった。


 しかしここは駆け引きの勝負どころだった。

 俺は牽制球を投げるように、別の角度に話題をずらす。


「ただね。ハッキリ言うと、ジュントスはヒナちゃんとは相容れない人物だと思う」


「え? 直行くんが“信頼できる”と断言しておきながら、ヒナとは相容れない? セクシュアリティの問題は置いておくとして、奴隷制度の推奨者とか……?」


 ヒナが眉をひそめる。

 話題を逸らしたことで、おかしな空気は払しょくできた。


「いや……。そうじゃなくて」


 と、思いきや、話は予想外の方向に転がってしまった。


「そうじゃないけど、ヒナちゃんさんから見た場合、女性観というか……昭和のおっさん入ってるかも。いや絶対に悪い奴じゃないんだ。信頼できるんだけど……」


 俺は慌てて言いつくろった。


「待って。その彼氏、女性蔑視の考えを持っているの?」


 しかしヒナは眉を寄せ、険しい表情で首を傾げた。


「いや、女性に関してはむしろ大好きなやつだよ、ジュントスは」


「…………」


 会話が止まってしまった。

 気まずい沈黙が訪れた。 


 俺も、ヒナの誤解をどう解いていいか分からなくなってしまった。

 何度かとりつくろおうと試みるも、適当な言葉が思いつかない。


 そのときだった。


挿絵(By みてみん)


「ヒナちゃん! 負傷者を救助したよー」


「ヒナっち! 回復よろしく!」


 上空から小夜子とミウラサキがあらわれた。

 大きな瓦礫に負傷者を乗せて、それを神輿のように担いで空を飛んできたのだ。


 小夜子は覚醒させた特殊能力、ピンク色の障壁で瓦礫と負傷者を包み、運んでいるのだ。

 

 あまりにも無茶な様子に、俺は言葉を失った。


次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「社長♪ 今日ご紹介する商品は♪」


直行「こんにちは。今日ご紹介する商品はこちら。でーぶいでープレイヤーのついたポータブルテレビ」


エルマ「うわァー♪ すっッごーい♪ 社長、コレ本当にテレビなんですか♪」


直行「大迫力の7インチで、しーでーも聴くことができて、さらにテレビを録画し、しーでーも録音できます」


知里「アンタたち何やってんのよ夫婦して」


エルマ「絵馬グループとしてテレビでシニア向けの通販事業に参入しようと思いましてね♪」


小夜子「でもテレビ7インチって小さくない? ウチのブラウン管テレビだって19インチあるわよ」


直行「税込み1万円でのご紹介です(おひとり様2台まで)」


エルマ「安い♪ 安い♪ 安ぅゥぅぅい♪」


直行「次回の更新は5月26日を予定しています。『新規事業! 地獄の絵馬グループの闇』お楽しみに」

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