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557話・抹消される存在。時間よ、止まれ

(いま、私の手にあった〝何か〟が奪われた──)


 ラーの右手には、何か杖状のものが握られていた感触が残っていた。


 トシヒコによって真の力を引き出された〝濡れ烏〟が、法王ラーの持つ『四界龍王の王笏』の存在を抹消したのだ。


 ラーはじっと空になった手を見つめた。


 それはおそらく、「法王の権威の象徴」だったと思われる。

 しかし、それが何という名前だったか、思い出せなかった。


(私はいままで持っていた〝それ〟で、隕石を召喚し、にわか仕込みの電磁砲で……女賢者を戦闘不能にさせた……はずだ)


 目をしばたかせて、ふしぎそうに右掌を見る。


(どうしても思い出せない……) 


「残念だったな! 消えたお前のオモチャの名前は、俺も覚えていねえんだ!」


 法王の隙を見逃さず、トシヒコが顔面を蹴り飛ばした。


 ラーの体が〝重力操作〟の影響を受けて、コマのように回転しながら四方八方に〝落下〟していく。


「……!」


「お子様は家に帰って寝る時間だぜ」


 ラーが浮遊魔法と鈍化を重ね掛けして姿勢制御を行うものの、先回りしたトシヒコによって腹部を膝蹴りにされた。 


「〝重力操作〟で、内臓をつぶさないだけ、ありがたく思え」


「ぐふ……」


 短い悲鳴と共に頭を垂れるラー。

 さらにその目線の先に、〝濡れ烏〟の切っ先が突きつけられた。 


「……もしまだ戦うというなら、〝お前の存在〟も奪う。〝ラー・スノール〟という固有名と人格はこの世界から失われ、ただ、クロノ王国第2王子、67代法王という記録だけが残される……かつての魔王のようにな」


 トシヒコの短めに整えた髪がみるみるうちに伸びていき、毛先が金色の炎のように変わった。


「……!?」


 その変化にラーの眉がピクリと動いた。


 聖龍の動きも止まり、空を覆いつくすほどの巨体が怯んでいるようにみえた。


「トシヒコ君! まさかドルイドモードに覚醒するつもり?」


 ミウラサキはトシヒコを止めようとするような形で前線に飛び込んできた。その顔は青ざめていて、聖龍よりも法王よりも、トシヒコに怯えているようだった。


「ドンパッティ商会の長男……何の用だ?」


 意表をつかれたラーが首をかしげる。


 カレム・ミウラサキことジルヴァン・ドン・パッティ。

 謎の多い勇者パーティの出自の中では、比較的よく知られた存在だ。


 転生者だが、こちらの世界の豪商の長男として生まれ、何不自由なく育った。


 ところが13歳のときに突然、転生者としての記憶が戻ったという。

 そのとき、豪商の長男としての記憶を失ってしまった。


 前世では8歳で命を落としていたカレム少年は、見た目の年齢と精神的な年齢が合わずに苦しんでいた。


 そうした中、トシヒコと出会い、その素質を見込まれて勇者パーティに誘われた。

 ミウラサキ少年は〝ヒーロー〟になるために、魔王討伐軍に参加した。


 そして彼はトシヒコから時間操作能力を得て、パーティの主力として魔王討伐最終ステージまでを戦い抜いた。


 また、一方で実家のドン・パッティ商会を通じての物資の供給などを一手に引き受け、兵站を最重要視したグレン・メルトエヴァレンスの戦略に貢献したことも知られている。


 戦後は勇者パーティとして一代侯爵を受けており、2つの世界をつなぐ存在として、重要視されている。


「ミウラサキ、お前は引っ込んでろ」


「いや、ボクにも言わせてよ! 法王の人! 戦いは止めにしよう! トシヒコ君も、怒らないで! ヒナっちは一命をとりとめた! お互いもういいよね! 気が済んだでしょ! やめよう!」


 ミウラサキが両手を広げて、2人に懇願するように叫んだ。


 まっすぐな瞳が、本当に子供のようだとラーは思った。


 事実、前世のミウラサキ少年は前世では8歳で命を落としており、肉体年齢13歳で記憶を思い出してからというもの、自分がいま何歳だかよく認識できなかった。


「ヒナちゃんの腕、戻らねえぞ? 小僧には相応の落とし前をつけてもらわなきゃならねえ……」


 トシヒコはラーに刀を突きつけたまま、険しい顔つきで言う。

 刀身からはさらに禍々しい闘気が放たれ、蜃気楼のように空間が歪み始めた。


「ダメだよトシヒコ君! ヒナっちも〝やめよう〟って言ってたんだ! ボクらが法王の人と戦う必要なんてないはずだ!」


 ミウラサキが2人の間に立ちふさがり、必死でトシヒコを説得する。

 

「いいや、ミウラサキ。この場はもう収まらねえんだ。あいつの戦意をくじく以外にはな!」


 勇者は小さく首を振ると、右手でミウラサキの肩を押して退かした。

 そして左手の〝濡れ烏〟を逆手に持ち替えて振り絞ると、一閃──。 


「分からず屋ー!!」


 ──しかし、その寸前に時が止まった。


 〝時間操作〟の能力者ミウラサキの持つ究極の力、〝時間停止〟が発現したのだ。


 静止したのはほんの数秒だが、彼はトシヒコの姿勢を動かし、〝存在消滅〟の斬撃をラーから逸らした。

 さらに法王との射線に移動し、遮るような恰好で立ちふさがった。


挿絵(By みてみん)


「トシヒコ君も法王の人も、ボクが止める!」


 ミウラサキ以外のすべてが静止した時間の中では、その声は聞こえない。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「このお話がアップロードされた日は5月3日♪ 世間ではGWですけど、毎日がGWな知里さんには関係ありませんわよね?」


知里「まあね……って、このやりとり二回目じゃね」


エルマ「毎日がGWなら、リアル知里さんは、どこかに行ったりしないんですか♪」


知里「よほどじゃないと家でゲームしてた方が楽しいからね」


小夜子「ダメよ知里! 青春は一度きりなのよ! わたしと一緒に夕日に向かって走って汗を流すのよ!」


知里「昭和の学園ドラマじゃあるまいし……てゆうかお小夜、青春二度目なんじゃね?」


エルマ「あたくしも二度目の青春♪ これからですわー♪」


知里「次回の更新は5月7日を予定してます。『走れ! 二度目の青春!』お楽しみに」

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