621話・ふたつの太陽、手がかりを探せ
──スフィスの元に届いたという救援要請の手紙は、俺たちをおびき寄せるための罠だった──?
その真偽を確かめるよりも早く、「是非に及ばない」と血相を変えたエルマによる緊急回避術──。
レモリーが土と風の精霊を使役して、砂埃を巻き上げる。
荒野で精霊力が乱れている場所ということもあって、中途半端なカモフラージュだが、ピンポイントで狙撃される確率はグッと落ちたはずだ。
「皆さんコンテナに退避しましたわね♪」
砂埃で視界が遮られている中、エルマが空中に魔方陣を描き出した。
「いきますわよ♪ 舌を噛まないように♪ 衝撃に備えてくださいね♪」
さらにそれを『複製』能力で地面にコピー。
俺には何が起こっているのか分からなかったが、歯を食いしばって衝撃に備えた。
…………。
「シン・エルマの名において♪ 華麗なる退避ですわ♪」
奴の両腕から2つの魔方陣が描き出され、コンテナが光に包まれた。
同時に大地が鳴動しているのを感じた。
「……んな?」
そして気づくと俺たちの入ったコンテナは、真っ暗な闇の中に閉ざされていた。
「ここは……地中かッ?」
「空間転移魔法で、客車ごと地中に沈めたのか……」
愕然としているアンナとスフィスと3人で顔を見合わせ、首をかしげる。
「レモリー♪ 頭上の砂を石に変えなさい♪ 即席のシェルターを作りますわ♪」
「はい。お嬢様!」
エルマが放った魔法は、召喚術と空間転移魔法を組み合わせた、瞬時にトンネルを掘る能力。
それに、レモリーが土の精霊術で砂粒を硬化させることで、岩盤を作る。
それはロンレア領防衛のために準備していた、シェルターの技術を応用したものだ──。
──間一髪だった。
それから物の数秒もしないうちに、頭上では雷が落ちたような轟音が響き渡り、激しい衝撃が伝わってくる。
「はい。上からの攻撃です。……ですが、敵影はどこにもありません」
風の精霊と視界を共有しているレモリーが状況を説明してくれた。
「姿なき狙撃手が、我々が地上に降りたところを狙撃してきたのか……?」
自身も射手であるスフィスは、腕を組みながら上を見た。
地中に潜ったコンテナのため、天井があるだけで、外の様子は彼にも分からないはずだが、俺も無意識に上を見上げていた。
俺たちのコンテナがあるのは地中だが、上からは轟音と、震度3くらいの揺れが続いている。
「……にしても、ミサイル級の大掛かりな攻撃だ」
「はい……。知里さまやヒナさま級の魔導士でもなければ、不可能な攻撃でしょう」
「だとしたら……敵は“七福人”か……?」
“七福人”は、勇者トシヒコやヒナに対抗するために組織されたチート部隊だと聞いている。
第一次ロンレア侵攻の指揮官だった異形の将軍、スーパーマハーカーラ(ジュントスが成りすましたコッパイ家の6男……)
花火大会でも、俺たちとは少しだけ接点をもったメンバーもいる。
エルマの顔面を蹴り上げ前歯を折った中国鎧の男、ネオ霍去病。
知里と激闘を繰り広げていた騎士と魔導士と半裸の荒くれ男──。
俺たちが知るのはこの4人だが、彼らを含めた誰かが、俺たちを騙し討ちにしようと救援要請を出した──?
「でもわざわざ敵の主力が俺たちをおびき出して騙し討ちなど……」
「直行さま。ひとつ気になることがあるのですが……」
不意にレモリーが声をかけてきた。
彼女だけがいま、風の精霊と視界を共有し、外の世界を見ることができる。
「気になること?」
「はい。……太陽が2つ見えるのです……」
レモリーはそう言うと、火の精霊を2つ出して位置関係を示した。
俺たちのいる地上の真上と、やや西に傾いたところに太陽が2つ。
現在は昼過ぎだから太陽は中空からやや西に傾いていなければならない。
「なあレモリー、それ本当に太陽なのか? 宙に浮かんだ魔力砲台とかそういうのじゃ……」
「いいえ。見たままを言っています。間違いなく、ふたつの太陽です」
俺はひと昔前のマンガなどであった、人工衛星っぽい空中砲台から射撃するものを想像して言ったが、レモリーはそうではないという。
文字通り、2つの太陽……?
「……ええいッ! 私にも視界が共有できないかッ」
錬金術師アンナがもどかしそうに髪の毛をかきむしった。
「……なるほど♪」
一方、エルマは持参したマナポーションを一気に飲み干すと、何やらほくそ笑んでいる。
奴は何かをつかんだようで、一人うんうんと頷いて納得しているようだ。
「何か分かったのか? エルマよ」
「鏡ですよ直行さん♪ ローテク光学迷彩ですわ♪」
エルマがざっくりと説明するところによると、敵は鏡のようなもので、周囲と同化しているという。
そういえばマナポーション密貿易の際でのワイバーン戦で、エルマも外套でやっていたな……。
「あたくしに必勝の策がありますわ♪」
エルマはそう言って、高らかに笑った。
次回予告
※本編とはまったく関係ありません。
エルマ「このお話がアップロードされたのは2月3日♪ 節分ですわー♪」
小夜子「鬼はー外! 福はー内!」
知里「前にもやった次回予告ネタだよね。お嬢がたくさん福豆食べたがってね」
エルマ「年の数だけ食べるから前世の分もカウントして♪」
直行「どうでもいいけど、前世の前世からカウントしたら何個食べりゃいいんだ」
エルマ「次回の更新は2月5日を予定しています♪ 『前前前世から福豆250個♪』」
知里「うわー懐かしいネタ来たね」




