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529話・続・3人の女盾

挿絵(By みてみん)


 突然現れた法王に、俺はなすすべもなく殺される……。


 ――かと思った矢先、法王を取り囲んでいたヒナの小型魔導砲が一斉に火を噴いた。


「ヒナちゃんさん!」


 俺をかばってラーを攻撃してくれたのだ。だが俺の足はすくんでしまって、この場を離れることができない。


 逃げなきゃいけないんだろうけど、こんな瞬間移動できるようなヤツを相手に、どこに走って逃げりゃいいってんだよ……。


「うるさい」


 ラーは王笏おうしゃくをぞんざいに振り、ヒナの魔道砲を範囲魔法で薙ぎ払った。


 かと思うと、ことのついでに近距離から俺へのピンポイント攻撃の構え……。


 だが、それが放たれることはなかった。


 法王の足元の影から突如姿を現した知里が、彼の真正面に立って魔道銃を額に突きつけたのだ。


「知里……」


 一瞬でその場にいる者たちが目まぐるしく位置を変える戦闘。


 速すぎて俺にはついていけない。


 彼女は影の中から出てきたように見えた。


 あの長髪の闇魔導士もそうだったが、知里も同じ闇属性。同じような移動手段を使えるってことなのか……。


「知里。この男の命がそれほど大事だとでも?」


 法王が問うた。


「どうかしらね。ただあたしは冒険者の誇りにかけて、受けた依頼を達成するだけ。たとえ法王さまが相手だろうと……」


 知里は銃口を法王の額に突き付けたまま、引き金にかけた指に力を込めた。


 法王は無言で銃口を手のひらで覆ったかと思うと、知里の目に向けて一瞬、まばゆい光を放った。


「うっ……」


 知里がひるみ、顔をそむける。


 次の瞬間には、法王はすでに俺たちから離れた位置に飛び去っており、再度ヒナと派手な魔導戦を始めていた。


「知里さん、目、大丈夫か」


 俺は法王がいなくなったので、やっと知里に声をかけた。


 法王は光属性だ。レーザーみたいな精密なやつまで光を自在に操れる。


 あんな強烈なのを間近で喰らったら、瞳孔が焼き切れちまうぞ……。


 だが知里は、目を覆った隙にソロモン改と名乗った翠髪の闇魔導士に影を伝って追い付かれ、すでに隻眼の騎士、そして異形の大男と交戦している。


 俺を気遣って遠くの方に離れてくれていた。


(平気よ。手加減されたみたい。銃も奪われなかったし)


 知里が向こうで戦闘しながらスキルで俺に心の声を伝えてきた。


「速すぎてまったく追いつかないぞ……」


 俺はただ、唖然とするばかりだ。


 しかし、ヒナと法王が派手な戦闘モードに入ったことで、法王による俺への攻撃が止まった。 


 ……俺は標的から一旦外されたのか?


 あるいは、そう見せかけて油断したところを一撃で……?


 何にしても、俺の能力は回避特化で、戦闘力はゼロだ。個人で法王に太刀打ちできるすべはない。


 半分吹き飛んだ俺の左耳からは、生暖かい血がまだ溢れていて止まらない。ほんの数センチずれていたら左目を撃ち抜かれていたと思うと、ゾッとする。


 それでもどこか楽観的でいられるのは、知里、小夜子、ヒナちゃんが俺を守ってくれるという確信があるからだ。


 法王には「女3人を盾にする恥知らず」だと言われたが、情けない話、彼女たちに守ってもらうしかないのだから、仕方ない。


 だから、俺を「守る」と言った彼女たちを信じるのだ。


「俺の身の安全は彼女たちに任せて、自分がやるべきことをやらないと」


 法王と勇者、クロノ国王の異形の戦士たちと知里。


 彼らは多分、まだ本気を出していないのだろう。


 なぜならトシヒコは参戦していないし、観客に被害を出すべきじゃないという、みんなの理性のほうがまだ勝っている。


 だがそれも時間の問題だ。エスカレートして彼らが本気で戦いだしたら、多分とばっちりで犠牲者が出てしまう。


「そうだ……。諸侯たちを避難させなければ」


 いま俺がやらなければならないことは、この四方を水平線に囲まれた湖上の浮島から、パーティーの主催者の責任として、諸侯たちを無事に逃がすことだ。


 元はといえば、すべて自分がまいた種なのだから……。


 ◇ ◆ ◇


 俺は、自分の命を知里と小夜子とヒナの3人に預けた。


 法王を警戒したところで、俺の力ではどうすることもできない。


 できることといえば、レモリーと魚面の回復を待ちながら、エルマを探してこの場から逃げ出す方法を考えるくらい。


 いくら何でもあまりにも無力な状況だ……。


「じょうふのおばさんとさかなのおねえさんが、はやくよくなりますように……」


 一心不乱に祈るハーフエルフの少女・ネンちゃんの体からは、優しい感じのオーラが現れ、レモリーと魚面の傷を癒していく。


 一方、そんなネンちゃんを巡っては、法王庁の聖騎士ジュントスと、エルフでネンちゃんの伯父のスフィスが、睨み合いを続けていた。


「……法王庁の使者よ。ネフェルフローレンは渡さぬぞ」


 スフィスが緊張した面持ちで口を開いた。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


「直行さん♪ 2023年の1月6日は一粒万倍日と大天赦日が重なる超吉日ですってよ♪」


「エルマちゃん大天赦日とか一粒万倍日ってなーに?」


「暦を元にした占いや風水学などで定められた〝良い日〟です♪」


「俺、占いは信じないからなあ。もう過ぎてしまったし、特に何もない1日だったと思うけどな」


「何を言ってるんですか直行さん♪ すべての神様が天に昇り、天が万物の罪を許す日と言われる天赦日でもありますわ♪ 直行さんと知里さんの罪もきっと許されましたわ♪」


「ちょ、お嬢。あたしが何したっていうのよ」


「知里さんは器物損壊と窃盗で指名手配中♪ 直行さんは妻のあたくしがありながらレモリーと不倫中。あと殺人教唆じゃないですか♪」


「…………」


「次回の更新は1月11日を予定しています。『すべての罪が浄化された世界』お楽しみに」


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