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567話・勇み足の直行

「……っ!」


 勇者トシヒコの鮮やかな槍さばきによって、アイカの両腕は斬り落とされた。


 彼女の傷口は関節の部分で見事に切断されているが、出血はほとんど見られない。


 勇者の能力“重力操作”によって、出血を押さえつけているのだろうか……。


「上腕骨頭部、関節窩の部分で切り離した。さらに刀身に魔力付与で“麻痺”をまとわせたが、気休め程度の部分麻酔だ」


 精密極まりない一太刀に特殊効果を同時発動させる。


 勇者の“凄さ”を思い知らされた。


 さらに続けて“重力操作”で宙に浮かび上がらせた両腕は、エルマの元へと飛ばされる。


「あとは鬼畜令嬢に任せた! ヒナちゃんを頼むぜ」


「万事抜かりなく♪ シン・エルマいきますわ♪」


 トシヒコの檄にエルマが応える。


 ここへきてその才能を覚醒させたエルマの奴は、アイカの両腕をベースに万能の再生肉片“太歳(たいさい)肉霊芝(にくれいし)”を創出する。


 涙目のアイカが祈るようにヒナを見た。


 とはいえ両腕を失う重傷だ。彼女はその場に膝をつき、ほとんど放心状態でただヒナを見つめるだけだった。


「水の精霊よ。アイカさまの傷口を覆い、不浄から守り給え」


 一方レモリーは水の精霊術を発現させ、肩口から鮮やかに切り取られたアイカの傷口をこれ以上損傷しないようにコーティングした。


 この技術は俺が足の健を切られたときに行われた応急処置だ。おかげで一昼夜這いずり回った後でも回復魔法で足が元通りになった。


 これでトシヒコの“重力操作”で無理やり留め置かれていた出血も、どうにか収まるだろう。


 アイカの自己犠牲の申し出に、それぞれが全力で応えた。


 何もできなかった俺は、ただその様子を眺めることしかできなかったけれど……。


「油断すんな! 聖龍が来るぞ!」


 しかし聖龍も容赦がなく、大口を開けて熱源ブレスを放出した。


 トシヒコが炎を切り裂き、直撃は防いだものの残存した熱波が押し寄せてくる。


「っくしょう」


 俺は夢中で飛び出して、ヒナと太歳(たいさい)肉霊芝(にくれいし)を持ったエルマ、ネンちゃんを防ぐような形で盾になった。


「う熱っ!」


 すさまじい熱源が体を焼き尽くそうとしていた。


 勇み足で不用意に飛び込んだことを後悔する暇もなく、俺の体は炎に包まれた。


「熱い熱い熱い熱い!」

 

 かつて経験したことのない熱さに、俺はみじめにも喚き散らしてのたうち回った。


「直行さま!」


 レモリーが水の精霊術で俺に放水し、消火作業につとめた。


 小夜子の青い障壁がいくらかダメージを軽減しているのかもしれないが、全身に熱湯を浴びせられたような状態で、俺自身どれほどの火傷を負ってしまったか想像もできなかった。


 即黒焦げではなく、“熱湯”を浴びせられた程度で、のたうち回る俺は、超人たちの戦場からは場違いなほどに弱すぎる。


 それに加え聖龍の広範囲攻撃は、俺が盾になろうとエルマたちにダメージが回らないはずはなく、後方にも熱源が広がっていく。


「おじさん! ネンは手が回りません」


「直行さん! 予備の人体パーツがないから致命傷を負ったらアウトですわ」


 ネンちゃんとレモリーとエルマの声が聞こえた。


 実力不足を知りながらも、軽率に飛び出した俺は、守るべき者たちに逆に心配されてしまった。


 熱源のために目か焼かれてしまって、俺には向こうの状況が確認できないが、どうなっているのか?


 勇者トシヒコやここにいる者たちは、みんな世界に影響を与えうる重要な役割の人たちだ。


 この舞台を設定したのは、確かに俺かも知れない。

 でも、この戦いの中で俺は何の影響力も発揮しえない。


 俺は自分ができることを探したかったが、何もできないまま戦闘不能になろうとしている──。


 いや、もともと戦闘に参加できるほどの力さえ持ち合わせてなかったけど……。


「直行くんが熱源を遮ったことで、数秒稼げた! アイカの犠牲と! エルマさんがつないでくれたこの腕で! 今度はヒナが皆を助ける番ね!」


 チリチリになっていく皮膚が、みるみる蘇る。


 火傷の進行状況よりも早く、損傷した箇所が回復していく。


 とてつもない回復魔力が、俺に流れ込んでいるのが分かった。


 それはネンちゃんのものではなく、ヒナの元から放たれていた。 


挿絵(By みてみん)


 肩口のところからところどころに継ぎ接ぎのような縫合跡ができていて、壊死した両腕は新たなものに置き換わっている。


 アイカから受け継いだものだ。


 そしてヒナの左肩には青いハイビスカスの花が刻まれていた。


次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「知里さんカニカマってあるじゃないですか♪ ほぼタラのすり身なのにカニを名乗るのは偽装じゃないですか♪」


知里「まあね。申し訳程度にズワイガニ3%とか入ってるモノもあるけど、コ〇トコのはスケソウダラ100%だもんね」


小夜子「カニエキスが入ってればカニ風味ってことで、カニカマなんじゃない」


直行「英語ではimitation crabとかわざわざcrabのスペルをKに変えてkrab stickなんて書くよな」


知里「世界中で大人気だもんね、カニカマ」


エルマ「次回の更新は6月19日を予定しています。『オーシャンキング直行』お楽しみに」

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