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608話・家宝の虎と引き換えに

 ※この話の後半部分にグロテスクな描写がありますので閲覧注意です。



「ごきげんよう♪ ヒナさんにはいつもお世話になっておりますわ♪」


突然の女領主(自称皇帝)エルマの登場に、御用商人とヒナの両親は困惑した様子だった。


「こちらのお嬢様が“シン・エルマ一世皇帝陛下”……?」


「物騒な二つ名からずっと年長者だと想像していましたが……」


 彼らの反応にも無理はない。

 13歳の少女自らが帝国を宣言し、皇帝を詐称したとは考えられない。 

 ましてや鬼畜令嬢の二つ名だ。


「お話はおおよそ伺っておりますわ♪」


 エルマがニヤリと笑うと、俺の〝影〟が不自然に揺らめいた。

 奴はどうも足元の影に召喚獣“鵺”を潜ませ、会話を聞いていたようだ。


「……娘に会って罪を話したい。それだけなのです。大罪を犯したあの娘の気持ちをすくってあげたい」


「親としては、寄り添ってあげたい。私たちも、共にあの娘の罪を背負う覚悟を決めました」


 ヒナの実の両親たちは、大仰な動作で天を仰ぎ、涙を流してみせた。

 ……正直にいって、2人の思いが娘に伝わる可能性はない。


「なんて殊勝な♪ あたくしも両親に愛された娘でしたが、異界人の夫と共に悪名を着せられたので、そのお気持ちは、痛・い・ほ・ど♪ 分かりますわ♪」


 引き気味な俺とは対照的に、エルマは乗り気だ。

 向こうの夫婦に劣らず目に涙をいっぱいに溜めて、身を乗り出して聞いている。


 ……奴はウソ泣きが上手くなった。

 おそらく指先に水を召喚し、目元に塗っているのだろう。

 ピンポイントでの魔力操作、威力のコントロール、覚醒した能力をこれでもかと無駄遣いしている。


「いいでしょう♪ ヒナさんとこちらのご両親との顔つなぎ♪ 直行さんに任せますわ♪」


「……って、俺に丸投げかい!」


 もらい泣きしているヒナの実の両親は、すっかりエルマに心を許した様子で、何度も頭を下げていた。

 両者ともにウソ泣きの茶番劇のようにも見えるが、交渉の主導権はエルマが握ったようだ。


「ヒナさんのお父君♪ 美妓100人はともかくとして♪ あたくしからお願いがございますわ♪」


「伺いましょう」


「当家に伝わる家宝がありましてね♪ クロノ王国に献上した虎の敷物を買い戻してほしいのですわ♪」


 エルマの要求はただひとつ。

 ロンレア伯爵家の家宝だという虎の敷物──。

 ガルガ国王に献上した品だ。


 確か花火大会のときに催した闘犬大会でも言っていた気がするが──。

 ガルガ国王の暗殺で、それどころではなくなってしまった。


 エルマからの条件はひとつ。

 クロノ王国に差し出した家宝の虎の敷物を買い戻すこと。

 それと引き換えに、ヒナと両親の関係改善を請け負う。


「元御用商人の皆さまも♪ ぜひお力を貸してくださいな♪」  


「難しいご依頼ですが、尽力しましょう」

 

 エルマは御用商人をも巻き込んで、虎の敷物奪還ミッションについて話を進めている。

 俺にとってみれば1ミリも関心がない“ロンレアの家宝”だ。


「…………!!」


 彼らの話を適当に聞き流していたそのときだった。


「直行ッ! 大変だッ! ちょっと聞いてくれッ!」


 錬金術師アンナが血相を変えて部屋に飛び込んできた。

 右手にチュパカブラの生首を持ち、アタッシュケースのようなバッグを下げている。


挿絵(By みてみん)


 信じがたいことに、首と点滴のチューブのような管でつながれていて、血液と酸素が巡っているようだ。

 荒々しい呼吸と共に、すさまじい形相で生首は俺を睨んでいた。


「!!」


 アンナとエルマ以外の、その場にいた全員が言葉を失った。

 飲んでいた発泡ワインやお茶を吹き出した者もいる。


「大変なことになったッ!」


 アンナの顔もまた青ざめていた。


「見ればわかる。何をやってるんだー!」


 思わず俺は声を荒げた。

 エルマがグロイから逃げてきたと言っていたが……。

 魔物化したとはいえ、いきなり首を切断して、あまつさえそれを持ち歩いて来るとは!


「まあ本人から聞けッ!」


 そう言ってアンナは電極のような細い筒状の金属棒を差し出す。

 いわゆる「脳クチュ」という悪趣味な尋問の方法だろう。


「……待ってくれアンナ。来客中に()()はあまりにも強烈だ」


 俺は来賓たちを落ち着かせようと、穏やかな声音で語りかけた。

 しかし御用商人たちは驚きはしたものの、思っていたほど取り乱してはいなかった。


「……とにかく、何があったか知らせてくれ」


 俺はチュパカブラ・ジャガノの生首から目を逸らしつつ、アンナに問うた。


「怖気づいたかッ! まァいい手短に言うぞッ。法王の一存により、ロンレア領はクロノ王国に譲渡されるッ」


「……!!」


 これには元クロノ王国の御用商人たちも絶句した。

 彼らの現在の取り引き相手は法王庁だ。

 しかもそれは俺が半ば押し付けた格好になる。


 話が込み入ってしまうが、要するに俺たちは全ての陣営から対立し、御用商人たちはロンレアと法王庁との間で板挟みになる状況だ。


 しかし、このような重大事項は、当然ロンレアの最重要機密になる案件だった。

 よりによって来賓の前で話したアンナ。


 彼女はそこまで軽率な人間ではないと心得ているが、これはロンレア領を根底から揺るがす一大事となる……。 


 

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


直行「そういえば久々にコンビニ弁当食べたら、割りばし袋につまようじ入ってないんだな」


知里「あたしはデンタルフロス持ち歩いてるから要らない派だったな。手に刺さると痛いし」


ネン「つまようじって何のためにあるんですか?」


小夜子「たくあんやフルーツに刺したり、歯の間に挟まった食べかすを取ったり」


知里「それは昭和時代の話でしょ」


直行「爪楊枝の歴史は古くて、古代インドやシュメール、中国でも使われていたらしいぞ。当然、形も違うし、使い捨てではないだろうけど」


知里「環境に配慮して、というよりも単にコスト削減でしょうね。オサレな和菓子屋さんとかだと黒文字使ってたりするし」


直行「割りばしも廃材から作るんだし、どっちがエコだかよく分からない問題だよな」


エルマ「あたくしが敬愛するグ〇タさんに聞いてみたいですわ♪」


直行「次回の更新は12月10日を予定しています。『エルマVSグ〇タ年の瀬エコ対決!』お楽しみに」

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