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555話・空に穴が開く


「ああ……ああ……」


 致命傷を負ったヒナが、悲鳴を押し殺しながら回復魔法をかけ続けた。


 燃える体を鎮火させ、全身の火傷を修復する。


 すでに致死量を超える範囲にダメージが回っていたため、生存を最優先に頭部と胴体の治療を行う。


「遅れろ時よ! うおおおおお! ヒナっちーー!」


 彼女をサポートするため、ミウラサキが全身全霊の時間操作でヒナの周囲を流れる時間を遅らせた。


「ヒナちゃん!」


 小夜子は隕石を真っ二つにすると、刀を投げ捨て、ヒナを抱きしめる。決死の障壁でヒナの体を損傷から守ろうとする。


 生命維持を最優先に、気道と内臓へ回復魔法を唱え続けたが、四肢までには間に合わず、焼けただれたまま手の施しようがなくなっていく。


 ──女賢者ヒナ・メルトエヴァレンス、戦闘不能。



 ◇ ◆ ◇


 一方、上空では異様な光景が広がっていた。


 ラーの召喚した隕石はヒナを火だるまにした後、トシヒコの〝重力操作〟で上空に飛ばされた。

 その隕石が、夜空に穴を開けたのだった。


 花火を見ていた観客の一部が、どよめいていた。


「おい! 空を見ろよ。あそこだけ、青空だぜ?」


「花火か、手品かよ? それにしちゃ手が込んでるぜ!」


「恥知らずの趣向かい? 会場を飛ばしたり、空に穴を開けたり、どれだけ派手な遊びをするんだい」 


 その場に残った法王庁の聖騎士や、諸侯たちも騒然となった。


 ◇ ◆ ◇


 ラーは特殊能力『天耳通(てんにつう)』で、諸侯たちの声を聞いていた。

 

 ミウラサキの〝時間操作〟によって、自身の身体が重く、聞こえてくる声もゆっくりだったが、ただならぬことが起きていることは分かった。


 ──女賢者は仕留めたが……。


 とてつもないことが起こった……。


 ──空に、穴が開いたのか……?


 ラーは突如現れた穴と、その外から降り注ぐ光と青空に目を奪われた。


「このクソガキがあ!」


 一瞬の隙をついて、トシヒコがラーの後頭部を蹴り飛ばした。


 重力操作の能力によってすさまじい負荷がかかり、ラーの体は斜め下の会場まで吹き飛ばされた。


 石の床に叩きつけられる寸前、浮遊魔法と鈍化によって直撃を防いだラーは、静かに降り立った。


 そして再び空の穴を見る。


「……世界の謎……だというのか。気になるところだが……」 


 しかし、いまは一瞬も気が抜けない状況だった。

 隙を見せたらトシヒコの追撃が来るのは目に見えていた。


 聖龍を操り、勇者に襲いかからせるが、彼を止められなかった。

 高速で動く超巨大生物の攻撃を、重力操作でかわしつつ、ラーに追撃をしかけてくる。


(勇者は空の穴など、まるで気にしていないようだ……。まさか彼は穴の正体を知っているのか──?) 


 油断できない状況だが、ラーは好奇心と思考を止めることができなかった。


「…………」


 集中力が途切れそうになる。

 ミウラサキによる時間の遅延も、地味に効いていた。


 法王ラーは、それらを振りほどくように、首を振った。


「兄上……。私に力を」


 自身に言い聞かせるようにつぶやいた。

 そして〝切り裂く光弾〟で、トシヒコを迎撃する。


「させねぇよ小僧!」


 〝切り裂く光弾〟はトシヒコの重力操作によって、圧縮され、かき消された。

 

 トシヒコはなりふり構わず、ラーを殴り、蹴り飛ばす。


「無抵抗な仲間を狙うんじゃねえ!」


 拳や足先には重力による負荷がかけられており、見かけよりもはるかに重いダメージを法王に与えていた。


 一撃で意識が飛ぶほどの衝撃を受けながらも、ラーは即座に回復魔法で対応する。


 仲間を守るため、攻め続けるトシヒコとしのぐラー。

 縦横無尽に空を駆る聖龍。


 息をもつかせぬ空中の激闘──。

 

 戦局は激しさを増していく中で、膠着しかけていた。


 ◇ ◆ ◇


挿絵(By みてみん)


「ママ……カレム君……ありがとう……」


 とぎれとぎれの意識で、ヒナがつぶやいた。


 どうにか即死は免れたものの、四肢にはひどい火傷が残り、特に最後まで回復が遅れた両腕は、壊死してしまい、まず間違いなく戦闘不能の状態に追い込まれた。


 小夜子は強くヒナを抱きしめ、彼女を休ませられる会場まで戻った。


「トシ……戦っちゃ……ダメだよ……」 


 ヒナの瞳からは涙があふれていた。

 対話が通じなかった後悔と、体中の激しい痛みに、耐えていた。

 しかし、最愛の母親に抱きしめられて、涙だけはこらえることができなかった。


「ヒナちゃん。もう何も言わないでくれ……コイツとはここで決着をつけるしかねえ」


 追撃しようとする法王の前に立ちふさがった勇者からは、殺気とすさまじい闘気が満ちていた。

 トシヒコの左手には、小夜子が投げ捨ててた太刀〝濡れ烏〟が握られていた。


 重力操作によって、引き寄せたものだ。


「その刀は……」


「俺様にコレを抜かせたことを、死ぬほど後悔させてやる」


 勇者が魔王討伐時に使っていた愛刀が、6年ぶりに持ち主の元に戻った瞬間だった。

 

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「あら直行さん♪ 首筋にキスマークが♪ レモリーの愛ですか♪」


直行「……蚊に刺されただけだよ」


エルマ「子供のころは、キスマークって口紅のことだと思ってましたけど♪ 熱烈な接吻は後が残るものなんですわね♪」


直行「エルマお前、まだ子供のくせにマセたこと言うなよ」


エルマ「レモリーの首筋にもキスマークがあるじゃないですか♪ いやらしい中年同士の性愛ですわ♪」


直行「とにかく、次回の更新は4月28日を予定しています。『修羅場は続く』お楽しみに」


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