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531話・おびえる精霊

「直行さま。力及ばず、醜態をさらしてしまい申し訳ありません」


 ラーの放った極大の光弾によって、あわや消し炭になりかけたレモリーが復活した。


 さあ、これで反撃開始……というわけにもいかないが、少なくとも俺たちは戦線離脱の機会を得た。


挿絵(By みてみん)


 ネンちゃんの回復術の再生能力はすさまじく、えぐれていた傷口も焼きただれていた皮膚も元のきれいな姿に戻っていた。


「……レモリー。……痛かっただろう。……ごめんな」


 彼女の肉体は元に戻っても引き裂かれ、焦げ目がついたスーツとおびただしい血痕が残ったシャツはそのままで、すさまじい攻撃を受けたことを伝えていた。


「……助かって……本当によかった」


 俺は感極まって彼女を抱きしめようと近づいたが、レモリーは毅然とした態度でそれを制した。


「いいえ。今は一瞬の油断も許されません。力及ばずとも、直行さまと魚さんは守り抜きます。今度こそ、命に代えても……」


 彼女は悔しそうに唇を噛みしめていた。


 守り手として盾にすらなりきれず、戦闘不能になった自分に憤っているようだ。


「石に宿りし地の精霊よ! 盾となり、われらを守り給え!」


 レモリーは身をかがめ、浮島に張られた大理石の床に手を触れる。

 

 すると数枚の石がみるみる浮き上がり、盾のように俺たちの周囲を取り囲んだ……かに見えた。


 しかしすぐに力を失い、落下し、砕けた。


「地の精霊が……消えた」


 レモリーは唖然として、両手を見つめた。彼女の掌の中には、茶色の発光体が弱々しく輝いていたかと思うと、すぐに消えてしまった。


「いや、ここは水の精霊の支配力が強い。精霊力がほとんど宿っていない人工物から地の精霊を引き出した、そのドルイド女の能力は大したものだが、所詮は人工物だ」


 エルフの射手スフィスは、険しい表情で言った。


 ドルイド出身だが都会育ちのレモリーと、人里離れた廃墟の塔で生活していたスフィス。


 どちらも精霊使いだが、メイドとして生活に精霊術を使っていたレモリーと、本場のエルフとでは精霊に対する考え方や精霊術の扱い方は異なるようだ。


「はい。ならば〝水の精霊よ霧の盾となりてわれらを守り給え〟」


 スフィスの助言に従い、レモリーは水の精霊に呼びかけた。


 しかし、これも効果が発揮されないまま、水の精霊は消えていってしまった。


「いいえ、これは……。精霊が怯えています」


「あの法王の魔力か。ドルイド従者の実力は、十分に強者の域にある。……あの法王が規格外だということだ」


 精霊使い2人が、顔を見合わせて絶句している。


 魔力が感知できない俺にとっては、精霊が怯えると言われてもピンとこないのだが、法王が規格外というところだけは実感できる。


 とにかく、この戦場は危険すぎる。


「レモリー。無理をするな。俺たちはエルマを探して逃げることだけ考えよう」


 俺はそう言って、エルマを探すべく周囲を見渡した。


「うウ……」


 ちょうど時を同じくして、腹部を損傷し、臓物がずり落ちていた魚面も回復し、身を起こした。


 俺を尋問する目的で、あえて生かされていたために、魚面は命をつなぎとめることができた。


 しかし、当然ながら万全な状態とは言えず、顔色は青白く立っているのがやっとの状態だ。 


「魚ちゃーーん!」


 そんな魚面に、涙で顔をクシャクシャにした小夜子が抱きついた。


「小夜子サン。助けてくれてアリガトウ。アナタは英雄なのニ、人殺しノワタシを命がけで守ってくれタ」


「魚ちゃんはもう罪は償ったし、友達を助けるのは当り前じゃなーい。いつまでもそんなことを悔やまないで、前を向いて生きるのよーー!」


 小夜子と魚面は抱き合ったまま、おんおん泣いている。


「乳房と乳房が触れ合い、女たちが汗と涙にまみれる。感動的な光景ですな。ささっ、レモリーどのも、致命傷からの復活です。無理をなさらぬように、拙僧をギュッと抱きしめるのです」 


 ジュントスももらい泣きしながら、どうしようもないことを口走っている。


 緊張感に満ちたレモリーとは違い、こちらはどこか間の抜けた絵面だった。


「カレーのおねえさん。ネンすこしやすんでいいですか」


 ネンちゃんは疲れた様子で、小夜子の側にぼんやりと立っていた。


 このハーフエルフの少女が何に祈っているのかは知らないが、回復術の使い手としては群を抜いている。


 小夜子が言うように将来医者になったら、どれほど多くの人命を救うのだろうか……。


「ネフェルフローレンは私の影に」


 伯父のスフィスが小夜子からネンちゃんを奪い取るようにして、魚面とレモリー、ジュントスから距離を取った。


 上空では、ヒナちゃんさんと法王ラー・スノールが超高速で飛び回り、魔法戦を展開している。


 その向こうでは知里が〝七福人〟3人を向こうに回して大立ち回りを演じている。


 俺にできることは、一刻も早くこの場から脱出すること。


 女を盾にして、逃げる。我ながら恥知らずの異名に相応しい逃げっぷりだ。


 しかし、それでも俺はこの花火大会の仕掛け人。


 諸侯を集め、勇者自治区と協力して、この会場を湖上に造り上げた。


 ラーとヒナのすさまじい魔力戦は続いている。


 冷静な2人だから周囲を巻き込むような戦いはしていないが、それに比べて向こうの〝七福人〟3人と知里の戦い方は無茶苦茶だ。


 流れ弾が飛んでこないとも限らない。


 勇者自治区の高官や諸侯たちは、おそらく気づいているはずだ。


 ギッドたちやクバラ翁のロンレア領の仲間たちや、ワドァベルトら料理人たちも心配だ。

 

「…………彼らを戦場に置き去りにして、自分たちだけ逃げるわけにはいかない」

 

 一方、クロノ王国の飛空艇は北西の空に飛び立とうとしていた。


 厳しい状況だが、この戦場から皆の撤収作戦を指揮する者が必要だった。


 法王と勇者パーティは戦闘モード。


 クロノ国王は亡くなり、アニマ王女も飛空艇の中だろう。


 いま、この場を収められるような人物は……俺とジュントスしかいない。


 大丈夫なのか、俺たちで……。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


「1月15日といえば、小正月だな」


「昔は成人の日だったわねー!」


「成人式といえばヤンキーですわね、知里さん♪」


「最近はめっきりみなくなったけどね。ていうかお嬢。なんであたしに言うわけ?」


「冒険者なんてヤンキーみたいなものじゃないんですか♪」


「凄腕のS級冒険者にヤンキーは失礼だろエルマよ」


「失礼いたしました♪ 知里さんは本物のアウトサイダー。伝説のヤクザ屋さんでしたわ♪」


「知里いつから極道になったの! 更生しようよ」


「……小正月関係ないし、みんな言いたい放題ね」


「次回の更新は1月19日を予定しています。『龍が如く~伝説の女冒険者・知里~』お楽しみに」

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに 大丈夫??? 気になります…
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