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586話・偽供儀

(手負いの獣みたいな目をしてやがる)


 冷たい光を放つラーのまなざしに、トシヒコは身震いした。


(──こいつは……嫌な予感がする)


 根拠などなかったが、魔王討伐戦争を、文字通り最後まで戦い抜いた歴戦の強者だからこそ分かる直感といってもいい。


(小僧の目から、俺が予想だにしない攻撃を仕掛ける気配を感じる……)  

 

 この戦いで、ラーの戦術パターンや、おおよその戦闘思考は把握できた。


挿絵(By みてみん)


(柔軟な戦闘思考力と、一撃で大ダメージを与える方法を好む戦闘のクセ、こちらの戦術を逆手に取る逆転の発想──。天性の魔法力だけじゃねえ、疑いなく厄介な相手だ──)

 

 トシヒコはこれまでのラーの攻撃を思い返しながら、次の一手を探っていた。


「……なあクソガキ! 聖龍は斃れたぜ? お前が戦場に引っ張り出してきたからだ。法王庁でお前さんの立場は悪くなるだろうな」


 挑発しながら、思考をめぐらせる。


(生まれも育ちも地位も名誉もある厄介なクソガキが、絶対にやらないであろう攻撃方法──)


 ハッとして、トシヒコは口に手を当てた。


 法王ラーが決して行わないであろう一手、自爆──。


 神聖系魔法の奥義のひとつに、自己犠牲による自爆攻撃がある。

 自らの命と引き換えに、回避も防御も不可能な大打撃を与える。


 かつて魔王討伐軍時代にパーティを組んでいた聖職者の仲間に、窮地を救われたことがあった。


 “大いなる存在”に命を差し出し、天を割るほどの一撃を与える。


 それは魔王の眷属でさえ、瞬時に滅ぼすほどの力。

 ラーの魔力ならば、人間などひとたまりもない。  

 

 トシヒコは、ラーが決して自暴自棄になっていないと理解している。


 聖龍を失い、法王としての立場も危うい現状──。

 今後の世界情勢を見据えるならば、命に代えても“勇者”を討ち取るのがもっとも効果的だ。


 元王族の現法王だろうが、自分の命をも歴史の天秤に乗せているなら、自爆という選択肢はありうると、トシヒコは見立てた。


(この攻防が最後の一手。重力操作で小僧の攻撃を無効化すると同時に、“濡れ烏”でのカウンターで小僧の存在自体を断つ)


 勇者は宙に浮いたまま両足を肩の高さに開き、太刀を自然体に構えた。

 足元に重力を発生させ、大地を踏みしめるのと同様の力場を整える。


(一刀は万刀と化し、万刀は一刀に帰す……)


 トシヒコは皮肉な笑みを浮かべながら、幕末の剣術家山岡鉄舟の言葉を思い出していた。


 剣道の経験もなく、前世では何の職にも就かず、ひきこもったまま40歳で生涯を終えた自身が、今生では英雄と呼ばれ、多くの民の命を預かる立場となった。

 

「運命なんか信じちゃいないが、俺の肩には多くの奴らの人生が乗ってるんだ。聖龍だろうと法王だろうと、大将としての責任は果たす。悪く思うなよラー・スノール」


 勇者トシヒコに一切のためらいはなかった。 


「…………」


 一方、ラーは自身の捨て身の攻撃を、トシヒコが察しているだろうことは予測していた。

 最終手段を読まれた上で仕掛けるのは容易ではなかったが、この一手に賭けるしか、もはや手がない。


 ラーはトシヒコを凝視する。“勇者”に隙は見当たらない。


 しかしラーはあえて、大げさな身振りで不用意に飛び込んでいった。


「フェイントだろ?」


 ところが、トシヒコの予測を、ラーは裏切る。

 

 転移魔法で、あろうことかパタゴン・ノヴァの遺体を回収。

 さらに続いて直行とエルマの元へと瞬間移動を続ける。


 あさっての方向への牽制、と見せかけた、ラーの戦術的な一手。

 それはトシヒコが予想だにしなかった行動だった。


「なんでまた俺たちンとこ来てるんだよ!?」


 驚いたのは直行とエルマも同様だった。

 先だってのガスマスク召喚に続いて、まさかもう一度目の前にラーが現れるとは思いもしなかった。


 しかも体中に穴が開いた大男の亡骸を伴って現れたのだ。

 レモリーも含め、その場にいる全員が度肝を抜かれた。


「……あ、法王猊下スイマセン、意外だったもんで驚いてしまって……」


 しどろもどろの直行を意に介さず、法王はエルマに告げた。

 

「ロンレア! いまから余の言うことを聞け!」


「ヒィィィ! ま、またですか法王さま! あんまりですわー」


 さらにラーは〝恥知らず直行〟を人質に取り、エルマに命じた。


「おいおい小僧! 恥知らずの色男なんか人質に取ったって無駄だぜ!」

 

 トシヒコにとって直行は単に「取引相手」であり、個人的には「パーティメンバーの友達」という関係性に過ぎない。

 したがって人質としての価値はなかったが、彼らの一帯にはネン、エルマ、レモリーがいる。


「でも、貴方は攻撃できない」


 もし、勇者トシヒコに女たちを巻き込む非情さがあったのならば、彼の完全勝利は動かなかったのかもしれない。


 しかしトシヒコはこの機会に手を出せなかった。


 時間にして数秒だが、世界屈指の実力を持つ彼らには、十分な長さがあった。


 ラーのもうひとつの特技、人形に憑依して意のままに動かすこと。

 “七福人”パタゴン・ノヴァの亡骸を人形に見立て、自身の魂を移す。


 本体の青年ラーの肉体の方が人形であったかのように、その場に崩れ落ちる。


 ラーは巨大な騎士の遺体に乗り移り、自爆攻撃を仕掛けた。


「墜ちろデカブツ!」


 しかし、その攻撃の先を取ったトシヒコによる重力操作と“濡れ烏”での存在抹消の斬撃──。


 神聖魔法の奥義『自己犠牲』と重力操作、存在抹消の斬撃が折り重なり、周囲の景色は文字通り白く染まった。


 



  

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「今年も24時間テレビには感動しましたわー♪」


直行「エルマお前、見てないのに『感動した』とか言うの止めろよ」


知里「愛は地球を救うって46年もやってきて、まだ救えてないよね。愛(募金)が足りないんじゃないの?」


エルマ「皆さん何を言ってるんですか? 24時間テレビがなかったら、地球なんてもうとっくにヒャッハーで、とっくに滅びていますわ♪」


直行「そうなのか?」


エルマ「ノストラダムスが予言した、1999年の恐怖の大王も24時間テレビが救ったって、もっぱらの噂ですわ♪」


小夜子「ウッソー! すごいじゃない! これは皆で歌うしかないわね『サ〇イ』を!」


知里「次回の更新は9月2日を予定しています『負けないでサ〇イ! 走り抜け直行』お楽しみに」


直行「俺、ギャラもらっても100キロも走れねえよ」

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