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508話・幻術と惨劇の狭間で

 ※今回は直行視点でお送りします。


 いったい何が起こっているのか、まったく見当もつかなかった。


 分かっていることは、ガルガ国王と思われる人物が致命傷を負って、側近のソロモンが国王の実弟でもある法王に治療を懇願したこと。

 

 しかしエルマがしゃしゃり出てきて、ガルガ王の治療を申し出たところ、クロノ王国情報相のネオ霍去病に何度も蹴り飛ばされたこと。


 俺はそんな蛮行に我慢ができずに飛び出して、霍去病を止めてエルマを庇おうとしたこと。


 そのときちょうど法王が現れて、挨拶するエルマと言葉を交わさずにすれ違ったこと……。


 ──先ほど俺が〝見た〟のは、そういう光景だった。


 ところが、いま俺が見ている状況はまるで違う。


挿絵(By みてみん)


 目の前に広がっているのは傷ひとつ負ってないガルガ国王を中心に、重臣たちが優雅に花火を観覧している光景だ。


 まるで何事もなかったかのような景色に、俺は言葉を失った。


 確かにいまも花火は次々と上がっていて、下段席にいる諸侯たちはそれを眺めながら宴を楽しんでいるようだ。


 しかし、惨劇はクロノ王国のテーブルで確かに起きたはずだ。


「……どういうことだレモリー。何がどうなっているんだ?」


 俺は通信機を取り出し、レモリーに尋ねた。


「はい。これは……幻術魔法です」


 幻術を使い、見えている景色を別のモノにすり替えることは、〝鵺〟の頭目〝猿〟がやっていた。


「誰の仕業だ?」


「向こうにいる長髪の男がクロノ王国の席の周辺に、幻の障壁をつくりだしています」


 彼女の話では、幻術を見せているのは見覚えのあるヴィジュアル系風の青年だそうだ。


 しかし、あのソロモン改とかいう長髪の青年……。


 彼の魔法の詠唱はどこか、むせび泣いているようにも聴こえる。


 大げさな表現かも知れないが、声にならない慟哭ともいえるほど、肩を震わせて何度も両手を床にたたきつけていた。


 魔法の詠唱動作なのか悲しみの発露なのかよく分からないが、ただごとではなさそうだ。


「……そういえばエルマの姿が見えないけど……。レモリーのところから、あいつの姿は見えなかったか?」


 エルマは法王とすれ違ったきり、姿が見えない。


「はい。おそらくは幻の障壁の向こう側にいらっしゃるのではないかと」


 エルマの奴は何をしでかすか分かったものじゃないから、あいつの捜索と確保は最優先課題だ。


「とにかく一度合流しよう。レモリーも監視櫓を降りて、こちらに来てくれ」


 俺はレモリーを呼んだ。 


「ああ。それとレモリー、魚面(うおづら)とスフィスにも知らせてくれ」


 戦えるメンバーをこの場に集めてしまうのは、警備上、まずいのかもしれないが……。

 

 嫌な予感がしていた。


 とにかく、法王と国王がいる、ここが最重要地点だ。


 まずはエルマの居場所を確認して、保護しつつ、この〝幻術〟の向こうで一体何が起こっているのか、それを見極めなければならない。


 何にせよ、状況は最悪──。


 たとえ影武者だったとしても、暗殺事件は起きてしまった。しかもその実行犯は、俺がそそのかした〝鵺〟の〝蛇〟だ。


 〝重要参考人〟あるいは〝容疑者〟は俺。弁解の余地はない。


 まさかの事態が起きてしまった──このような結果になってしまうとは。


「こんなとき、もっとも頼りになるのが知里さんなんだけど……」


 彼女は他人の心が読める上に、戦闘においても規格外の魔法の使い手だ。


 俺はエルマを探しながら、法王庁にある彼女の席を見た。


 しかし、そこに知里の姿はなかった。


「……!!」


 彼女がいたのは、さっきまで俺がいた監視櫓の上だった。


 目をこらしてじっと何かを見ている。


「知里さん……!」


 俺は心の中で彼女を呼び、SOSを送ってみたが、いっこうに反応はない。


 彼女の視線の先を追うと、ソロモン改がつくり出した幻影の中。


 この位置からだとよく見えないが、特定の誰かの心を読んでいるのか、神経を集中させている。


 気がかりなのは、彼女が〝七福人〟のうちの何人かに復讐を誓っていることだ。まさかこの状況を利用して敵討ちをしようとしているんじゃないだろうな……。


 それと、もうひとつ気になることがある。


 これだけの惨劇が起きているときに、勇者トシヒコ氏やヒナたちはどこにいる?


 さっきまでは勇者パーティが一堂に会して酒席を楽しんでいたように見えたけれど……。


 いま、勇者たちの席は空っぽだ。誰一人として姿が見えない。


 先ほど勇者一行とクロノ王国との間で揉め事があったから、あえて静観しているのかと思っていたけど……。


 とはいえトシヒコ氏はアニマ王女との婚約を発表している以上、彼女を守るなり、治療の手助けをするなり、何らかの協力を申し出てもおかしくはなさそうなのだが、黙って消えるっていうのはどうなんだ。


 小夜子の姿まで見えないのが気になる……。


「直行さま!」


「直行サン!」


 そうこうするうちに、レモリーと魚面が駆け寄って来た。


「俺たちも、あの幻影の向こう側へ行こう」


 動かなければ、何が起きているのかさえ分からない。


 俺は意を決して、幻の中へ入っていった。



 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。


「へい! お嬢様に大将! お久しぶりで!」


「どちら様ですか♪」


「どちら様って、盗賊のスライシャーっすよ! 忘れるなんて、あんまりですぜ」


「盗賊? 大変ですわ♪ 通報しないと♪ おまわりさーん泥棒ですわー♪」


「いや、違わないけど違いますぜ。確かにあっしは盗賊ですが、お屋敷で盗みを働いたことはありませんぜ」


「あれ? そうでしたっけ直行さん♪ 3章で小箱を勝手に空けたような……」


「お嬢様あんまりだ。そんな昔のこと蒸し返されたって、あんまりですぜ」


「おいエルマよ。スラが泣いちゃったじゃないか」


「きっとウソ泣きですわ♪」


「次回の更新は10月20日を予定しています。『逆襲のスライシャー』お楽しみに」


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