627話・空中要塞ザックメドバースにて
「主砲放っちゃえー!」
サナの号令と共に、歯の奥がきしむような地響きがして、すさまじい轟音が響き渡る。
それと同時に外の景色が真っ黄色になるほどの光の粒子が広がっていった。
エルマを始末すると、言っていたが──。
奴は無事か──?
俺は窓の外に目を凝らしてみるが、今度は視界が真っ白に変わり、外の様子がうかがえない。
「っけんな!」
そんな中でサナが舌打ちと共に苦々しい声を上げた。
空中戦艦の研究室のモニタから見える外の景色には、原型を留めないほど粉々になった飛空艇の部品が落ちていく様子が見えた。
エルマは〝鵺〟の頭に乗り、飛空艇を盾にすることで直撃を防いだようだ。
「…………ふーん」
その様子を見て、サナは何かを考え込んでいる様子だったが、ふと思いついた様子でラッパのような装置を手に取った。
「ピーガガ……ガガ」
ノイズと耳をつんざくハウリング音がして、サナの甲高い声が艦の内外に響き渡った。
「あーあー、鬼畜令嬢に告ぐ! ロンレアの“恥知らず”一行は人質にとった。投降するなら命の保証はしてやる。繰り返す……」
ラッパ型をした艦内の連絡用マイクが、大音量で外にまでサナの声をとどろかせた。
「……♪」
それに対し、外にいるエルマは静止し、指で誰かを呼ぶそぶりを見せた。
まるで知里がどこかに隠れていると思わせるような、ハッタリだ。
「……なーるー。でも! この場にクソ猫ちゃんはいない! ダウトだろ! 鬼畜ちゃんの防御行動で分かったよ」
俺たちの〝実は知里さんが伏兵で隠れてますと思わせる〟策は、サナに読まれてしまっていた。
こうなると、単純に戦力差がバレてしまった状況だ。
「……まずいな」
しかも、一瞬で状況をひっくり返された挙句、俺は両足を拘束されて人質状態。
サナは「俺を人質を取る」ことでレモリーとスフィスをダストシュートの上に追い込んでいる。
偽りの全面降伏で時間を稼ぎ、起動された二体の量産型魔王。
あの知里でも苦戦した敵が二体。
外のエルマは、鵺を持っているが、まともに戦えるとも思えない。
どう考えても勝ち目がない。
「……っ!」
勝ち誇ったサナの不意を突いて、スフィスが短刀を投げつけようとしたが、彼女の触手のような髪の毛に阻まれた。
「エルフは実験材料だからむやみに殺さないけどねー」
サナは口元をゆがめながら、触手のような髪の毛をスフィスに伸ばした。
「!!」
苦痛に顔をゆがめるスフィス。
彼の手のひらを触手が貫通し、針金のような髪を、その辺にある計器に縫いつけたのだ。
からめ手に次ぐからめ手。
この戦いともいえない狡猾な攻防戦は、終始サナのペースで進められた。
万事休す──。
形勢逆転され、俺たちは寝技をかけられたように身動きが取れない状況──。
「クソ猫がいるかと思って用心して損したー。男の靴舐めて超きったねぇの!」
サナは勝手に思い出してキレだし、俺の下腹部に蹴りを入れた。
「うぐっ!」
俺は涙目で悶絶した。
両足を固定されているため、衝撃が逃げずに腹部と両足に重くのしかかる。
「直行さま!」
ただひとつ幸いだったのが、サナの脚力が超人的なものではなく、一般的な女性のものだったことだ。
一蹴で欠損したりとか、超人的な破壊力ではない。
しかし、股間を何度も蹴られ、その都度意識が飛ぶ。
まともに呼吸もできず、両足を固定されているため、倒れることもできずに俺はされるがままになった。
すでに全身はアザだらけだろう。
「よくも直行さまを!!」
激高したレモリーが飛び掛かるが、サナの刃と化した髪に肩口を貫かれ、壁に縫いつけられた。
サナ・リーペンスの戦闘力は決して低くはない。
こちらに知里がいると思っていたから、力を出さなかったに過ぎない。
強いものにはへりくだり、弱いものには強く出るタイプの狡猾な戦闘巧者だ。
当初の全面降伏があったため、完全にサナ・リーペンスの実力を過小評価してしまった俺たちは、終始彼女のペースでいたぶられる一方となった。
「いい加減にしろッ!」
そうした中で一人自由にされたアンナだったが、暴れるそぶりを見せたとたんに、触手のような髪に全身を絡めとられ、身動きが取れない状態にされた。
「先輩は殺しません。たぶん仲良くなれると思うんで、仲良くしましょう。愛し合うのもいいですよね」
サナはそう言って大笑した。
その言動はあまりにも突拍子もなく、理解の範囲を超えている。
さすがのアンナも反論も苦笑いを浮かべることもなく、ドン引きしていた。
「さーて、女で成り上がった恥知らず! 女にいたぶられる気分はどう!」
次いでサナの興味は俺に戻り、嬉々として俺の体を殴り、蹴り、引っ掻いていく。
「法王庁の女騎士や女賢者ヒナ・メルトエヴァレンスとその母親も手籠めにしたご立派な一物を! 使い物にならなくしてやる!」
身動きの取れない俺は、サナに体中を引っ掻き回された挙句、さらにズボンを下ろされた。
「タマタマちょん切って去勢なー。宦官にして後宮にはべらせてやる!」
サナの髪が再度鋭利な刃へと形を変え、俺の股間に忍び寄る。
そのときだった。
「いいえ破廉恥者! 直行さまから離れなさい!」
はりつけにされていたはずのレモリーが、サナの背後を取った。
そして髪の毛を掴んだかと思うと勢いよく引っ張り、そのまま壁に叩きつけた。
レモリーの姿が変わっていたのに気づいたのは、その直後だった。
どういうわけか裸のようだが、後ろの景色が透けている。
真っ白な髪になり、瞳も燃えるような赤色に変わっていた。
確かその姿は勇者トシヒコが見せたドルイドモードに酷似している。
ただ、トシヒコの肉体にあったトライバルタトゥーのような文様は彼女にはなかったが──。
勇者トシヒコは確か、その姿を「ドルイドモード」と呼んでいた。
次回予告
※本編とはまったく関係ありません。
エルマ「知里さん、映画『ハイキュー! ゴミ捨て場の決戦』観に行ったんですか?」
知里「まあね。面白かったよ。音駒のジャージを着て鑑賞してたガチのファンの女子高生がキャラの等身大パネルで記念撮影してたり」
直行「孤爪研磨だっけ? 知里さんとちょっとキャラ被ってないか?」
知里「猫とゲーム好きだけど、あたしプリン頭じゃないし脱力系でもない」
エルマ「知里さんも金髪にしたらどうですか♪」
知里「遠慮しとくよ」
直行「そういや、ハイキューはキャラの人気投票がバラけるのが有名だけど、公式では二回しかやってないんだよな確か」
エルマ「さて次回の更新は3月1日を予定しています『キャラ人気投票発表!』直行さんは何位ですかね♪」
直行「……俺に振るなよ」




