574話・続・とある法王の電磁砲
※今回は直行の一人称にてお送りします。
勇者対法王、花火大会の決闘。
いまこの地で起こっている戦いが、どれほど周辺に影響を与えているのか見当もつかない。
先ほどは法王の隕石電磁砲によって、夜空に風穴が開いた。
まるで一点だけ昼間になったように、日の光が差し込む嘘のような景色。
さらに今回、2人の激闘は周辺の湖の水を割り、炎と氷の衝突が湖を干上がらせてしまった。
この暗い夜の中、被害がどれほど大きいかは計り知れない。
勇者と法王が互いの剣でつばぜり合いをしている最中、遥か上空では賢者ヒナとミウラサキによる聖龍討伐が始まった。
時間停止能力に覚醒したミウラサキと、一度に複数の魔法を同時使用できるようになったヒナ。
超人たちと巨大な聖龍との争いに、天地は鳴動しているかのようだ。
パーティの壁役を務める小夜子は、障壁能力を拡張させて仲間たちを守っている。
しかし聖龍の熱を帯びた息吹や、巻き上げられた瓦礫が隕石のように降り注ぎ、まだ人が残っている観客席にも被害が及びそうな状況だった。
「おんどりゃあああ!」
小夜子は気合い一閃、降り注ぐ噴石やら火球や熱波を、青い障壁で打ち消していく。
彼女の防御能力、「乙女の恥じらい」もここにきてさらに進化し、ガードできる対象を自身の周辺からかなりの広範囲まで拡大している。
聖龍討伐には参加しないと言いながらも、必死で皆を守っていた。
「勇者パーティ、さすがですわー♪ まあ回復魔法の概念を変えたあたくしも♪ 控えめに言って超スゴイですけどね♪」
すっかり得意になったエルマが小躍りしていた。
「……にしても、強すぎねえか皆……」
勇者トシヒコのドルイドモードにせよ、さらに進化した勇者パーティと、法王の戦闘。
この世界の法則を根底から覆すような激突に、俺は言葉を失っていた。
……ハッキリ言って俺はこの戦闘のレベルにはついていけない。
「魔王も滅ぼし、聖龍をも手にかけようとしている。勇者トシヒコというお方は、同郷ながら恐ろしく思います……」
〝存在を抹消する〟濡れ烏の真の力で、法王の持っていた武器を〝なかったことにした〟。
それが何であったのか、この目で見たはずの俺も覚えていない。
さらにここへ来て見せた勇者の最奥義……。
「ドルイドモード……」
「はい。祭祀の奥義・精霊合一による肉体の解放。まさかそれを戦闘に応用するなんて……」
レモリーが言うように、四大精霊と同化した勇者トシヒコには、物理・魔法共に攻撃が効いていないようだった。
トシヒコの肉体はときに風に、ときに炎、さらに水となって流動し、ラーの攻撃を受け流す。
クロノ王国の王子でありながら魔導の申し子と呼ばれた天才の魔法は、自然そのものと化したトシヒコには通じない。
ラーが得意とする光弾の魔法も、光の粒子と化したトシヒコに吸収されてしまう。
炎もまた同様で、焼き尽くすどころか、かえってラーを飲み込みそうなほどの勢いで爆炎が広がる。
「!!」
さらにラーの隙をついて、勇者は風や水に変身し、ラーの体内からの破壊を試みる。
ガスマスクで空気の侵入は防いだとはいえ、水しぶきと共に斬撃が飛んで来るような、変幻自在の攻撃。
「詰みだって言ってるだろ小僧!」
「いや、まだだ!」
法王は防戦一方に見えた。
しかし彼はあきらめない。
極限状態で魔力を振り絞り、絶え間なく攻撃を続けていた。
「法王さまだって、勝利条件が変わったのは理解しているだろうに」
「勝利条件……ですか?」
レモリーは怪訝そうに眉根を寄せた。
「聖龍さまが死んでしまったら、この世界に神がいなくなる。当然、法王さまの権威は地に落ちる。それを阻止するためには、法王さまは聖龍さまを守りきり、勇者パーティを全滅させなければならない」
当初は法王による勇者パーティとの力比べに過ぎなかった決闘が、世界を根底から覆す殺し合いへと変貌した。
どうボタンを掛け違ったら、このような結果になってしまったのか──。
いや、それはともかくとして、ラーは勇者と戦っているべき状況ではない。
「攻撃の本命はヒナちゃんさんたち。トシヒコさんは陽動、つまり囮なんだ」
勇者の戦術はラーと聖龍を引き離し続けて時間稼ぎだ。
聖龍討伐は信頼する仲間たちに託している。
法王にとってみれば、守らなければならない対象は聖龍だ。
分かっていたところで、勇者トシヒコを突破して、ヒナたちも倒して聖龍を守るのは難易度が高すぎる。
各自が一騎当千の強者たちなのに加えて、時間操作能力のミウラサキ、防御障壁を操る小夜子というチート能力者を相手にしなければならない。
実際、ラーの執拗な魔法攻撃は自棄になって撃ちまくっているように見えなくもない。
水流、電撃……。
まるで流体のトシヒコにエネルギーを補給するような属性の魔法攻撃を、これでもかと撃つ。
「はい。それも法王猊下は承知の上でしょう……」
レモリーは険しい表情で言った。
次の瞬間、魔法吸収を続けていたトシヒコの体が光を帯びた。
「は!」
何かを察したトシヒコが太刀〝濡れ烏〟を湖に投げ落とそうとしたが、遅かった。
俺たちの頭上には、巨大隕石が浮かんでいる。
「……隕石召喚……だと!」
先ほど小夜子の障壁ごと手足を焼き、さらにヒナの四肢を壊死させた隕石よりも大きい。
ラーは無造作に魔法攻撃を続けている裏で、これほどの隕石召喚の術式も展開していたということか。
「貴方が四大精霊そのものと化したならば、単なる自然として、増幅装置に利用させてもらう」
「このクソガキ、俺の体を発電所にしやがった!」
トシヒコがドルイドモードを解除しようと試みるも、ほんの一瞬間に合わなかった。
「法王猊下は、勇者さまに属性魔法を吸収させ、魔法の増幅装置として利用したのです」
レモリーはラーの意図を読んでいたのか──?
自然現象そのものと同化したトシヒコに対抗するためには、その力そのものを利用する。
一瞬でも判断が遅れたら即・死亡のこの戦闘時に、その発想を思いつき、術式として発動させた。
「……増幅装置だけじゃねえ。こいつ、精霊体となった俺の体を利用して、超電磁砲を作りやがった」
勇者トシヒコが絶句した。
法王ラー・スノールが増幅させた巨大隕石は、電磁砲による超加速でヒナたちに撃ち出された。
次回予告(お知らせ)
実は挿絵を描いている最中、急にお腹を冷やしてしまったのかダウンしてしまいました。
後日イラストを差し替えて再アップロードする予定です。
なお、次回の更新は7月15日を予定しています。




