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616話・消えた法王

「第67代法王ラー・スノールが退位!」


 その第一報を聞いたのは、ロンレア領に戻ってほどなくしてからだ。


 聖龍を失った全責任をとって退位したという。

 そうなるように情報操作したのは俺だが、対抗もなくアッサリと自ら身を引いたという点が、どうも引っかかる。


 止める側近はいなかったのか?

 ジュントスも沈黙したままだし、ラーの意図が読みきれない。


 当のラー・スノール本人も退位した後は、行方知れずだという。


挿絵(By みてみん)


 それはつまり、自由の身で『世界の秘密』を探る旅に出たということかもしれない。

 あるいはカギとなるスマホがダミーだったことを知り、俺を殺しに来るかもしれない。


 まったく気が気ではない状況になってしまった。

 もちろんこのことはエルマとレモリー以外の誰にも相談できないことだけれど……。


 ◇ ◆ ◇


 俺は執務室にレモリーとエルマを呼んで、緊急の対策を話し合った。


「今回の退位劇は♪ 直行さんのファインプレーじゃないですか♪」


「いえ。何かあると考えるべきでしょう」


「新法王はエロガッパのジュントスさんで決まりですわ♪」


 エルマは無邪気に言うが、俺もレモリー同様、裏があると見ている。


 ジュントスからは何の連絡もなく、法王庁に潜入させた神官からの情報も不明瞭だった。

 現在、空席になった法王の座を巡り、次の法王選出に向けた謀議が行われているのは間違いないのだが……。


「……それにしても、呆気なさすぎるな」


 王族出身の法王であるにも関わらず、予想以上にラーの政治的な基盤は脆かった、というふうに楽観的に考えることもできるが……。


 俺がはじめて法王庁で見たときのラーは、圧倒的なカリスマ性を放っていた。


 その一方で、人との距離が近くなるほどに、得体のしれない人物とみえるようだ。

 要するに親しみにくい人物、という印象だ。


 俺がジュントスとの交流から知った法王の人となりを察するに、身近な者たちとの信頼関係の構築は、難しかったと思われる。


 何しろラーは法王としての行動に一貫性がない。


 反異界人だった先代の法王一派を粛清したかと思えば、魔王討伐軍への支援(マナポーションの供給)自治区の新技術に興味を持った。ここまでなら異界人に理解のある法王だ。


 しかし結果として勇者と決闘して再起不能に追い込んだと同時に聖龍を失ってしまった。


 信徒としてみれば、どっちつかずで孤高のチート戦闘能力者。

 演説はうまいが、対等な人間関係を結ぶのが苦手な学者肌のコミュ障王子&祭祀王。


 彼を深く知らない者は、そうみるだろう。 

 ……だが、本質は違う。


 命がけで対峙してみてはじめて分かったことだが、ラーの〝もの〟の考え方はきわめて合理的だ。

 だから平気で前言撤回するし、立場も変えてしまう。


 ただ、間違いなくいえることは、出し抜いた以上、彼が味方になることはないという点だ。


「ラーの次の動向が怖いな」


「何かある……と、考えた方がいいんでしょうかね……。まあ直行さんはともかく♪ 覚醒したあたくしが殺されることはないからいいですけど♪」


 ラーの退位以降、当然次の法王選出が始まっているはずだが、法王庁は沈黙を守っている。


 当然、俺としてはジュントスを次代の法王に据えたいので秘密裏に工作は続けているが、どうなるかは分からない。


 三人での対策会議は結論を得られぬまま、ラーの動向を注視するといったあいまいな方針になってしまった。


 ◇ ◆ ◇


 しかし法王の動向にばかり気を取られてもいられない。

 俺たちのロンレア領は、クロノ王国にも狙われている。


 属国の立場から解放された自称シン・エルマ帝国は、来るべき第二次クロノ王国の侵攻に備えて自領の要塞化をはじめたばかりだった。


 エルマと魚面、2人の召喚士による召喚獣を労働力とした地下シェルターの建設が始まった。

 すでに基礎工事は終えていたが、本格的な防衛設備にするため、食料の備蓄や運搬用の地下通路など、かなり大がかりな工事に取り掛かっていた。


 イメージとしては、ロンレア領の地下にアリの巣のような地下迷宮を構築する。


 先立って完成させた錬金術師アンナの秘密工房や、勇者自治区との密貿易に使っていた潜水艦の搬入口ともつなげて、長期間の籠城可能な施設を作る。


 ウチの絶対的なエースである知里がいない以上、クロノ王国の侵略を受けたら敵の殲滅は極めて難しい。


 前の戦いのように小夜子のバリアで敵陣に特攻をかけて将を討ち取る戦術に、二度目はない。

 女賢者ヒナやミウラサキなどの手を借りられるかも分からないため、まずは守りを固める。


 侵攻に対する準備は、しておかなければならない。



次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「このお話がアップロードされたのは1月10日♪ 110番の日ですわ♪」


直行「そいつは穏やかじゃないな。前に一度逮捕されたし、俺たちも気をつけないとな、エルマよ」


小夜子「悪いことしてない人は警察官に怯えたりしないからね! ねえ知里?」


知里「……まあ、ね」


エルマ「確か知里さんは窃盗で指名手配されてましたよね♪」


直行「次回の更新は1月15日を予定しています。『ヤベッ! 警察だ! この顔見たら110番』お楽しみに」

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