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618話・時給800ゼニルの法王

「…………」


 エルフの村へ行く出立の朝、飛び込んできた大ニュースに俺は固まってしまった。


「……直行さま? エルフの村落への外遊、中止になさいますか?」


「……あ、いや。行く……ただ、うーん……」


 生返事をしながら、俺はスマートフォンから目が離せなかった。

 神田治いぶきが書簡に忍ばせた記録媒体に録画された動画に、先の法王ラー・スノールと一緒に写っている。


「……いぶきからの手紙にはクロノ王国で清掃業を開業したってことしか書かれてなかったけど、この動画は……」


 書簡には、いぶきがクロノ王国でごみ収集会社を開業した旨がザックリと記されていただけだ。

 クロノに検閲されても問題ない、ただそれだけの内容だ。


 重要な情報は、記録媒体に動画として残されていた。


 俺はスマートフォンを操作して、もう一度動画を再生させた。

 すると錬金術師アンナが飛びついてくる。


「おいッ! 何で法王が小さな箱の中にいるッ? これはどういう仕組みだッ! 魔法かッ? 幻視なのかッ? どんな理屈だッ? 分解させろッ!」


「アンナ女史落ち着いてください♪」


 スマートフォンを奪い取ろうとする錬金術師アンナを、エルマが召喚したコボルトが羽交い絞めにする。


「女史にはあちらで手伝ってもらいたいことがございますの♪」


 いぶきの動画に食いついて収拾がつかなくなったアンナを引き離し、エルマは何か仕事を頼んだようだった。


 それにしても、神田治いぶき……。


 俺がこの世界で成り上がるキッカケとなった、最初の取り引き相手だった。

 ヒナによってこの世界に召喚された現代人で、そこそこ名の知られた学生ベンチャー起業家だという。


 勇者自治区では諜報活動を担っていた。


 ところが、彼は見かけによらず、野心家でさらに言動が好戦的で乱暴であることから勇者トシヒコに二重スパイだと疑われ、粛清されそうになっていた。


 そこを俺が匿い、三重スパイとしてクロノ王国に送り込んだ……のだが、どうしてラーと一緒なのか。

 

 いぶきが送ってきた動画の音声からは、いくつかの情報が分かった。


「今度雇った新入りのクロース君。とりま超使えるんですよ。時給800ゼニルなんてコスパ良すぎです」


 いぶきの自撮り動画には、調子のいい解説と共に産業廃棄物を仕分けするラーを褒めている。

 クロースと名乗っているようだが……。


 しかし時給800ゼニルって……。


 いぶきの奴は、諜報活動をやっているのに法王の顔も知らないのか、それとも知ってて黙っているのか、それも分からない。


「……彼、腹違いの弟だか甥っ子だかを探してるらしいみたいですけど、応援したいですよね」


 ラーの真の目的だって分かるはずもない。

 俺を試すつもりで接触してきたのか、それとも単なる偶然なのか。


 いぶきも本当にウチのスパイなのか、どこの陣営に属するか、それも分からなくなってしまった。


 この2人の接触は気になるところだが、現段階ではどうすることもできない。

 まさか俺までクロノ王国に潜入するわけにもいかないし、ここは静観するしかない。


「それにしても情報収集に廃棄物回収業者ですか♪ いぶきさん考えたものですわね♪」


 動画を横目で見ながら作業していたエルマが感心していた。


「……はい。秘密主義の国でも、廃棄物は出ます。そこから得られる情報は多い……でしょう。やはり……いぶき様は抜け目のない方ですね」 


 レモリーはスマートフォンの画面と動画に目を丸くしながらも、慎重に言葉を選びながら分析した。

 あまりにも未知なことに必死で対応しようとしているようでもあった。


確かに各階級ごとに住むエリアが区切られた、ゲーテッドコミュニティの新王都を調査するにはうってつけの方法だ……。

 

「……なあ、そろそろ決めてくれ直行どの。救援を中止するなら、せめて私一人でも行かせてくれないか。村の様子が気になるんだ」


 スフィスはそんな、スマホ画面を食い入るように見つめる俺たちに割って入ってきた。


 そうだった。


 すっかりいぶきとラーの接触に関心が向いてしまったが、俺たちは現在、エルフの村に行くための出発準備の最中だったのだ。


 スフィスが焦るのも無理はない。

 彼にとっては故郷の村からの救援要請だ。


 エルフの村は法王庁の北にある大森林の奥地にあるという。

 〝鵺〟の機動力を使えば一昼夜もあれば行けるらしい。


「すまないスフィス。出発しよう。エルマ、〝鵺〟を出してくれ」


 ネンちゃんのこともあるし、優先順位はエルフの里が優先だ。

 

 俺は動画を止め、荷物に手をかけた。


挿絵(By みてみん)


「そうだ直行さん♪ 〝鵺〟に四人乗るのはきついですから、客車を追加しましょう♪」


 さっきから何か作業していたエルマが、声をかけた。

 コボルトを召喚し、大きな風船のようなものにガスを詰めていたようだが……。


 奴が召喚し、組み立てていたのは簡易的な飛空艇というか空馬車のようなものだった。

 客室部分はカプセルのようになっていて、タイヤで地上も走ることができた。


 〝鵺〟がけん引して運ぶ空飛ぶ馬車……、否〝鵺車〟。


「お前それ作ってたのか」


「アンナ女史にも手伝っていただきましたわ♪ レモリーの風の精霊術で乗り心地も悪くないでしょう♪」


 エルマによって作られた鵺車(主に作業したのはアンナとコボルトだが)に乗り込み、俺たちはエルフの里を目指す。


次回予告

※本編と関連のありそうなネタですが、まったく関係ありません。


直行「いよいよエルフの里に行くんだな」


エルマ「世間様でも『葬送のフリー〇ン』をはじめにに『江戸前エ〇フ』『エ〇フさんは痩せられない。』等々、日本のアニメ界は一大エルフブームですからね♪ 乗るしかありませんわ♪ この♪ ビッグ♪ ウェーブに♪」


小夜子「エルマちゃんいつもより♪が多いわね!」


エルマ「当然ですわ♪ レモリーにも長耳つけてエルフにしましょう♪


直行「次回の更新は1月25日を予定しています。『即席エルフ』お楽しみに」

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