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521話・賢者ヒナVS法王ラー・スノール2

「……メルトエヴァレンス執政官。あなたが正攻法を望むというのなら、受けて立とう」


 法王ラー・スノールはそう言って、法王庁の秘宝『四界竜王の王笏おうしゃく』にありったけの魔力を注ぎ込むと、賢者ヒナ・メルトエヴァレンス目がけて、真正面から振り下ろした。


 極大威力の光エネルギーが轟音と共に放たれる。


「まさに剛速球……。火の玉ストレートってとこね」


 闇属性魔導士の知里が、そうつぶやいた。


 彼女は直行と倒れたレモリーをかばいながら、一歩引いてヒナとラーの戦闘を見ている。


 直行の盾となってラーの光弾に焼かれたレモリーは、意識を失っていたが、まだ息はあった。


 超絶回復魔法少女のネンちゃんがすぐに駆け寄り、治療している。ラーに腹部を捌かれた魚面うおづらも一緒だ。


 直行は2人の無残な姿にショックを受けたのか、声も出せず、呆然と立ち尽くしている。それでもどうにか庇おうと2人に向かって腕を広げている。 


 額に汗を浮かべながら必死に治療するネンちゃんを、女戦士の小夜子がハラハラしながら無敵のバリアで守護していた。


(ネンちゃんの方は心配ないか。お小夜もいるし……。レモリー姐さんも魚ちゃんも、命はつなぎとめるはず……)


 知里は冷静に周囲の状況を判断していた。


「問題はヒナの方か……。まぁ、どんな球もヒナなら打ち返せるだろうけどね……」


 〝野球〟に例えながら知里は直行を見た。


 彼女は直行をかばっていた。ラーが直行を狙うようなら阻止するつもりだ。


(──法王さまに対して個人的な義理はあるけど、あたしは直行の用心棒を引き受けてる以上、護衛の仕事を投げ出すわけにはいかないから──)


 ◇ ◆ ◇


「う、うおっ? な、なんの花火っすか?」


 戦闘が行われている結界から少し離れた勇者自治区の貴賓席では――。


 アイカがちょうど、身のプリッとした大好物のロンレア海老を口いっぱいに頬張っていたところだった。


 閃光と轟音にパーティー会場の浮島全体が、嵐の大波に揉まれる船のように揺れた。


「す、すげー花火だったっすね? 今の」


「一瞬、真っ昼間みたいに明るくなったな」


「いやぁ鼓膜が破れそうでしたよ。火薬庫の暴発か何かですか?」


 だが揺れは急速に収まり、すぐに落ち着きを取り戻した。


「そういえばヒナさまもトシヒコさんもどこへ行ったんだろ……。しばらく姿を見かけないっすけど……」


 アイカや自治区の官僚たちは不安を口にしながらも、平穏な食事に戻った。


 ◇ ◆ ◇


「……ち、ちょっと! 結界が破れちゃったじゃない! 法王さまったら! すこしは周りの被害のことも考えてくれないと!」


 極大威力の光弾を解呪したヒナが、慌ててソロモンの結界の破れを取り繕いながら、態勢を整える。


 ラーが王笏を振り下ろしたとき、ヒナは全魔力と神経をラーの攻撃の解呪に集中していた。凌駕されるはずはなかったのだが……。


(読みが狂った? いや、ちがう……弱体化デバフがかかってたんだ)


「また解呪だろうとは思っていた。単調だな」


 だがラーは〝剛速球〟と同時に、足捌きで相手の魔術を封じる魔方陣を描き出していたのだ。


「あれは……ちーちゃんがやってた魔術の同時詠唱!」


 ヒナが思わず口走った。


(──攻撃魔法と弱体魔法を同時にかけてきてたなんて。法王さま、一歩も引く気はなさそうね。それならヒナも全力で止めに行かないと)


 女賢者は法王の弱体魔法をはねのけると、魔道の詠唱をはじめた。


「OK、ワントゥスリー&……」


 ヒナは突然ダンスを踊り始める。


 軽やかなステップ。それに合わせて、宙に浮かんだ1本のタクトが分裂して数を増やし、編隊をつくって回りはじめた。


「……異界の舞踊か? ……いや、ただの舞踊ではないな」


 ラーが興味津々に身を乗り出す。


「全身を使った動きで、召喚術式を描いているのか」


 ヒナが得意とする召喚術は、複数の魔方陣や呪文を組み合わせた複雑な術式だ。


 たとえ複数人の術者が丸一日の儀式を費やして完成させるほどの複雑な召喚術式だとしても、ヒナなら数秒で行うことができる。


 スキル『精密記憶』を持つ彼女は、複雑な魔法陣を完璧に記憶していた。


 ヒナは手足や腰の回転を駆使して、全身で三次元的に魔方陣をいくつも同時に描き出し、複合的で強力な召喚魔法を唱えることができる。


 いま24本に分裂している宙を飛ぶタクトは、いわば小型魔導砲だ。


 それがトンボのように飛び回り、ラーの間合いを取り囲んでいく。


「なるほど、これが噂に名高い〝賢者〟メルトエヴァレンスの〝躍る術式〟による全距離攻撃だな……」


 前衛、中衛、後衛。


 オーケストラの指揮者が振るうタクトのような棒状の魔導砲が空中で隊列を組む。


 それらは、ヒナの意志によって、どの位置からでもさまざまな種類の魔法を放つことができた。


(──本人は棒立ちでも攻防一体。どの距離からでも攻撃、回復、補助魔法が撃てる、自在な小型の魔導砲が8方向から3段階24本。それが超高速で球状に取り囲むように回っている……)


 ラーは素直に感心する。


 魔導士の最大の欠点である、〝近距離戦〟をカバーする戦い方だったからだ。


 近距離、中距離、遠距離から、いずれも同時に魔法が撃てる。


 しかも達人同士の魔術戦だから、術を繰り出す詠唱速度がきわめて速い。


 ラーの全方位を球状に取り囲む魔導砲。


 超高速で360度を固め、いつでもどこからでも攻撃できる。

 

「ヒナの勝ちね。法王さま、あなたは完全に包囲されました」


 ラーはいわば全方位から銃口を突き付けられた籠の中の鳥。

 

 彼女の言うように、勝負は決したかのように思われた。


挿絵(By みてみん)

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


「12月4日は大雪山・阿寒・日光・中部山岳・阿蘇が国立公園になった日だそうですわ♪」


「全部いっぺんに?」


「そう♪ 昭和9年のことですわ♪ ねえ小夜子さん♪」


「わたし昭和一桁の時代なんて知らないわ。でも、どれも雄大な景色よねー! お土産の絵葉書で見たの。行ってみたいわー」


「小夜子さん、ビキニで雪山に登るんですか♪」


「嫌ねえエルマちゃん。現実の世界では登山マナーは守るわよ。ねえ知里?」


「まあね」(お小夜はビキニ鎧で魔王領を踏破してるはずだけど、本人の名誉のために言わないでおこう……)


「ファンタジー世界にいると、ちょっと町の外に出たら国立公園みたいなもんだけどな」


「次回の更新は12月8日を予定しています。『大自然の掟』お楽しみに」

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