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606話・マルチタスク直行

 怪物に変身した元御者ジャガノを退けたと同時に、予期せぬ来客。


「ヒナちゃんさんの……ご両親だと?」 


 ヒナの母親といえば小夜子だが、正確には彼女は“ヒナの前世で母親だった存在”だ。


 〝この世界に呼び出された小夜子〟はまだ母親になっていない。


 ちょっとややこしい話だが、転生者ヒナには、この世界での実の両親がいる。


「すぐに行くけど、いま取り込み中なので応接室でお待ちいただこう」


「それが……旧クロノ王国の御用商人を伴っていて、かなり大がかりな人数でして……」


 門番は申し訳なさそうに告げると、庭の前に灯るいくつもの灯を指した。

 

「御用商人……」


 以前ウチに庇護を求めてきた商人の一団だ。

 彼らには正直あまりいい印象がない。


 あのときはクロノ王国の侵攻を撃退した直後だったが、商人たちはあろうことか戦で亡くなった敵兵から武器や鎧を引きはがして回収していたのだ。


 それがこの世界の普通とはいえ、死者の身ぐるみをはがすような者たちとは価値観の共有はできない。

 なので法王庁のジュントスに話を通して処遇を丸投げしてしまった。


 その後、まったく気にも留めなかったのだが、まさかの再訪。

 エルマの帝国宣言に興味をもったのだろうか──。


 本来であれば、お引き取り願いたい相手ではある。

 しかし“ヒナの実の両親”を伴って現れたのでは無下にもできない。


「分かった。とりあえず俺が対応する」


 こればかりは他の者に任せるわけにもいかない。


「……で、この元御者なんだけど、いくつか尋問しなきゃいけないことがある」


 一方、もう一人の招かれざる来訪者であるジャガノの処遇についても、同時に行う必要があった。  


 現在ジャガノは戦士ボンゴロに取り押さえられてロープでグルグル巻きにされている。

 気を失っているようだが、魔法対策で猿轡も噛ませてある。


 突然の商人たちの来訪とジャガノの襲撃──。

 この2つに接点があるのかないのか、それも含めて調べる必要がある。


「アンナ、頼めるか?」


「……この改造人間は、おそらく錬金術師が関わっているッ! 踊りの奇病の件も含めて、私が預かるべき案件だろうッ」


 錬金術師アンナは、白衣を翻らせて意気込んだ。

 内ポケットの毒々しい試験管をチラつかせて、邪悪な笑顔を見せる。


挿絵(By みてみん)


「なあに、口を割らなければとっておきの()()()で吐いてもらうまでだッ。洗いざらいなッ」


「特に背後関係については入念に調べてほしい」


 ひとまずジャガノの取り調べについては錬金術師アンナに一任するのが良さそうだ。


 俺には複数のことを同時に処理するマルチタスクなんてできない。

 実は効率が良くないとされているし、協力者がいるならば得意な者に任せていくのが効率的だろう。


「ボンゴロ、そいつをアンナの研究室へ運んでくれ」


 俺の頼みを受け、戦車ボンゴロと守衛は元御者ジャガノを連行していく。


「直行しゃま~、錬金術師しゃま~。できれば殺さないでやってほしいっしゅ~」


 かつての雇い主だった異界風店主ワドァベルトがジャガノを気遣う。

 変わり果てた姿になったとはいえ、異界風で二度も雇われた青年だ。

 情に厚い店主としては、気がかりなのは理解できる。


「ああ。謎の奇病のことがあるから容赦はできないが、アンナ、元御者ジャガノを殺さないでやってくれ」


 とはいえ、変人錬金術師アンナ・ハイムに任せるのだからただでは済まないだろう。

 ワドァベルトの顔も立てつつ、襲撃事件の真相と『踊りの奇病』についても明らかにしておかなければならない。


「あたくしもアンナ女史に同行しましょう♪ お目付け役として♪ こちらにもとっておきの自白剤がありますわ♪」


 ワドァベルトにはエルマがそう申し出た。

 お目付け役というが、とっておきの自白剤という点で嫌な予感しかしない。


 店主ワドァベルトも引きつった苦笑いで応えた。


「元御者は任せるとして。ヒナちゃんさんのご両親は俺が会おう。応接室に呼んでくれ」


 俺は門番に告げた。

 次いで手の空いている給仕にお茶を運ぶように手配する。


 ヒナの実の両親は奴隷商人だという。

 気は進まないが、俺が会う以外に選択肢はない。 


「直行さま。ヒナさまのご両親の商人は存じておりますので、同行をお許しください」


 レモリーがそう申し出てくれた。


「……いいのかレモリー?」


 彼女とヒナの実の両親との間には複雑な縁がある。


 レモリーは故郷のドルイドの集落が魔物に滅ぼされた後、当の奴隷商人夫妻に保護された過去を持っていた。


 勇者トシヒコと同郷で、ヒナの実の両親から奴隷としての教育を受けた後にロンレア家に買われたという彼女──。


 言い方はよくないが、件の奴隷商人にとってレモリーは商品だった。


 そんな彼女は、過去に対してわだかまりがあるのではないかと俺は考えたわけだが……。


「はい。過ぎたことです。ヒナさまの実のご両親がどうあれ、私は直行さまと共に参ります」


 心配そうに尋ねた俺に対し、彼女は毅然と頷いた。



次回予告


※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「直行さん♪ わさビーフのパッケージが豚から牛に変わりましたわね♪」


直行「元お笑い芸人のユーチューバーのデザインは黒歴史か……」


知里「あたしは初代の眠そうな牛が大好きだったからもう買わないけど」


小夜子「知里らしいっちゃ知里らしいけど、わさビーフ美味しいわよ」


エルマ「まあ元々わさビーフのビーフパウダーの原材料は(鶏肉・ゼラチンを含む)ですから♪ 思い切って鶏のデザインでもいいんじゃないですか♪」


直行「SNSで募集中だった名前も『わさモー』に決まったようだな」


エルマ「次回の更新は11月30日を予定していますわ♪ 『牛の名は』お楽しみに♪」

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