表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
敵VS敵! 勇者パーティVS法王の決戦
543/733

541話・直行とエルマ

 ラーの言葉が真実であれば、ロンレア領と引き換えに、俺の命は救われたことになる。


 俺は法王に許された代償として、ロンレア領の自治権を失ってしまった。


 厳密には無罪放免というわけでもなく、〝強制〟の魔法に縛られた執行猶予状態だが。


 俺が法王に反旗を翻そうとすれば即刻、頸動脈を切断される〝呪い〟がかかっている。


 半分欠けた左耳も、国王暗殺をそそのかした戒めとして、復元するなといわれた。


 異世界に召喚されて、これまで築いてきたものが、一瞬で奪われた。


 まるで心に熱湯を注がれて火傷を負ったような、屈辱と敗北感だった。


 それもこれも、俺の行動が中途半端で、軽率だったせいだが……。


「直行さんが無事ならいいんですわよ♪」


 放心状態の俺をなぐさめるエルマ。


 先ほどまでの青ざめていた顔が嘘のように元気になっていた。


 エルマは俺のせいで先祖伝来の領地を失ってしまったというのに……。


「……いいのかよ、エルマ。俺なんかのためにお前の誇りだった領地を失ってしまうんだぞ」


「構いませんわ♪ 直行さんがいなければ、わが領地など、とうの昔に借金のカタに取られて、ディンドラッド商会のお気楽な三男さまあたりが運営して、どうせクロノ王国に差し出されていましたわ♪」


 エルマの上機嫌が、俺には理解できなかった。


 首をかしげる俺に、エルマは言った。


「夫の命が保証されたのです♪ こんなに嬉しいことはありませんわ♪」

 

 夫とはいうが、俺たちには夫婦関係はない。


 ハッキリ言って13歳の彼女に恋愛感情もないし。


 しかもエルマが何を考えているのか、いつだってよく分からない。


「正直、領土のためなら俺を見捨ててもよかったんじゃないか」 


 俺はエルマのあまりにもアッサリした属国への承認に納得できないでいた。


「それに法王さまの方が、ネオ霍去病やガルガ陛下よりも統治者としてはマトモですわ♪ お父さまとて、異界人の直行さんよりも、崇拝する法王さまの傘下に入ったことを喜ぶでしょう♪」


「属国になるって、生易しいものじゃないんだぞ」


 とはいえ俺だって自分の住んでいた国が侵略された経験はない。


 しかし本などで読んだ限りでは、その国の住民はもちろん、言語や価値観、文化さえ蹂躙される。


 他国の属国になるというのは、とてつもなく重い。


 聡明だといわれた法王だって、必要とあれば暴力を用いるし、何をされるか分かったものじゃない。


「属国の立場。それを何とかするのが直行さんでしょう♪ 信頼してますわよ♪ ダーリン♪」


 エルマは欠けた前歯をむき出しにして笑った。まっすぐに俺を見上げるまなざしは、年相応の子供のようだ。


 そして満月を指さすと、レモリーの方へ小走りで行き、耳元で何かを囁いた。


「月にかかる虹……?」


 しかしレモリーが操る精霊は、強者たちに威圧されていて、消え入りそうな虹を放っただけだった。


挿絵(By みてみん)


 レモリーは真っすぐな目で俺を見ていた。


 これは、俺たち3人が誓った月虹。


 ──エルマもレモリーも俺に、全幅の信頼と期待を寄せているということか。


 あの恐ろしい法王を出し抜き、領地を取り返し、クロノ王国の侵略からも防衛する。


「無茶を言うよ……」


「恥知らずの直行さんに無茶もヘチマもありませんわ♪ そうでしょう? レモリー」


「はい」


 2人が示した俺に対する信頼は、俺が思っているよりもはるかに強いものだった。


 それに俺が応えてやれるかどうか、正直自信はない。


 ただ、エルマとレモリーの思いは俺の心に強く突き刺さった。


 今後はクロノ王国との全面戦争を避けながら、法王庁からも独立、せめて自治権を奪い取らなければならない。


「ここから生きて帰れたとしても、無理ゲーは続くな……」


 そのとき、会場の拡声器から馴染みのある楽曲『蛍の光』が流れた。


「……!」


「誰ですか♪ こんなときにしみったれたBGМを流すなんて♪」


 しみったれているかどうかは個人の感じ方だが、『蛍の光』については、パーティー閉会の合図の楽曲として流そうと前もって打ち合わせをしていた。


 とはいえ勇者自治区の人々くらいしか、その意味は伝わらないと思うけど……。


「ギッドたちが諸侯たちの誘導を始めたらしい。エルマよ、俺たちも撤収作業だ」


「卒業式やスーパーの閉店でもあるまいし♪」


 エルマはブツブツ言いながらも撤収に取り掛かる。


「行くぞレモリー」


「はい」


 俺はレモリーにアイコンタクトをとった。


 法王は俺たちの会話を聞いているのかもしれないが、もうこの場にはいない。


 巨大な聖龍を従えて、勇者パーティと睨み合いを続けている。


 一方、知里と七福人が対峙するエリアでは、こちらにまで被害が及びそうなほど派手な戦闘が繰り広げられていた。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「この話がアップロードされたのは2月27日〝国際ホッキョクグマの日〟ですわ♪」


小夜子「シロクマ可愛いよねー。私、大好きなの」


知里「でもお小夜。野生のホッキョクグマは狂暴で人を襲うこともあるんだよ」


直行「2019年にはロシアの村を50匹ものホッキョクグマが襲撃したらしいぞ」


エルマ「ヒャッハー! じゃないですか♪」


知里「次回の更新は3月4日を予定しています。『ビキニ鎧女戦士! 極寒の死闘! 小夜子VSシロクマ』お楽しみに」


小夜子「…………」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これはまだまだ山あり谷ありなのですね(^^;) 1話1話の重みがすごいです!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ