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583話・処女懐胎あるいは神聖受胎


 次代の聖龍は、知里に託された。


 命尽きゆく現聖龍は、ただそれだけを望んでいる。


 威容を誇った聖龍の肉体は無残な姿へと変わり果てていた。

 ヒナが召喚した現代兵器により、肉がえぐられ、細い骨は砕けて露出していた。

 優美なひれも燃え尽き、長い炎の塊となって湖へと落下していく。


「知里。卓越した魔力に術式操作、加えて造物主に連なる貴女なら、申し分はない。貴女に託します。どうかこの世界の存続を……」


 沈みゆく聖龍が残した言葉は、知里の脳裏に刻みつけられた。


(託します、なんて言われても……) 


 知里にとってはいっこうに話が見えてこない。

 聖龍が伝えた「闇の巫女」「依り代」という言葉にも、不穏な印象しかない。


(……要するにあたしが生贄になって、次の聖龍を宿せってことよね……)


 思いもしなかった突然の自己犠牲に、知里は激しく動揺していた。


(一介の冒険者に過ぎないあたしが何故──?)


 彼女には到底納得できなかった。

 13歳のとき、気づいたらこの世界にいた彼女は、生きるために冒険者稼業を続けた。

 幸いなことに天賦の才能に恵まれていた知里は、世界でも指折りの魔導士となった。


 元の世界では必ずしも幸福ではなかった彼女にとって、現在の気ままな冒険者稼業は嫌いではない。

 しかし、だからといって世界のために我が身を捧げるまでの献身は持っていない。


(嫌だ、あたし、犠牲になんかなりたくない)


「わが記憶と共に次代の魂を貴女に送ります」


(──やめて!)


 拒絶しようとする知里の脳内に、有無を言わさず聖龍の記憶が侵入してくる。


「…………!!」


 知里は言葉にならない悲鳴を上げた。


 1000年もの時間が、目くるめく速度で追体験される。

 すさまじい脳の負荷に、知里は気を失いそうになった。



 ──聖龍の記憶といっても、ひたすら長い時間、空を遊泳し、瘴気を喰らうだけの日常だった。

 聖龍自身がどんな感情を抱いてきたのかまでは分からない。


挿絵(By みてみん)


 瘴気とは、この世界に渦巻く憎悪や毒素、呪詛などの負の波動の総称である。

 人間や動植物から放たれたそれらは空に舞い上がり、雲のように集積する。

 やがて塊となった瘴気からは魔物が生み出され、地上に降りていく。


 聖龍の役目は、空に集積した瘴気を喰らうこと。

 それはこの地に人が住むために必要な役目だった。


 銀の海を隔てて隣接する大陸で、魔王が倒された現在、瘴気の総量は激減している。 

 あるいは聖龍は必要ないかも知れなかったが、消えゆく聖龍にとっては知るよしもない。


 次代への継承は、聖龍にとっての最期の責務だった。


 無限とも思える時間の中で、ひたすら瘴気を喰らう聖龍を追体験させられていた知里の脳内に、聖龍の切実な思いが流れ込んでくる。


 次いで見たのは、先代の聖龍の姿。

 おぼろげに見えたのは、リュウグウノツカイではない姿。

 それは知里にも見知った東洋の龍によく似た姿をしていた。


 聖龍は何度も生まれ変わって世界を遊泳する。

 この世界で唯一滅びることのない存在。


 いま、この姿になったのは1000年の昔。

 なぜ、リュウグウノツカイの姿なのかは聖龍自身も分からないようだ。


 流れ込む聖龍の記憶と共に、強大な魔力も押し寄せてくる

 聖なる力と穢れた瘴気に包まれた、聖龍の核ともいえる球体──。


(ちょっ……)


 それはちょうど知里の下腹部当たりの真上で止まり、浮かんでいた。

 

「聖龍はこの世界の瘴気を取り込むことで、歪みを正します。この龍核から、新たなる守護者=聖龍を生み出せるでしょう……」


 頭に直接流れ込んでくる思考は、神のそれというよりも、母の印象に近い。


 とはいえ知里は実の母との関係がうまくいかなかったので、彼女にとって母のイメージは必ずしも好ましいものではない。


 しかし、聖龍の龍核から流れ込んでくる母なる思念は想像していたよりもずっと抽象的で、寄せては返す波、あるいは海のようだと知里は思った。


 聖龍の核から、あたたかな光が放たれる。

 それと同時に、周囲には暗い瘴気が立ち込める。


「聖と闇。ふたつの属性を操り、造物主に連なる貴女ならば、必ずや……」


 彼女は持ち前の精密動作性と魔力操作によって、相反する属性の魔力を制御する。


(……待て待て待って! 光と闇を制御しろってこと? 超ムズいんですけど……!)


 龍核の周囲を光と闇がせめぎあうように明滅する。

 知里は苦心しながらも、2つの魔力を同時に調整し、龍核に注ぎ込む。

 新たなる聖龍を、この世界に生み出すために──。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「小夜子さんは初めてビキニ鎧を着たのは何歳のときなんですか?」


小夜子「こっちに召喚されて、魔王討伐軍に入ってからだから17歳のときよ」


知里「あれ? 旅芸人時代にも着てたんじゃなかったっけ?」


小夜子「あれは〝踊り子の服〟ね。知里も変なこと聞かないでよ」


エルマ「元の世界ではビキニアーマーは着てなかったんですか♪」


小夜子「女子高生だったし、平日はセーラー服。休日は部活だから学校指定のジャージね」


エルマ「体育の授業ではブルマですか? 元の世界でも過激衣装だったんですね♪」


知里「お小夜のバディだと何着ても過激っぽいからね」


直行「……次回の更新は8月21日を予定しています。『目のやり場に困る俺』」

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― 新着の感想 ―
[一言] これは…… この先どうなって行くのか??? ワクワク!!(#^.^#)
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