536話・とある法王の電磁投射砲
「法王さまを捕え……!」
ヒナの呪縛魔法の投げ網が、ラーの体を捕えたはずだった。
だが次の瞬間、細身の青年の身体は光の粒子になって霧散していた。
「小僧め。光の精霊を身代わりにしやがった……だと?」
勇者トシヒコの片眉が大きく吊り上がった。
ドルイド出身の転生者である彼にとって精霊は馴染み深い存在だったが、自分たちとは縁もゆかりもない王宮育ちのラーが精霊を操れることは意外だった。
「エルフでもないのに精霊魔法が使える賢者なんて珍しいわね……」
ヒナも思わず感心した。召喚術が使える賢者として名を馳せるヒナだが、精霊魔法を使うことはできない。
一方、ラーも勇者パーティの隙のない連携に感心していた。
「守りながら攻めてくる。勝ち方を知っている戦闘集団は、さすがに心得たものだな」
そう呟きながらゆっくりと王笏を頭上に掲げ、一気に振り下ろす。
ラーの頭上に、平行に伸びる2本の光の柱が現れた。
電撃魔法を左右に放ち、魔力操作で2本の光の柱に電磁波を発生させる。
2本の柱の間には青白い力場が発生し、鈍い音が聞こえてきた。共鳴現象が起きているのだ。
「おいおい電磁投射砲の真似事かよ。それで隕石を加速させるつもりか!」
トシヒコが青ざめた。
法王ラー・スノールは〝1000年に一人の魔導の申し子〟と称された逸材である。
固有の才能に加えて勇者自治区の科学を密かに取り入れており、科学と魔法を融合させた新技術にも通じていた。
この世界では、魔法は個人の才能や資質によるところが大きい。
もちろん極まれなケースだが、ネンちゃんのような年端もいかない少女が超一級の回復魔法が使えるのもそのためだ。
(さて、にわか仕込みが勇者相手にどこまで通用するか……)
隕石を電磁波で加速させるアイデアは、ラーが即興で思いついたものだ。
(会場を背にして水平方向から撃てば、被害を最小限に抑えることができるだろう)
だが初撃の隕石落としは、小夜子の刀で真っ二つに切り裂かれた。
冷たく冴えた満月を汚すように、隕石の残骸が舞い上がり、落ちていく。
残骸とはいえ、人に当たれば無事では済まない火の玉だが、女戦士小夜子の目にも止まらぬ斬撃と、勇者トシヒコの特殊能力「重力操作」で巧く操られ、湖に落ちていった。
「こちらの手の内は明かしたくなかったんだが、仕方ねえ」
トシヒコが警戒するのは、ラーによる隕石落としの第2撃と電磁投射砲の組み合わせによる複合攻撃だ。
「小僧! もう次が来んのかよ!」
問答無用で第2撃の隕石落としを決行するラー・スノール。
「一斉攻撃など、させるものか」
幾重にも折り重なった幾何学模様の魔方陣が瞬時に浮かび上がり、燃え盛る大きな隕石が空間から頭を現してきた。
「トシ!」
「おうよヒナちゃん」
勇者と賢者のコンビが、アイコンタクトで連係する。
初手でトシヒコが一瞬で重力の渦を発現させなければ、勇者パーティは壊滅していただろう。
次いでヒナが中空を躍りながら法王の召喚魔法に突撃し、描かれた魔方陣をかき乱す。
彼女を取り巻く24本のタクトから出る光線によって作られた光の盾が、燃え盛る隕石の破片を次々と撃ち落としていく。
その間、商人ミウラサキは『時間操作』の能力でトシヒコとヒナをアシストしていた。法王と隕石の周辺の時間を遅らせている。
「いやあ見ないでぇぇぇ!」
裸同然で駆け巡る女戦士小夜子は、無敵のバリア能力を駆使して流れ弾をかき消していく。
「一斉攻撃と言いながら、あなた方は〝守り〟に主眼を置き過ぎている」
一方、隕石による電磁投射砲攻撃を阻まれたラー・スノールは、そう呟くと瞬時に戦術を切り替えた。
「キャア!」
「ヒナちゃん!」
隕石を生む魔法陣をかき乱すヒナを巻き込むように、ラーが魔方陣に電磁波を流し込み、誘爆させたのだ。
小夜子の判断が一瞬でも遅れたら、彼女は黒焦げになっていた。
「ありがとうママ」
ピンク色のバリアに包まれたヒナは小夜子を強く抱きしめた。
「……この小僧め、本気で殺す気だな」
地上では、追撃の準備に入った法王の「四界龍王の王笏」をトシヒコが蹴り飛ばし、その手を止めた。
不意を突かれて勇者に腕を蹴られたラーだが、すぐに体勢を整えると、素手で近距離から光弾を放つ。
しかしそれはトシヒコの「重力操作」によって、あらぬ方角へと落ちていった。
「引き寄せる力……」
まるで相手の能力を観察するような法王ラー・スノール。光の精霊術を駆使して王笏をその手へと引き戻した。
「勇者どの。最低でも再起不能にはなってもらい、この世界の表舞台から退場していただきます」
彼は冷たく冴えた瞳で勇者パーティを見据えた。
闇鍋の次回予告
※本編とはまったく関係ありません。
直行「むむ。今回は闇鍋か」
知里「このブヨブヨしたゼリー状のモノは何?」
小夜子「あんこうの皮じゃない? コラーゲンたっぷりでお肌にいいわよ!」
直行「じゃあコレはあん肝か。泡モノとの相性抜群だな」
エルマ「残念でした♪ 直行さんが食べたのはあたくしが入れたトラフグの肝ですわ♪」
直行「エルマお前シャレにならないぞ! フグ毒は青酸カリの1千倍の毒性を持つんだぞ。トラフグの肝一匹分で13人も殺傷できる猛毒じゃないか!」
エルマ「心配ありませんわ♪ この世界には浄化魔法がありますし♪ ジュントスさんが浄化して回復役のネンちゃんもいますわ♪ 無問題ですわ♪」
直行「ネンちゃんはともかく、ジュントスの浄化魔法で大丈夫なのか。何かシビれてきた気がするぞ」
知里「あーあ」
小夜子「次回の更新は2月9日を予定していますわ♪ 『闇鍋のトラフグ』の巻。君は生き残ることができるか♪」
※フグの肝を食べることは法律で禁止されています。
※また、『フグの衛生確保についての新しい措置基準』に沿ったフグ条例の有資格者の手によって有毒部位を除く処理方法されたものを購入しましょう。




