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609話・生首と政争

 ──〝法王の判断〟により、ロンレア領はクロノ王国に譲渡される。


 元御者ジャガノが自白した情報は、皆を驚かせた。

 ヒナの実の両親も、元御用商人たちも黙り込んでしまった。


 俺たちはいったんこの場をエルマとロンレア側の守衛に任せて別室へ行った。


「エルマ、ここは任せたけど……勝手に話を進めるなよ」


 元はといえば、ことの発端はエルマによる帝国宣言かも知れないのだ。

 ヒナの実の両親を巻き込んでおかしなことをしないように釘は差しておく。


「直行さん♪ わが夫といえど、皇帝はあたくし♪ 軽々しく指図しないでくださいな♪」


 エルマのことはひとまず置いておいて、俺は部屋を出て行った。


 頭の中は「?」でいっぱいだ。

 ロンレア領を傘下にしたと思ったら、もう譲渡?

 本当に法王の考えなのか? それとも……。


 ◇ ◆ ◇


 錬金術師アンナと、首(と内臓)だけになったジャガノを連れて、緊急の対策会議を行う。

 彼らに加えて、ギッドにキャメルにクバラ翁という常識人枠のロンレア首脳陣も呼んだ。


「ちょっと! その生首は何なのヨ!」 


 キャメルをはじめ、あきらかに動揺しているが、状況はより深刻なのでスルーした。


「法王猊下はわが〝ロンレア領をクロノ王国に譲渡する”そうだ。“この男が自白した”ところによると、だが……」


「……!!」


「生きてるのか、それで」


 当然、はじめて報せを耳にした者たちは絶句する。

 俺は生首とアタッシュケースを持つアンナを見た。


「コイツは異界風で雇われていた御者だ。俺に逆恨みをしていた。そんな奴が、国の行く末を左右するような重要な情報を持っているとは思えないんだが……」


 元御者ジャガノは脳に電極を突き立てられて調べられたようだ。

 その言葉に“嘘”はないだろう。


「法王さまの差し金……」


「帝国宣言したロンレア領が法王サンの逆鱗に触れた。いかにもありそうなことでごぜえますがね」


 クバラ翁は“ありえなくもない”と納得していた。

 俺だって当初はそう思った。


「ただ、あの聡明な法王が、そんな重大情報をこの男に握らせるとは思えない……クロノ王国にウチの領土を譲るとしても」


 俺は魔物と化して生首だけになったジャガノを見る。

 歯をむき出して威嚇するこの男が、中途半端なテロを仕掛けた挙句、機密情報を漏らす。


 どう考えても、ずさん過ぎる。 


「そうだッ。コイツは捨て石で、敵の上役に“偽情報”を吹き込まれた可能性もある。私もそう思ったからあえて客の前で“譲渡の話”を開示したッ」


 アンナが“我が意を得たり”とばかりに強く頷く。


「どういうことですか? “法王による譲渡”は偽情報ということですか?」


 ギッドは冷静に状況を分析している。


「……ちょっと前にエルマの実家に法王猊下から親書が届いていた。帝国宣言と前後する時期だ」


 俺は、ひとつの判断材料として親書の話を持ち出した。

 法王による“逆らったら殺す”という『強制』の魔法を受けているため、慎重に言葉を選ばないといけない。


「新魔法の共同研究の話よネ? でもエルマお嬢さまが“帝国宣言”したからブチ切れてロンレアをクロノに売ったってことじゃない?」


 キャメルの推理は、一連の流れとしては無理がない。

 確かに法王は勇者トシヒコたちにもブチ切れた。


「勇者とも対等に戦えるほどの法王猊下が、わざわざそんな回りくどいマネをするかな」


 たとえブチ切れたとしても、いきなりクロノ王国に譲渡を打診して、クロノとは縁もゆかりもない元御者を暗殺犯に仕立てて潜入させるなど、ありえない策だ。


「ああッ。コイツの脳に電極をブッ差してみても、ロクな情報は出てこないッ! だがッ、コイツがクロノ王国と接触したのは確かだッ!」


「なぜそこにクロノ王国が出てくるのか。この魔物人間との接点も含めて……どうも引っかかりますなァ……」


 クバラ翁が険しい顔で生首を見た。

 アンナは頷き、言葉を続けた。


「元御者ジャガノを改造した者に心当たりがあるッ。そういう姑息な嘘を好む奴でな。錬金術師だ」


 錬金術師という言葉に、周囲がざわついた。

 アンナのような異端者はともかく、この世界においては錬金術師は屈指の特権階級だった。


 法王庁とクロノ王国がそれぞれ有力者を抱えて、決して勇者自治区に人材と技術を流さないように厳重に管理されている。


「……直行殿に恨みを持つこの青年を、魔物に変えた錬金術師。その者はクロノ王国の関係者ということでよろしいのですね?」


「間違いないッ!」


「その者が〝法王サンの差し金に見せかけ〟て、今回のテロ未遂を指揮したのですかナ」


「クロノ王国の目的は法王庁とロンレア領の分断工作。ロンレア領が法王庁の傘下に入ったことを警戒し、法王の庇護を断ち切ること。周到なのかずさんなのかよく分からない戦術ですね」


 花火大会の決闘で、半ば脅される形でウチは法王庁の傘下にさせられてしまったが、結果的にクロノ王国としてはうかつにロンレア領に侵攻できない状況になった。


 微妙に事実と異なるのだが、クロノ王国は法王とロンレアが蜜月状態にあると思っているようだ。


 確かに現状、ロンレア領は法王庁の属国だ。

 帝国宣言したところで、クロノ王国はそう思っているから分断工作を仕掛けてきた。


 だが実際、彼らが思っているほどロンレア領と法王庁の結びつきは強くない。

 

 いまの段階では、法王との間で取り決められた約束に過ぎない。


「…………いや、まてよ」


 …………。 

 突拍子もない策だが、俺はひらめいてしまった。

 この状況をうまく利用すれば、起死回生の策略が描ける、かも知れない……。


 法王から『強制』の魔法がかけられているために、綱渡りの計略となるが……。

 命を賭ける価値はある。

 

 ……俺は、考えを巡らせた。

挿絵(By みてみん)

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


直行「どうしたエルマよ。ドレスなんぞ着て」


エルマ「12月10日はノーベル賞授賞式じゃないですかー♪」


知里「確か女性はロングドレスを着る事が義務付けられているそうだけど……」


小夜子「エルマちゃんは何賞?」


エルマ「まあ生理学・医学賞はいただきですわ♪」


直行「大きく出たなエルマよ。そんなに欲しいのか?」


エルマ「賞金が日本円で約1億2700万円♪ ノーベル賞はあたくしのモンですわァー♪」


小夜子「でも人体再生はネンちゃんがいないと無理だから、たぶんネンちゃんのお父さんも半分持っていくと思うけど」


直行「次回の更新は11月15日を予定しています。『取らぬエルマの皮算用』お楽しみに」

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