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507話・トシヒコの懸念と展望

「ざっくばらんに言う。クロノ王国の匿名集団〝七福人〟。ヤバくねえか? 人体実験を繰り返し、改造人間をつくる。もともとこの異世界に人権なんてモンを期待しちゃいないが、へったくれもねぇ。挙句の果てに、せっかくオレらが倒した魔王の遺骸を量産するようなヤツらだぜぇ。まともに付き合えるかって話だ」


 トシヒコの目は笑ってはおらず、いつになく深刻だった。


「……確かに、それは……」


 小夜子には思い当たるフシがあった。


 敵の総大将をはじめとして、人間離れした外見の者たちや、数も数えられず、ほとんど知性を感じさせない状態で戦場に駆り出されていた兵士たち。


 うつろな目で武器を持つ彼らを思い出すたびに、寒気がする。


「……でも。トシちゃんの言うとおりだとしても、それはそれ、これはこれ。ガルガさまの命は大切よ」


 一方、高官たちと話す機会の多いヒナは、そうしたクロノ王国の闇の部分に触れたことがなく、理解できなかった。


「う~ん。ヒナが会った限りでは、そこまでするほどの人たちだとは思えないけど……」


 〝七福人〟を除けば、クロノ王国高官たちとの会談は比較的円満に行われる。


 確かに〝一代侯爵持ち〟の英雄以外には尊大な態度を見せているが、ヒナ個人としては、話が通じない相手ではないという印象を持っている。


「ヒナちゃんが言ってるのは代々クロノに仕える譜代の家臣たちだろ。そう、彼らとは良好な関係を築きたいもんだよな」


挿絵(By みてみん)


「ちょっと話が見えてこないわね。七福人がヤバいって話と、国王を見殺しにすることと、でも保守派の貴族とは仲良くしたいって関係あるの……?」


「大アリさ。まず、七福人はクロノ王国の訳あり人材が所属する匿名の側近集団だが、その後ろ盾はガルガただひとりだけだ」


 事実、彼らが抜擢されたのは、ガルガ国王自らが政治の実権を握る〝親政〟以降のことだ。


「保守派の連中は、七福人を内心、軽蔑してるけどよ、奴らの武力が強いもんだから何も言えねえ」


 トシヒコは、クロノ王国の保守派は七福人を見下していると言い切る。


 訳ありの出自や経歴もさることながら、ネオ霍去病をはじめとして、粗野な言動と粗暴な振る舞いが目に付く。


 さらに公職はおろか戸籍すら持てなかった者が、突然側近になって居丈高にふるまっているのだ。


 幼少期から礼儀作法を叩きこまれた貴族出身者にはさぞ不快だろうとトシヒコは言った。


「要するに、ガルガさえいなくなれば〝七福人〟の立場は弱くなる。まぁ、それでも奴らは一騎当千。後ろ盾を失った奴らを抱き込みたい保守派貴族も出てくるだろう。どう転んでも、クロノ王国は荒れるぜぇ」 


 実のところ、なぜ〝七福人〟が異能の集団なのかというと、そもそも、超人的な戦闘力を持つ勇者トシヒコらに対抗するために、特別に組織された存在だからだ。


 現在はガルガ国王の統率力によって束ねられているが、王が失われてしまえば、やがて分裂するだろう。


「英雄外交。そう言えば聞こえはいいが、実際のところ、強大な武力をチラつかせる棍棒外交の言い換えに過ぎない……。一般人が入って来れないような武力の応酬は、カンベンしてほしいってことさ」


 そう言ったトシヒコの顔に、暗い影が差す。


 ──だから、ガルガ国王にはご退場願おう。


 トシヒコは直接的には口に出さなかったが、強い目で訴えた。


「……確かにね。ヒナたちが現役のうちはまだいいけど、次の世代のことを考えたら一般人だけで国を守れる戦力はほしいわよね。うん、それはそう……」


 その言い分にはヒナも納得せざるを得なかった。


 だからこそ、スキル結晶を量産して戦力の底上げに備えてきたのだ。


 ──ガルガ国王の排除は、千載一遇の機会なわけね……。


「ヒナちゃん、分かってくれたかい。俺たち転生者にとって、ここが安住の地になるわけだから、少しでも自分たちの住みよい社会にする必要があると思うだろ?」


「そうね。ヒナの夢は、女の子が夜でも一人で外出できるような治安の良さと、ママの活動が地道に実を結んで、誰も飢えない世界だもんね」


「そうそう。好きな人同士が立場を超えて、チュッチュチュッチュ、ラブラブできちゃうような~」


 トシヒコはヒナの肩に手を回し、唇を突き出した。


 それをヒラリとかわし、ヒナは芝居がかったステップを踏んだ。


「うん。最終的には、異界人も現地人もない〝開かれた社会〟への移行が望ましいわね。ヒナはそういう考え方が好きよ」


「ああ。そのためには、〝ありえない戦力〟の七福人をつぶす。後々戦争するよりも、いまここで静観するだけで、その可能性をグッと引き寄せられる。一般人に犠牲者が出ないのもサイコーじゃないか?」


 一般人に犠牲者が出ない。


 その言葉は、さらにヒナの背中を押した。


 しかし、小夜子の反応は真逆だった。


「わたしは反対! ヒナちゃんもトシちゃんも何を言ってるの? いくら七福人が悪い人だったとしても、ガルガ国王を見殺しにしていい理由にはならないわ!」


 彼女の意志は一貫していた。


 小夜子にとって、損得や道理はあまり関係がなかった。 


 〝一代侯爵〟の称号をかたくなに拒み続けたのも、大した成果が出ないにもかかわらず延々と炊き出しを続けたのも同じだ。


 たとえ自己満足だったとしても、小夜子の一途な思いは強く揺るがないのだ。


 彼女は同意を求めるような視線を、ミウラサキに送った。


「小夜ちゃんの心は正しいと思う。でも、ゴメン。ボクは難しい政治のことはよく分からないけど、トシちゃんの言うことに従う」


「……あーあ。小夜ちゃんがああなるとテコでも動かねえ。弱っちまったなァ」


 こうなると、勇者トシヒコといえども静観を決め込むわけにはいかない。


挿絵(By みてみん)


「とにかく、ヒナたちも現場に向かいましょう。あの幻術の中で何が行われているのか……。それだけでも把握しておく必要があるわ」


 こうして、意見が分かれたまま、勇者トシヒコ一行は幻で隠された向こう側へと足を踏み入れた。

 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。


「お小夜の好きな異性のタイプってどんな感じ?」


「う~ん。好きになった人が、好きなタイプかなぁ」


「優等生的だけど、ハッキリしないタイプともいえるわね」


「知里はハッキリしてるの?」


「まあね。あたしはゲームとかアニメとか好きだから、まず趣味が合うのは大前提」


「それに知里は面食いでしょ! ゼッタイ! 恋人探しは苦労しそうだなー」


「別に恋愛には興味ないし……」


「ウッソー! 法王さまとイイ感じだったでしょ。ちょっとお似合いじゃない! 玉の輿だし、好きだったら告白しちゃえ!」


「いや好きとかそういう……。そもそも法王さまは出家してるから恋愛も結婚もできないし」


「愛はどんな困難も乗り越えるのよ! ガンバ知里!」


「……直行です。ガールズトークの途中ですが次回の更新は10月16日を予定しています」

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