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573話・法王のガスマスク

「攻略の糸口? 与えねえよ。クソガキが()えやがって!」


 勇者トシヒコは光学迷彩を解除し、姿を現した。

 周辺では台風のような暴風が吹き荒れ出している。


「……嵐と同化したのか。いや、違う!」 


 法王ラーの顔が一瞬で青ざめた。


 彼は真後ろに飛んで勇者から距離を置いた。


 次いで大剣グラム・レプリカ(これは対重力操作の見えない攻撃に対するレーダー)を水平に構えつつ、最大級の警戒を取っている。


「詰みだ、詰み!」


 風に乗るトシヒコの声。

 いや、声が響くというというよりも“風”そのものになったような感触。


 彼はまた姿を消すと、湖上に突風が起こり、ラーに迫るように吹き荒れた。


「勇者さまは現在、風の精霊と同化しています!」


「──!」


 レモリーがつぶやいた、次の瞬間──。


 瞬間移動したラーが、俺とエルマの目の前にあらわれた。


 こっちに来るんかい!


 ……って思わずツッコミを入れそうになってしまったが、ことは深刻だ。


 あの恐ろしい法王の唐突の出現に、俺の胸は締めつけられるように軋み、吹き飛ばされた左耳の先端部が痛む。


「“恥知らず”に告ぐ! ロンレアの息女に“ガスマスク”を用意させろ!」


「えっガス……?」


 思いもしなかった命令に、俺はしどろもどろな言葉を返してしまった。


 ラーは左手で鼻と口を覆いながら、身振り手振りで“何か”を訴えかけている。

 険しい顔をしているのは、どうやら息を止めているようだ。


「……はい。風の精霊と同化した勇者様は、法王猊下の鼻腔から気道に侵入し、体内を破壊するつもりのようです!」


 レモリーが看破すると、法王は彼女を見て大きく頷いた。


「人体内部破壊」


「エルマ! ガスマスクだって! 分かるか!」


「……ほほ、ほ、法王さま♪ こ、こちらに♪」


 明らかに動揺しながら、エルマはおそるおそるガスマスクを召喚した。


 何に対しても高圧的なエルマだが、法王を見ると蛇に睨まれたカエル状態で固まってしまうようだ。


「礼を言う! ロンレア令嬢」


 取り乱したエルマが返事をする前に、すでに法王はガスマスクを装着し、この場を去った。


挿絵(By みてみん)


「……しろいおにいさん、めっちゃ怖かったですね、とうけんのおねえさん、おしっこちびりましたか?」


「……地獄ですわ」


 時間にしてほんの数秒だが、俺たち全員が血の気の引く思いだった。


 ──それにしてもエルマの奴、あんな短時間でガスマスクを召喚してしまうとは。


 肉片から人体を複製できるようになったことで、すさまじく魔法の精度と詠唱速度が上がっているのだろう。


 シン・エルマ。あながちデマカセというわけでもなさそうだ。


 とはいえ召喚したガスマスクに、どこまでの防毒効果があるかは分からない。

 しかし、〝勇者の攻撃意図〟を読んでいるという抑止的なサインにはなる。


「おいおい! 人体内部破壊なんてえげつねえ技、俺様がやると思ったのかい?」


 トシヒコが姿を現し、やれやれといった感じで肩をすくめた。


 勇者にとって、この戦闘の目的は法王を殺すことではない。

 ヒナたちが聖龍を倒すまでの間、ラーを引きつける、いわば時間稼ぎが目的だ。


 だから、えげつない攻撃手段を選択肢に挙げてみて、牽制する。

 法王も〝来ない〟とは思いつつも、対策を取らなければならない。


 戦闘の局面が聖龍討伐に変わって以降、法王は常に後手に回っている。

 

 それは、この戦いの主導権を完全に勇者トシヒコに握られたということだ。 


 法王がこの局面を打開するためには、勇者の奥義ドルイドモードを打ち破るか、制限時間経過までやり過ごすしかない。


 だが、時間に猶予がないのはむしろ法王の方だ。一刻も早くトシヒコを振り切って、聖龍を逃がすか、守らなければならない。


「時間操作能力者のドン・パッティ長男、始末しておくべきだった」


 この戦いを陰で支えているといえば、ミウラサキだ。

 彼が聖龍の時間を遅らせていることで、思うような動きができないでいる。


「降伏すれば許してやる……とは、もはや言えねえ。聖龍には退場してもらう。人間の世界を築くためにな」


 ラーとトシヒコの戦闘はさらに激化している。


 しかし、ドルイドモードの勇者トシヒコには、いっさいの攻撃が通じていないようだ。

 

 法王が光弾を撃とうにも、トシヒコの体は水になって透過してしまう。

 隕石をぶつけようとも、炎と化してすり抜ける。


 法王による極大魔法の乱撃で、湖の水はさらに干上がっていく。


 

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


直行「お、今晩はカニか? 正月でもないのに豪勢だなエルマよ」


エルマ「ベーリング海峡でカニ漁をする漢たちのドキュメンタリーを見ていたら、カニが食べたくなって奮発しましたわ♪」


知里「世界一過酷な仕事と言われてるけど、わずか2カ月間で1人あたり1,500万円ほどの儲けになるなんてまさに一攫千金だね」


エルマ「命がけで漁に出る男たちを思いながら食べるカニは格別ですわー♪ 直行さんも前の世界ではお金に困ってたみたいですし♪ どうですか一攫千金♪」


直行「超暴風の荒れ狂う極寒の海で、基本的に30時間ぶっ続けで働いて、1時間休んでまた働くなんて俺には無理だろう。必ず死者が出てるって話だし……」


エルマ「そんな船員たちの一攫千金の成果がこのカニ♪ お~いし~い♪ ですわ~♪ 資本主義サイコーですわー♪ 豊かな国に生まれて良かったですわね~直行さん♪」


直行「次回の更新は6月12日を予定しています。『直行の蟹工船』お楽しみに♪」

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