53話・祝! 6000万ゼニルゲット! 論功行賞
俺といぶきの取引は成功し、晴れて俺は5000万ゼニルという大金を手に入れた。
前金と合わせると〆て6000万ゼニルを2カ月で稼いだことになる。
この売上からロンレア家の3500万ゼニルの借金を返済すれば、邸宅の差し押さえ、そして俺にかけられた呪い『失敗したら死ぬ』が解かれる。
単身で法王庁・聖都に連行されたエルマが気になるが、それは順を追って対策していけばいいだろう。
返済額を考慮しても、手元には結構残る。
もちろんこの金額は、エルマやレモリーと折半するつもりだ。
「直行さん、お疲れ様でした」
「いや、そちらにもだいぶ苦労をかけてしまった」
アタッシュケースを両手に持った俺といぶきが並んで倉庫を出る。
かなり重い。
アタッシュケースを一つ抱えたレモリーが続く。
知里は最後尾だ。
いぶきの配下のホストっぽい黒服の男たちは、まるでギャングの礼のように深々と頭を下げていた。
倉庫前で待機していた小夜子とネンちゃん。
その向こうで見張りをしていたボンゴロ、ネリー、スライシャーの護衛3人組も合流してくる。
「とにかく皆さん、本日は大変な目に遭ってお疲れでしょう。今後の展望などを話し合うことも含めて、夕食でもいかがですか? 宿の手配もさせていただきますよ? 夕食の時間まで少し休憩されてはいかがですか? 全部こちらの経費で落としますからご心配なく」
いぶきはそう提案してきた。
確かに。
飛竜に魔神に神聖騎士団と連戦の上に負傷者の治療なども重なった。
正直言って俺たちはクタクタだ。
いぶきの提案に乗って、休憩したいところではある。
「あたしはいいや。帰るよ。護衛の任務はもう大丈夫でしょう」
「でも、知里さんにはまだ報酬を渡していないけど」
「手数料込みで5万ゼニルを、旧王都の冒険者ギルドのマスターに渡しておいてくれればいいから」
「いや今払うよ。馬車の荷台に金貨を積んでるはずだから」
今回のMVPといっていい彼女には、相応の支払いをしたい。
だけど倉庫前なんて無粋な場所で金塊を渡すなんて失礼だろう。
できれば、しかるべき場所と手順で報酬を渡したいものだが。
「わたしも知里と一緒に帰らせてもらおうかな。ネンちゃんを夕飯までに連れて帰るってお父さんと約束したから……」
小夜子も知里に同調した。
しかし、いぶきが慌ててそれを止める。
「あ、小夜子さまは是非ともご同行願います。どうしても今夜、会っていただきたい方がおりますので……」
「でも、ネンちゃんを送っていかないと……」
「いいよお小夜、この娘はあたしが連れて帰る。ホバーボードなら早いしね」
「ありがとう知里」
ネンちゃんは知里に連れられて帰ることになった。
俺は何度も2人に礼を言って、名残を惜しんだ。
報酬については、先に受け取っておいた前金1000万ゼニルの金塊のうち、1万ゼニル金貨に換金していたものが50枚あったので、その中から20枚を取り出す。
知里の言い値の4倍だ。妥当なのかは分からないけど……。
俺は馬車の荷台の金庫をもぞもぞと探りながら、考えている。
気持ち的にはもっと渡しても良かったのだが、今後も定期的に仕事を依頼するかもしれないし、俺が元の世界に帰るには相当の金額が必要らしいから、この辺りが落としどころかと思った。
しかしまあ、これだけの大金を馬車に積んで移動していて、よく無事で済んだものだ。
俺みたいな根無し草の被召喚者は、今後の財産管理について考えないといけないな。
とはいえ俺が宝石をジャラジャラ身に着けるのもどうかと思うし。
お金の保管場所、考えないとな。
「本当にお世話になった。この恩は忘れない」
知里には、金貨20枚20万ゼニルを手渡した。
日本人の感覚だと、裸で渡すのは何だか忍びなかったけれども。
「これじゃ、もらいすぎだよ。紹介料5000だから、本依頼で5万が相場って言ったでしょ」
「あやうく全滅するところだったからな……いや、マジで」
何度か「受け取ってくれ」「もらいすぎ」の押し問答の末、知里は金貨を受け取った。
「分かった。当面の指名料として受け取っておく。助けが必要になったらいつでも言って。夕方、例の店で飲んでるからさ」
そう言って、知里はホバーボードにネンちゃんを乗せて去っていった。
ネンちゃんにもお礼をしたかったけれど、ちょっとダメっぽいお父さんの顔が脳裏をよぎった。
小夜子を通じて渡すのでもいいか。
「ネンちゃん、お世話になりました。ありがとう、またね」
「うん。直行のおじちゃん」
……
遠くの空に消えていく知里とネンちゃんを見送っていたら、3人の冒険者たちも別れの挨拶をしてきた。
「じゃあ、おれたちもこれで失礼するお」
「えっ? お前らも一緒に夕食……」
俺は、いぶきの方を伺ってみた。
「俺たちの護衛役だし、夕食くらい良いよな?」
「ええ、もちろん」
相変わらず、いぶきの目は笑っていないけど、承認は得た。
きっと美味しいものが食べられるのだろう。
「ご厚意には感謝しますがね、大将。盗賊ふぜいにゃ自治区の敷居は高すぎるぜ」
「吾輩を地獄の底より蘇らせてくれた礼、忘れぬぞ……」
「腹減ったら、その辺で肉買って食うからいいお」
3人なりの気づかい、というやつだろうか……。
地味にこいつらは気づかい上手だったりする。
しかも、護衛3人の今回の働きは大変なものがあったし。
危険料込みで1人頭3万ゼニルを支払うことにする。
金貨3枚を取り出し、それぞれに報酬として受け取ってもらった。
瀕死の重傷を負わせてしまったネリーには+1万ゼニル上乗せだ。
命がけの割にさほど色を付けてやれなかったのが心苦しいばかりだが、3人は飛び上がるほど喜んでくれた。
彼らにもまたいつか仕事を頼む機会もあるだろう。
こうして、その場に残されたのは俺とレモリーと小夜子。
そしていぶきというメンツになった。
「宿の手配は済んでいます。行きましょう!」
いぶきの案内で、俺たちは再びきらびやかな勇者自治区の商業施設が立ち並ぶエリアに戻っていった。




