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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
七福人ネオ・ゴダイヴァとの戦い
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625話・サナ・リーベンスという女2

 ガスマスクをとって正体を現した〝七福人〟ネオ・ゴダイヴァことサナ・リーペンス。


 吊り目の美人だが常に口元をゆがませた、癖のある表情だ。


「スペクターによる奇襲。次いで、まさかたったこれだけの人数で突撃してくるとはねー」


 俺はその顔に、間違いなく見覚えがあった。

 花火大会のときに食べ物を小夜子に投げつけてバカにしていた女だ。


「ワタシの空中要塞ザックメドバースの弱点を完全に読み切っていたってこと? 心が読めるクソ猫女の指図? それともアンナ先輩の慧眼(けいがん)ってこと?」


「答える必要はないッ」


 実際にはこの作戦の立案者はエルマなのだが、アンナの言う通りわざわざ説明する必要はないだろう。


 それにしても、少し気になることがある。


 サナは錬金術師アンナを〝先輩〟と呼んでいた。

 俺は確認を求めるようにアンナの方を振り返る。


「アンナの後輩……?」


「……間違いなくリーペンス家のサナだッ。錬金術師の家系でも名門のなッ。しかし、周囲から『転生者ではないか?』という疑惑が持たれて処刑されたはずッ。先代の法王の時代にッ……」


 アンナは忌々しそうに言った。


 それがサナ本人に対しての嫌悪感か、異界人嫌いの苛烈な法王として知られる先代(ラーの前)の法王に対するものなのかは定かではない。


「ちょっと先輩! 勝手に殺さないで下さいよー。確かにワタシ転生者を疑われましたけど、前世の記憶がなかったので処刑は免れたんですー」


 通路の向こうにいるサナが、駄々っ子のように足を踏み鳴らした。


「……フンッ。それで名前を変えて“七福人”となったわけかッ……」


 アンナは言葉を飲み込み、それ以上何かを尋ねることはなかった。


 一方、“ネオ・ゴダイヴァ”ことサナ・リーベンスは意味ありげに俺に視線を送ってきた。


「……ねえ“恥知らずの(キミ)”は、異界人でしょう? お願いがあ・る・の……。ワタシの記憶がどうやったら戻るか、協力してくれないかなあー?」


 サナからの、予想だにしなかった降伏と協力要請に俺は少し面食らっていた。


 彼女も現代日本からの転生者……だと?


 悩殺ポーズと甘えた口調に戸惑うものの、我を忘れてはいけない。

 レモリーとスフィスの厳しい視線が示すように、相手はエルフの里を滅ぼしている。


 俺たちに問答無用で爆撃して、艦内の少年少女に非道な人体実験も繰り返している。


「……残念だけど、転生者だからといって、非道な行いを見過ごすわけにはいかない」


 交渉の余地を残すべきかとも思ったが、故郷を滅ぼされたスフィスの手前、甘い顔は見せられない。


 年端もいかない子供たちへの人体改造といい、“七福人”ネオ・ゴダイヴァのやったことは、いくら何でも目に余る。


「じゃあさ! エルフの人質を解放する、という条件をつけたら、考えてくれる?」


「……スフィス。話だけでも聞いてみるか、どうする?」


「罠の可能性が高いが……」 


 スフィス同様、俺もサナを信用してはいない。


 ただ、全面降伏を申し出た相手を問答無用で倒す気にもなれなかった。

 俺たちは最大級の警戒をしながら、サナ・リーベンスの案内に従った。


 ◆ ◇ ◆


挿絵(By みてみん)


「ここがワタシのアトリエだよー」


「……!!」


 通された研究室に入ると、わが目を疑った。


 アンナのところも大概だが、こちらはさらに輪をかけて悪趣味だ。

 

 巨大なクリアケースに入れられ、怪しげな培養液に漬けられている人体。

 若い男女のものや、妊婦や胎児のものまである。


 生きているかのような五体満足のものから、無惨に切断されたり内臓だけを展示されたものまで多種多様な人体がこれでもかと並べられている姿には血の気が引いた。


「……ふうむッ」 

 

 いちいち感心しているアンナは置いておいて、俺は気分が悪くなってきた。


「直行さま。顔色が悪いですが大丈夫ですか……」


 レモリーは俺を案じてくれているが、本人も少し動揺しているようだ。

 先行させたスペクターの視界を共有しているエルマからは何の言葉もなかった。


 一方、スフィスは明らかに怒っていた。

 

「わが同胞たちにもこのようなことをしたのではあるまいな!」


 彼はすでに臨戦態勢で、腰に差した小型剣に手をかけ、険しい表情でサナを睨みつけている。


 矢をつがえるのではなく、飛びかかっての近接戦闘に持ち込むつもりか──。


 確かに、万が一矢が外れてクリアケースに当たったら、謎の培養液が流れ出てしまう。

 そして中に陳列されている人体も、エルフの可能性はある。


「スフィス。早まるな。まずはエルフたちの安否を確認しよう」


 俺はいきり立つスフィスを遮り、サナに声をかけた。


「ネオ・ゴダイヴァ? サナ・リーベンス? どっちだっていいけど、俺たちが降伏を受け入れるかどうかはエルフ族の安否いかんになる」  


「ええー。無事は無事ですよー。ワタシは不老の研究で、エルフの細胞を採取させてもらっただけですから」


 サナはそう言ったが、ホルマリン漬けのような人体標本の中に、耳が長い種族は確認できなかった。

 内臓や脳だけ取り出されたものが、エルフだとは当然分からないのだが──。


「エルフの生存が確認できない以上、交渉はできない」


 非人道的なことを行っている者に対し、毅然とした態度をとる。

 相手が切れる可能性もあるし難しいけど、俺は静かに言い放った。


 法律で裁けないならなおさら、譲れないものを示さないといけない。


 相手が嘘をついている可能性は十分に考えられる。

 知里がいてくれたら、どれほど楽だったろう──。


 そんなことを思っていたら、サナ・リーペンスは予想外の行動に出た。


「ゴメンなさーい! 何人か犠牲にしました。でも生存者もいまーす。心を入れ替えて投降するので、どうか命ばかりはお助け下さーい!」


 床に頭をこすりつけての土下座だった。


 異世界に土下座という風習があるのか、転生者としての記憶なのかは分からない。


 〝七福人〟サナ・リーペンスは卑屈に地面に這い、あろうことか俺たちの靴まで舐めはじめた。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「直行さんチョコいかがですか♪」


直行「半額シール……じゃなくて75%オフだと!」


エルマ「バレンタインもすたれたもんですわねー♪」


知里「若者の恋愛離れっていうか、義理チョコも面倒くさいからね」


小夜子「寂しい時代になったものね」


エルマ「チョコが75%オフでも、児童労働者の賃金はもっと低いでしょうね♪」


直行「♪をつけていうな」


エルマ「さて次回の更新は2月23日を予定していますわ♪ 『エルマと激安カカオ農園』お楽しみに♪」


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