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544話・パタゴン・ノヴァという男


 ソロモンとグンダリを追い詰める知里の前に、身長はゆうに3メートルを越える大男が立ちふさがった。


挿絵(By みてみん)


「アンタ誰? こいつらのために命を張るほど仲良しには見えなかったけど?」

 

 大男=七福人パタゴン・ノヴァは仮面の戦士だ。


 屈強な肉体が示す通り、七福人のなかではもっとも近接戦闘を得意とする前線指揮官だった。

 

「……それはよォ、おいらが最も知りたい問いだってんだ」


 突然、パタゴン・ノヴァは口調を変えて首にかけていた妨害(ジャミング)術具を外してみせた。


「はい? 別にアンタとは因縁とかないし……なにそのキャラ変?」


 知里はふしぎそうに首をかしげた。


 彼女の〝心を読む〟特殊能力『他心通(たしんつう)』に対抗するために、ソロモンが用意した妨害術具。あろうことかそれを自ら解除した。


(あたしも〝侮った戦い方〟したけど、受けて立とうっていうの?)


 この自殺行為ともとれる行動に、知里は言葉を失った。


「……〝闇に落ちた迷い猫〟よ。お前は人の心が読めるそうだな。お前と死闘を繰り広げる中で、自分が誰なのか知りたいのだ」


 さらに畳みかけるように放たれた言葉に、知里はあやうく噴き出すところだった。


「やっべー。いい年して中二病? っていうか自分探し系? しかも上半身裸ベルトで仮面……。キャラ変。あーあ、果てしなくめんどくさい系の奴じゃん」


 知里は引きつった苦笑いを浮かべていたが、大男の生の思考が脳内に流れ込んでいくたびに、笑みが消えていった。


 パタゴン・ノヴァ……。


 彼は、肉体と精神がそれぞれ別の人間から合成された人間型キメラだ。


 肉体の元の持ち主は孤児として生まれ、奴隷商人の手によって育てられた後、人体実験の被験者となった。


 そしてサナ・リーペンスらによって改造され、巨大化された後は、脳を抜き取られた。この際、さらに数人の人間の筋肉組織や臓器が合成されている。

  

 そこに移植されたのが、名門貴族の出身でガルガ国王の幼少期からの遊び仲間でもあったゴードという男の脳だ。


 ゴートは将来を嘱望される騎士だったが、訓練中の事故で身体に重篤な障害を負った。


 数人の人間がひとつになったパタゴン・ノヴァだが、脳を移植したはずであるにもかかわらず、時折元の被験者の記憶が混ざることがあった。


「俺は……誰なんだ……」 


 名門貴族と奴隷の2つの記憶を持ち合わせている彼は、自分自身が何者なのかよく分からなくなっていた。


「……命に代えてもあの2人は守り抜く……。だが『他心通』の宿主よ……。教えてくれ」


「……なによ?」


 知里からは笑みが消えていた。


「……私は誰なんだ。心を読んで答えを聞かせてくれ」


 男の問いは、切実なものだった。しかし知里にはそれが〝誰〟の思いなのかまでは分からなかった。


「……気の毒な人……。でも、あいにくとあたしは慈善事業のカウンセラーじゃない。無関係な〝アンタたち〟には構ってられない。あたしの獲物はソロモンとグンダリだから」


 彼女は少しだけ申し訳なさそうに瞳を伏せて、肩から生やした〝魔神の腕〟に加えて〝闇の翼〟を生やした。


 そして勢いをつけて飛び立ち、巨漢の頭を越えてソロモンとグンダリを見据える。


「逃がさない……」


「おねえさんこそ逃がさないんだよォ!」


 グンダリとソロモンを追う知里と、彼女を止めようとするパタゴンの、奇妙な戦線が展開した。


 パタゴンが左手に装備した籠手を乱暴に引っこ抜くと、知里に投げつける。


 当然、心を読んでその攻撃を察知していた知里は、ひらりと籠手を身をかわして、親友の仇を追いかける。


「クソ猫が追ってきやがる。やっぱり迎え撃とうぜ」


 グンダリがそう言うのには理由があった。


 花火大会開幕直後に見た〝未来視〟によれば、知里はこの戦闘で敗れ、湖に落ちていく。


 彼には〝未来視〟をうまく制御することはできないが、今まで見えた〝未来〟は、ことごとく現実化している。


 〝ガルガ国王の暗殺〟も、現実のものとなった。


 未来視が発動したときグンダリは影武者だと思い、まさか本人だとは思わなかった。彼がこの事実を思い出そうとすると、心の中にどす黒い感情が生まれる。


 それを振り払うように、グンダリは強引に別の考えを浮かべた。


(クソ猫に影武者はいねえ。あれは幻でもなく確かな実体だった。間違いねえ、クソ猫はここで落ちる)


 〝未来視〟と、自身のどす黒い感情と罪悪感。


 グンダリは入り混じった感情を振り払うように後ろを振り返り、蛇腹剣を振るった。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「ねえ皆さん♪ 話題のコオロギ食について意見はありませんか?」


知里「あたしは単純に虫を食べるのキモいって感覚しかないけど」


エルマ「昆虫食に関しては、ハムやかまぼこの赤色を出すコチニール色素は昆虫由来ですし♪」


小夜子「わたしの祖母は大正生まれで、よくイナゴを煮て食べてたなー。食べてみれば意外とイケたかなー。知里、偏見でモノを言うのはよくないわ!」


知里「でも嫌なものは嫌だよ、虫だけはダメ」


エルマ「知里さんは冒険者なのに虫がダメなんて意外でしたわ♪」


直行「軽々しく時事問題を語るもんじゃないけどな。コオロギ食の推進派が言うところの『将来の食糧危機に備えて』という意見も分かるけど、いま日本での食品ロスは年間522万トン。まずはフードロス削減の方が優先されるべきじゃないのか」


エルマ「次回の更新は3月16日を予定していますわ♪ 『パンがなければコオロギを食べればいいんですの♪』お楽しみに♪」

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