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530話・ハーフエルフを巡る込み入った事情

挿絵(By みてみん)


「ネンちゃんの親族の方ですかな。何かカン違いをしておられるご様子ですが……」


「貴殿は法王庁の聖騎士だろう。法王庁の見解では、ハーフエルフは処刑だそうだな。ネフェルフローレンを連れ去りに来たのかと聞いている!」


 聖騎士ジュントスがなだめても、エルフのスフィスは頑なな態度を崩さない。


 まずはこのスフィスの件を、何とかしなければならないのだが……。


 この問題は、種族間にまつわる教義が元になっていた。

 

 聖龍法王庁は、異種族間の婚姻を禁じている。


 ネンちゃんことネフェルフローレンは、父が人間、母がエルフであるハーフエルフの少女。


 スフィスは少女の伯父にあたり、エルフの女王の兄でもある。


 ハーフエルフは聖龍法王庁では禁忌の存在だ。彼らの教義では、人間とエルフは決して交わってはならない。 


 先代の法王の苛烈な治世では、何人ものハーフエルフが無残にも火あぶりにされたという。


「なにか誤解されておられるようですが、立場は違えど拙僧は直行どのとは〝ズッ友〟の間柄です」


「誰と友人だろうが貴様が聖騎士である以上、信用するわけにはいかん」


「ちょっとそこの2人静かにして! ネンちゃんの集中が乱れちゃう!」


 ネンちゃんの前で睨み合うスフィスとジュントスに、小夜子が割って入った。


 彼女は背中の太刀に手をかけながら法王を牽制しつつバリアを張り、ネンちゃんと怪我人たちと俺を守っていたのだが、騒ぎを耳にして居ても立っても居られなくなったようだ。


「ネンちゃんを連れ去るって聞こえたけど?」


 小夜子は確かジュントスとは初対面のはずだが、法王庁の聖騎士とは以前、マナポーションの運搬中にリーザ率いる飛竜騎士隊にネンちゃんを連れ去られそうになったことがある。


「誤解ですぞ、誤解……!」


 ジュントスは慌てて首を横に振った。


 噂に聞く〝裸の女狂戦士〟を間近で見たためか、興奮して茹でタコのように真っ赤になっている。


 小夜子のビキニ鎧姿に、目が釘付けだ。


「……っておお! 貴殿が名高い裸の女戦士殿ですな! 初めまして拙僧がジュントス・ミヒャエラ・バルド・コッパイ。ふむ! 女戦士として完璧に鍛え上げられた最高の肉体美! 感服いたしました」


 ジュントスは小夜子の肉体をまじまじと見つめ、恐る恐る接近して匂いを嗅いで満面の笑みを浮かべた。


「え、ええ~? あの、わたし……」


 恥ずかしいのか嬉しいのか、小夜子は頬を赤らめながら両手で胸を隠した。ピンク色の障壁が俺たちをカバーするまで範囲が広がってきた。


 小夜子のスキル『乙女の恥じらい』は、本人が恥ずかしがれば恥ずかしがるほど、強力な障壁バリアが張れるふざけた能力だ。


 もちろんジュントスはそんなこと知らずに言ったのだろうが、結果的に俺にまで障壁が広がったのは幸運としか言いようがない。


「……直行、ジュンちゃんにGJグッジョブだって伝えて! これであたしは心置きなくソロモンを討てる」


 俺の頭の中に、知里の言葉が響いてきた。


 俺を守る負担が減って戦いに専念できるということだろう。


「ジュントスさん。ネンちゃんのこと、あなたを信じて大丈夫なのね」


 小夜子はネンちゃんの前に立ちはだかった。


「直行どのとは〝ズッ友〟ですからな。法王庁のことは拙僧にお任せくだされ」


 ジュントスは小夜子の顔の近くで堂々と胸を張った。


「待て。信用なるものか。貴様一人の意思で、法王庁がどうにかなるとは思えない」


 スフィスはなおも警戒しているようで、背負っていた弓に矢を番えている。


 一瞬、ジュントスは怯んだものの、大きく目を見開いてスフィスを睨み返した。


「心配ご無用。異種族排斥は先代の法王さまがとられた政策です。ラー法王猊下の御代では異種族との融和政策がとられる予定です」


 ジュントスが言ったのは口から出まかせだろう。


 弓矢を向けられて一瞬ビビったが、ハッタリで切り抜ける算段だ。


 ジュントスとは長い付き合いでもないが、彼の考えていることは大体わかる。


 この男がハッタリを言うとき、とてつもなく鼻息が荒くなるのだ。


「ばかな! いまの法王は直行どのをはじめ、異界人たちに宣戦布告したではないか!」


「左様ですな。そう! まさに法王猊下はいま! 異界人相手に暴れまわっておりますが、だからこそ世界を同じくする異種族とは融和しなければならないはずです。拙僧がそう進言いたします!」


 なるほど、ジュントスが融和政策と言い切るのは根拠がないわけでもない。


 現在の聖龍法王庁では、苛烈な取り締まりがなくなっただけで、今なお異種族間との交流は禁じられている。


 しかし、勇者自治区と明確に敵対した以上、政治的な駆け引きの中で、エルフやドルイドとの協調路線も十分に考えられた。


「カッパのおじさん。さかなのおねえさんとじょうふのひと、治した」


 そのとき、ネンちゃんが朗らかに言った。


 ジュントスとスフィスのにらみ合いの最中に、少女は治療を続けていたのだ。


 何という集中力。


 いや、単に話が耳に入ってなかったかもしれないが……。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


「1月11日といえば、鏡開きだな」


「関西などでは16日以降のところもあるみたいね」


「鏡餅って食べづらいんですけどねー♪」


「最近のパックに入ったやつは切りやすいけど、本来は切っちゃダメなんだろ?」


「江戸時代には切腹を連想させるからって。で、硬くなった鏡餅を割るんだけど、割るも縁起が悪いから〝開く〟って言い換えたんだよ」


「知里さんは魔法が使えるから鏡開きも楽でしょうね♪」


「まあね。お嬢はおしるこで食べるのかな?」


「小さなかけらも残しちゃダメだから気をつけろよエルマ」


「分かってますわよ♪ 次回の更新は1月15日を予定しています♪『攻撃魔法で鏡開き! 地獄のおしるこパーティ』お楽しみに♪」

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― 新着の感想 ―
[一言] お話の流れに少しだけホッといたしました(^^;) 地獄のおしるこパーティも興味あります(*^^)v
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