628話・起死回生! ドルイドモード発現
「まさかレモリー。それ、ドルイドモード……か?」
俺は彼女の“変身”に息をのんだ。
現在レモリーは金色の髪が白く揺らめき、深紫の瞳で別人のように変わっている。
勇者トシヒコが法王と戦ったときに見せた〝最奥の技〟。
トシヒコのように身体に呪術的な紋様こそ刻まれていないが、ドルイドモードに間違いなかった。
自らを精霊と同化して肉体を流動化し、物理攻撃、魔法攻撃をも無効化する究極技だ。
「何だ、いきなり裸になったと思ったら、お前の肉体……!」
サナ・リーペンスの表情が凍りついた。
ドルイドモードは自身を自然元素にまで変換する。
火、水、風、土……。
自らの肉体と自然現象を同化させて、攻防一致、変幻自在の攻撃を繰り出す。
「直行さまに深手を負わせてしまったこと、守って差し上げられなかったこと、悔やんでおります」
レモリーは申し訳なさそうに呟くと、俺を背後からそっと抱きしめ、半透明な自身の体と重ね合わせた。
すると、俺を拘束していた足元の床が溶け出し、元の床に戻った。
そして母親が幼子にするように俺のズボンを上げて元に戻すと、触れるだけの口づけをした。
「レモリー、ドルイドモード。いつの間にそんな技を──」
しかし、勇者の〝最奥〟の技を、同じドルイド出身だとしても、レモリーがいつの間に使えるようになったのか──?
「いいえ直行さま」
そんな俺の疑問に対して、レモリーは悲しそうに答えた。
「……ドルイドの祭祀では生贄が供べられます。トシヒコ様は反魂の術式を自らの肉体に刻み込むことで制御していましたが、私は単なる供物として精霊に身を預けたので、長くは持ちません……」
「えっ……どういう?」
聞き返そうとした俺を指で制して、レモリーは後ろから迫るサナの触手を弾き飛ばした。
金属と化したレモリーの腕が、鋭利なサナの刃を叩き割った。
「直行さま。とつぜんのお別れをどうかお許しください」
「レモリー、ちょっと待て……」
俺に対する優しい口調とは裏腹に、自らの肉体を電撃と変えてサナの肉体を焼くレモリー。
「アぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
容赦のない電撃攻撃に、サナは断片的な悲鳴を上げ、苦痛にのたうち回る。
黒い煙と肉が焦げる臭いが、艦内に充満していく。
「汚い空気を直行さまに吸わせて申し訳ありません」
床を転がり回るサナに、レモリーは水と同化した腕を突き刺し、文字通り冷や水を浴びせかけた。
さらに自身の長い髪を風に変換させて、黒い煙と焦げた臭いをはじき出していった。
「直行さま、お慕い申しております」
レモリーは容赦のない攻撃をサナに浴びせ続けながら、時折思い出したように俺に微笑みかけた。
「あばばばば……このっ! 腐れ情婦がァァ!!」
黒焦げの焼死体のようになっていたサナ・リーペンスが自身の体をかきむしると、焦げた肉体が剥がれ落ち、新たな肉体が再生されていく。
サナの肉体はピンク色の皮下組織が剥き出しになり、みるみる皮膚が再生されていく。
「肉体再生ッ。道を外れた錬金術師はやることが一緒で気に食わんなッ」
アンナはその様子を苦笑いを浮かべながら凝視していた。
「好奇心は身を滅ぼしますよ、先輩!」
その隙をついたサナが触手を伸ばし、アンナの首を絞め上げる。
“先輩には手を出さない”と言っておきながら、人質に取るつもりだった。
しかし、その算段はすでにレモリーに読まれていた。
彼女は炎と化してアンナとサナとの間に割って入ると、触手のような髪を焼き払った。
「助かったッ」
アンナは謝意を示しながら、床に落ちたラッパ型のマイクを拾った。
「アーッ……聞いているかエルマ嬢ッ! 状況を手短に言うッ! レモリーが“ドルイドモード”に変身したッ! “七福人”サナを圧倒しているが、量産型魔王二体と戦えるかは未知数だッ」
アンナが外のエルマと情報を共有している最中、俺はスフィスの元に走って、縫いつけられた髪を彼の小型剣で切り裂いた。
「かたじけない! 直行どの!」
解放されたスフィスは即座に風穴の開いた手で矢をつがえ、弓を引き絞る。
痛みをこらえ、血しぶきと共に放たれた矢はサナの左目を射抜いた。
「クソどもが皆殺しだ!」
矢じりを引き抜いたサナが、髪を振り乱しながら絶叫する。
幾多の髪の毛が針と化し、乱れ撃ちのようにそこかしこに放たれた。
「いいえ。半狂乱の愚か者ごときに、遅れなどは取りません」
レモリーがそう言うや、自身の腕を炎に変え、針を焼き払う。
そして自らを一陣の風に変化させ、俺とスフィスとアンナを包み、後方のデッキへと退避させていった。
「外のガキを潰せェ!」
俺たちを仕留めきれないと踏んだサナは、量産型魔王に命じて外のエルマに主砲を放った。
またも艦内が鳴動して、真っ黄色な光の渦で視界が覆われた。
「いけない!」
レモリーは自身を光に変身させてエルマの元へ向かった。
「かかった! 厄介なのが消えた隙に! こっちを皆殺しだ!」
量産型魔王の主砲は、レモリーと俺たちを引き離すための陽動だった。
再度、襲いかかる無数の刃──。
俺は、スキル結晶『回避+3』を発動させて、どうにか初撃を避けたものの、斬撃の波は絶え間なく俺たちの命を狩りにきている。
次回予告
※本編とはまったく関係ありません。
エルマ「今日は皆さんとセイゼリヤにやってきましたわ♪」
小夜子「わたしの時代は“すいからーく”が有名だったわ」
知里「あたしセイぜ初めてかも。ミラノ風ドリアと100円のグラスワインが有名だよね」
直行「俺は高校の頃よく部活で利用したな。『毎日おいしく、毎日うれしい!』」
エルマ「それは『ロリープの丘』ですわ♪」
知里「へえ。タッチパネルじゃなくて頼みたい商品番号を紙に書くんだね」
エルマ「プリン♪ ティラミス♪」
直行「おお、エスカルゴにバッファローモッツァレラ、ハモンセラーノもあるのか。しかし誰だよマグナムボトル三本も頼んだのは。……あ、俺と知里さんか」
知里「マグナムボトル1100円ってヤバくね? 飲み切れなかったら持ち帰ってもいいし」
エルマ「あれ? あたくしのプリンとティラミスが来ませんわ」
知里「番号間違えたんじゃね?」
エルマ「そんなことありませんわ♪ 206、10634って入れましたわ♪」
直行「語呂合わせじゃ商品頼めないだろ。次回の更新は3月5日を予定しています。9649」




