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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
敵VS敵! 勇者パーティVS法王の決戦
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540話・取引をしよう

「……法王さま」


 俺を庇いながら小夜子が何かを訴えかけようとしたが、口をつぐんだ。


 法王の視線の先にあるのは俺ではなく、エルマだ。


 彼女はまだ青ざめたまま、夢遊病者のようにおぼつかない足取りで、何かをつぶやきながら歩いている。


挿絵(By みてみん)


 エルマと聖龍が現れてから何分が経っているのか、見当もつかなかった。時間の感覚がよくつかめない。


「ロンレアの息女よ。〝恥知らず〟の助命にはいくつかの条件がある」


 法王が突然、エルマの前に瞬間移動してきて言った。

 

 ──助命の条件と聞こえたが、どういうことだ?


「条件を仰ってください。法王さま……」


 エルマはこわばった笑顔でラーの表情を窺った。


「ロンレア領は法王庁の傘下に入ること。ロンレアが開発した技術はすべて法王庁と共有し、他国に流さないこと」


 法王が出してきた条件に、俺は戦慄を覚えた。 


 ──属国になれということか!


 俺は心の中で〝ふざけるな〟と声を荒げていた。


 声に出して言いたいところだが、そうすれば間違いなく法王は俺を消し炭にするだろう。


 情けないが命は惜しい。覚悟を決めたとか、他人の命を優先するとか言っておきながら、自分では声を上げることさえできなかった。


 もっとも、そんな条件はエルマの奴が突っぱねるだろう。どの道、俺の人生はここで終わった。


「いいでしょう♪ わが夫の命に比べれば、300年続いた当家の自治など……安いものですわ♪」


 ところが、エルマはあっさりとのんでしまった。


 確か250年だったと思うが……。


 それにしても、なぜ軽々しく領地を明け渡すなどと言える?


 ああ見えて彼女にはロンレア伯の息女としての誇りがあった。


 だから先祖伝来の土地を、俺なんかのために容易には明け渡さないだろうと思っていた。


「……本当によいのか。あのような女々しい〝恥知らず〟のために」 


 エルマの態度が予想外だったのか、法王は驚いていた。


 彼が表情を崩したのを見たのは初めてだ。


「当然ですわ! あたくし約束は守ります! ロンレア領主エルマ・ベルトルティカ・バートリの名において、わが領はこれより法王庁の傘下となりましょう♪」


 法王が一瞬動揺したのを見過ごさず、エルマが一歩前へ出て畳みかけた。


「あたくしたちが開発した〝新技術〟も、ロンレアの地だけで運用し、外部には絶対に流さないこともお約束いたしますわ♪」


 しかしこの約束を守るとなると、勇者自治区との取り引きは破棄せざるを得ない。


 スキル結晶の密貿易を、あの法王から隠し通すのはまず無理だろう。


「〝恥知らず〟よ。そなたの妻は条件を飲むと言ったが、実質的な領主であるそなたに異論はないか」


 ラーが俺に確認した。


「……俺に反対する資格はありません。かの地は、ロンレア伯爵家が代々治めてきた土地です。領民の命が保証され、正当な当主エルマが決断したのならば、俺には何も言えない……」


 俺に異論を述べる資格はない。だが、後悔してもしきれない。


 〝透明な蛇〟という暗殺者を不用意に解放したがために、独立していた領土が法王領に編入される結果になってしまった。


「よいではありませんか♪ 法王領ロンレア。悪い響きでもないですし♪」


 エルマは軽くて前向きだ。


 法王ラー・スノールは兄王を失った代わりに、新たな領地を得た。

 

「領民の身の安全については約束しよう。しかし〝恥知らず〟よ、これは脅しではないが、その耳の欠損は戒めとして、そのままにしておくがいい。痛むのなら治療しても構わないが、失った部分を例の肉体再生技術でつくり直してはいけない。今回の件を、生涯忘れるな」


 ダメ押しとばかりに法王が言った。


 脅しではないと言いながら、脅し以外のなにものでもない。


 俺の左耳の半分から先はなくなっている。


 回復はしたものの、やはりバランスが悪く違和感が残る。


「……承知しました」 


 不服ではあったが、法王には逆らえない。 


「後日、使者を送る。正式な文書での調印はそのとき行う。それまでは一時的な処置として〝強制〟魔法をかけておく」


「……っ!」


 法王が事務的な口調でそう告げると、俺の首筋に刺すような痛みが走った。


 〝強制〟の魔法とは、術者の命令を強制する魔法だ。


「法王庁に楯突くそぶりを見せたら、そなたは喉を切り裂かれる。約束はゆめゆめ(たが)うことのなきよう」 


 この世界に俺を召喚したとき、エルマが言った〝期限までに売り切らなかったら死ぬ〟という呪い。


 結局あれは嘘だったが、今度は本物だ。


 ──第62代法王ラー・スノール。彼は一兵も使わずに俺たちからロンレア領と魔法科学技術を奪っていった。


 俺とエルマは帰る土地を失ってしまった。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「今回から次回予告に不定期コーナー〝実食レポ〟シリーズが登場ですわ♪」


挿絵(By みてみん)


直行「記念すべき第1回は鹿児島からツキヒガイをお取り寄せだ」


小夜子「はじめて見る貝だわ」


直行「地元以外ではあまり流通しないらしいぞ。これは、吹上浜でとれたものらしい」


エルマ「さっそく調理しましょう♪ レモリー♪ 定番のバター醤油焼きで♪」


レモリー「はい。かしこまりました奥様」


挿絵(By みてみん)


知里「じゃあ実食タイムだね。いただきまーす」


挿絵(By みてみん)


直行「なるほど、思ったよりもサッパリした味だな。ネットでは『ホタテよりも濃厚』という意見もあったけど。個体差があるのかな」


小夜子「シャキシャキした食感だね」


知里「ちょっと生っぽくない? 二枚貝はキチンと火を通さないと危ないよ」


エルマ「次回の更新は2月27日を予定していますわ♪ 『知里さん大当たりの巻』」


知里「縁起でもないこと言わないで」

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― 新着の感想 ―
[良い点] この回はエルマの純愛を見た気がしました。さらっとグッとくるんです。…あー見えて、ホントにホントに直行のことが好きなのかも♪ 直行の耳には、使わなくなった僕のイヤーカフを貸しましょうか。も…
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