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553話・針の上で天使は何人踊れるか5

「諸侯の皆々様! どうか退避を! ここは危険です!」


 直行たちは、声を嗄らして叫び続けた。


 レモリー、ギッドをはじめとするロンレア領の幹部たちが、それぞれ諸侯のテーブルに赴き、声をかけて回っていた。


 しかし諸侯の撤収作業は一向にはかどらなかった。


 帰り支度をはじめていた者たちも、聖龍の出現に「何事か」と足を止め、突然浮上した勇者自治区のエリアと、斜めに打ちあがる花火に見入っていた。 


「おお、聖龍さまのご出現に加えて、勇者自治区のエリアが舞い上がりましたぞ! どういう仕掛けですかな!」


「いえ、予期せぬ出来事なのです。この場は何が起こるのか見当もつきません。早急な非難をお願いいたします」


 直行が諸侯たちを説得していたその頭上を、切り離された最上段の勇者自治区エリアが通過していった。


「会場ごと飛んでる! そんな仕掛けがあったなんて!」


 あまりのことに仰天する諸侯たち。

 子供のようにはしゃいだ声を上げる者もいれば、囃し立てる者たちもいた。


「踊る聖龍さまに、空飛ぶ花火大会場! まさに仰天動地の大遊戯! この席はいつ飛ぶの? ねえ、早く早く!」


 諸侯の奥方の一人が、扇をはためかせてはしゃいでいた。


「ほうほう。わしらも、あれに乗って帰りたいのう」


 赤ら顔の老貴族が、上機嫌で直行に杯を差し出しながら尋ねた。


(ヒナちゃんさんが魔力で会場ごと飛ばしたのか……) 


直行は老貴族へのあいさつもそこそこにヒナの姿を追ったが、彼女の姿はすでに法王との戦闘が行われているエリアに迫りつつある。


 ポケットの通信機で呼び出しているが、通じる気配はなさそうだ。


「女賢者ヒナ・メルトエヴァレンス一代卿とは、あいにくと現在連絡が取れない状態です。ことは一刻を争うので、まずは安全な場所まで避難していただけませんか……ささ、こちらへ」


「嫌じゃい、嫌じゃい!」


 作り笑いで老貴族に語り掛けた直行が、彼の手を取り、立たせようとした。

 しかし老貴族はそれを嫌がり、直行に差し出していた杯を奪い返すと、一気に葡萄酒を飲み干してしまった。


「ワシャ行かんぞ! こんな派手なお祭り騒ぎはそうあるものじゃない」


「ええ、あの……」


 駄々をこねる老貴族に対し、どうすることもできない直行。

 そのとき、携帯していた通信機が鳴った。


「直行さま。レモリーです。ヒナ・メルトエヴァレンスさまではなくて、申し訳ありません」


 一瞬、ヒナからの通信かと思った直行に先んじて、レモリーは名乗った。


「単刀直入に、諸侯たちの退避方法を申し上げます…………」


挿絵(By みてみん)


 ──。

 レモリーが示した案は、直行を驚かせた。


 その案とは、魚面の召喚獣である白いグリフォン〝アルビオン〟と、エルマの召喚獣〝鵺〟を使って、会場ごとピストン輸送するというもの。


「召喚獣で往復輸送するのか……」


「はい。それに私が誘導灯を灯します。法王猊下に対しては、私の精霊術は使い物になりませんでしたが、暗闇を灯すくらいなら造作もありません……」


 レモリーは火の精霊術を使って飛行場灯火のように、夜間飛行の誘導灯でサポートするという。


「だけどレモリー、退避させるのは、2000人だぞ?」


 直行の顔は青ざめていた。


 鵺とグリフォンに20人乗せたとしても、100往復もかかる計算だ。

 どれほど急いでも、朝を過ぎるだろう。


「いいえ。希望者だけで良いのです。全員を救うのは無理ですから。現に法王庁の皆さまはここに残るでしょう。たとえ物見雄山の諸侯たちが巻き込まれたとしても、わがロンレアが責任を持つことはありません……」


 レモリーは冷たく言い放った。

 彼女は従者として、異界人であるエルマや直行の価値観に合わせ、従うことに終始してきた。

 ところが今回は、率直に自分の意見を言ってきたことだ。


「俺は、あくまでも全員の救出を考えているが……」


 直行にとってレモリーの強硬策は意外だったが、彼女は顔色一つ変えずに話をさえぎった。


「いいえ直行さま。法王さまと勇者さまの戦闘のとばっちりで犠牲になる諸侯にまで気を留める必要はありません。主を失った領土は、ロンレアが統治すればいいのです」


「……レモリー……」


 それは極端な意見だと直行が反論しようとしたが、その言葉が出るよりも先にレモリーは言葉をつづけた。


「私と魚さんとで、希望者の避難は遂行します。一人でも多くの人が助かるといいですが、すべては無理です。何人斃れようともそれでいいのです。この戦は、法王猊下が起こしたものなのですから……」


 そしてレモリーは法王ラー・スノールを睨みつけた。


「……法王猊下に恨みはありませんが、私の主君の命を狙い、御耳を吹き飛ばしたこと、生涯忘れません……」


 レモリーは、強い気持ちで言い放った。


 〝強制〟の呪いがかかっている直行にとっては、肝を冷やすようなレモリーの決断だった。 

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「直行さん見てください♪ スポーツジムから黒光りツーブロックゴリラが出てきましたわ♪ あたくし生で見たの初めてですわ♪ カッコいいですわー♪」


直行「ジロジロ見るなエルマよ」


小夜子「ラグビー部のOBとか昔からああいう感じだったわ。商社マンかしら? それとも不動産会社の営業さんかな?」


知里「偏見でモノを言うのはよくないけど、あたしにとっては声が大きくて苦手なタイプだ」


小夜子「まあ骨の髄からインドア派の知里は体育会系のノリが苦手なのよく分かるけどね」


エルマ「どうして人は分かり合えないのでしょうね♪」


小夜子「でも、分かり合えない人同士が分かり合えないまま結婚して、結果的に幸せになるケースがあるから人間て面白いわよね」


直行「たとえ価値観が同じで意気投合しても、仲が悪くなってしまう場合もあるからな」


エルマ「次回の更新は4月20日を予定しています♪ 『ツーブロゴリラVSマッシュ丸メガネ。交わらないトゥー☆ブロック』お楽しみに♪」


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