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637話・危うし! ロンレア領

 量産型魔王が放った主砲=極太の電磁波が、一瞬で法王庁の森を焼き払った。


 レモリーは自身を光の粒子に変え、いち早く回避しているが、力の差は歴然だ。


「あんな攻撃を受けたら……ひとたまりもない」


 しかしサナ・リーペンスの魂を宿した量産型魔王は、追撃する様子もなく一路南へ向かった。


 ──応戦するフリをしながら、ロンレア領をめざしているのか……。


挿絵(By みてみん)


 一方、サナも満身創痍ではあった。


「あの鬼畜。とんでもねえ毒素をぶち込みやがって……! 解毒が追いつきゃしない」


 彼女は忌々しそうな声で毒づいた。

 エルマの毒が量産型魔王の肉体を蝕み、肉片がこぼれ落ちている。


 こちらの攻撃も効いてはいるのだ。


 錬金術師サナが体内で解毒を試みているのか、エルマの“とってもよくない”毒薬も、一体目ほどには効いていない。

 

 この場にエルマもアンナもいない以上、毒薬の連続投下は難しい。


 そうなると、こちらの攻撃手段はレモリーの精霊魔法と“鵺”の電撃のみ。

 ダメージは与えられても、敵があまりにも巨大なため、倒しきれない。


 このままでは、敵も味方もじりじりと消耗していく……。

 そんな状態だった。


「……ちくしょう、気持ち悪いよう……。この肉体は持たないし、どうせワタシは粛清される……。だったら一人でも多くのニンゲンを巻き添えにしてやるからな! 恥知らずども! 後悔しろよ」


 捨て鉢のサナは、そうつぶやきながら、飛び続けた。

 

 わざわざ俺たちに聞こえるようにしているということは、また何かの罠か──?


 しかしロンレア領が標的である以上は捨て置けない。

 俺たちとしては、そうなる前に撃墜させたい。


「総攻撃だ! 畳みかけるぞレモリー!」


「はい!」


 俺たちは再度、最大火力での攻撃を試みた。


 爆炎と電撃が周囲の空を染め上げ、轟音とともに雷鳴が魔王を直撃する。


 しかしドルイドモードのレモリーと〝鵺〟の全力をもってしても、巨大な敵は落とせなかった。 


「止まれ! 交渉の余地はないか? サナ・リーペンス!」


 総攻撃から一転、俺は交渉を持ちかけた。


「このままじゃお互いジリ貧だ。粛清されるっていうのなら、こちらは聞く耳は持つぞ?」


「……」


 しかし、彼女は一方的に言っただけで、こちらからの提案には答えなかった。


 向かう先はロンレア領。


 あの破壊力の前では、俺たちの帰る場所も焼き払われてしまう。


 討伐も交渉もできないならば、せめてロンレア領に襲撃を知らせる必要があった。


「通信は……ダメか」


 俺は通信機を取り出してみたが、現在の距離では電波が届かない。

 

「私が光と化して先行し、住民に避難を呼びかけましょう」


 レモリーはそう提案するが、俺は首を横に振った。


「いや、俺が〝鵺〟で行く。レモリーは可能な限りコイツの進軍速度を遅らせること。ドルイドモードのタイムリミットが来たらすぐに合流。最重要な局面はこの後に来る。無理をするな」


 俺の能力では足止めは不可能。なら伝令役と避難誘導役を務める。


 同時に幽体離脱したレモリーの肉体を守りつつ、退避場所を確保。


 レモリーは魔王の足止めをし、危なくなったら俺と合流。


 現状、それが最適案だと判断する。


「はい。承知いたしました!」


 彼女も俺の策を承知してくれたようで、強く頷いた。

 そして俺たちはハグと口づけをして別れた。


 ◇ ◆ ◇


 俺はレモリーの肉体を抱きかかえつつ、一路ロンレア領へと鵺を飛ばす。


 彼女が量産型魔王を足止めさせている隙に、距離を稼ぐ。

 鵺のたてがみと手綱に必死でしがみつき、振り落とされないようにバランスをとりながら急いだ。


 やがて見えたロンレア領。


 緑豊かな田園風景と、元気いっぱいに牧草地に広がる家畜たち。

 収穫の時を待っていた色とりどりの果樹や野菜たち。

 湖には牡蠣やエビの養殖プラントが立ち並ぶ。

 

 俺たち4500人の住民が皆で汗を流して作り上げてきたものだ。 


 異世界の魔法文明と現代の技術を融合させた、新しい文明。


 勇者自治区とはまた違う方向で歩み始めたばかりだった。


 いま俺が見ている景色は、数時間には焼け野原となる可能性が高い。


 築き上げたものが、完成直前で霧散する。

 またしても、これだ。


 俺の人生はずっとそんなことの繰り返しだった。

 だが、絶望している暇はない。


 俺は通信機を強く握りしめ、めいっぱい声を張り上げた。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


小夜子「ねえ知里! ビスケットとクッキーの違いって知ってる?」


知里「さあ……」


小夜子「糖分と脂肪分が40%で手作り風のモノがビスケット! そうでないのがクッキーなんですって!」


直行「それ日本だけの基準なんだよな。アメリカだと、日本のビスケットもクッキー呼びらしい。ビスケットはクイックブレットのことを言うんだとか」


知里「ややこしいわねえ」


エルマ「サブレやスコーンやマッパえびせんは♪」


直行「ひとつ変なのが混ざってたぞエルマよ」


エルマ「美味しく食べればどれも一緒ですわ♪ 次回の更新は4月19日を予定しています♪」

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