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505話・後事を託す

 一方、治療に専念できる環境を得たラー・スノールだが、思っていたよりガルガの容体がずっと深刻なことに気づいた。


 ──中途半端な回復では、痛みだけが残り、意識が失われてしまう。


 回復魔法は、術者の魔力と〝祈りの力〟に応じて、深い傷口をも元に戻すことができるものの、欠損した部分まで復元されることはない。


 ガルガは毒薬で内臓を焼かれただけでなく、いくつかの重要な臓器を抉り取られている。


「……回復魔法の限界をついてきたか」


 ──これでは、いかに王宮付きの回復術師でも対処できないだろう。


 国王ともなれば、当然その側近に強力な医療班=回復術師の一団を置いておく。さっきラーに立ちはだかった一団がその医療班だ。


 〝透明な蛇〟は、当然それを知っていたのだろう。だからこそ、内臓の欠損という回復魔法の効力が及ばない方法で致命傷を与えた。


 たった一度の機会で確実に命を奪うために、ガルガの体内から臓器を引き抜いていったのだ。


「我々にも、回復のお手伝いをさせてください……」

 

 クロノ王国の回復術師たちが、おそるおそる法王に切り出した。


「いや、ここはひとりで結構。あなた方は魔力を温存しておきなさい」


 彼らも相当な魔力と信仰心、そして高い自尊心の持ち主だった。ラーは彼らの力を信用しないわけではなかったが、国王が倒れた今、何が起こるか分からない。


(それに、兄上には特殊な〝処置〟を施す必要がある)


 ラーは魔力を極限まで集中させた〝エネルギー体〟で、欠損した器官を補う応急処置を施した。


 これは、人体に関する知識を持った上で、膨大な魔力を圧縮し、精密に制御する技術が必要で、持続時間も短い。


 彼はかつて、この方法によって欠損した心臓さえ補ったことがあるものの、救命には至らなかった。

 

 ──失った臓器を元に戻すことはできない。あくまでも時間稼ぎでしかないが、兄上には意識を保ったまま、一言でも多くの言葉を残してもらわなければ。


 彼は兄を救いたいと願うものの、それが難しい場合、覚悟しなければならないと思った。


 まずは重篤となった国王がしなければならないことを、させなければならない。


 親しい者たちへの別れと、後事のために一言でも多くの言葉を、命ある限り残させねばならない。それが弟としての務めだった。 


 ──人はいつか死を迎える。


 しかしほとんどの者が、その日がいつになるか分からずに生きている。


 ──まさか兄上にとってのその日が、今夜だったなんて。


 延命処置を続けながら、ラーは唇を噛み締めた。


 この世界での聖職者の頂点・法王の立場でありながら、ラーは神も奇跡も信じてはいない。


 聖龍という、信徒たちにとって信仰のよりどころになる存在でさえ、〝1000年の時を生きた、瘴気を喰らう生き物〟という認識だ。


 回復を主とする神聖魔法は、信仰心や祈りを効力の源にする。


 ──兄上を救えるかどうかは、信じてもいない〝奇跡〟に全てを賭けるしかないのか……。


「……ラーお前、還俗したのか……?」


 いつの間にか意識を取り戻したガルガが、驚いて弟を見詰めている。


 挿絵(By みてみん)


 宗教界の頂点である法王は、世俗外の存在だ。


 世俗のことに直接手を出すことは許されない。


 ましてや手を下した挙句、国王の治療に失敗するとなれば、法王庁の権威に傷がつく。


「さあ……。お歴々の腹次第です」


 ガルガの治療は、法王庁の神聖回復術師たちに命じてやらせなければならなかった。


 それが正しいやり方だった。


(でも彼らの力では、兄上は意識を取り戻すことさえできない)


「……兄上。王国のために、なにか言い残すことはありますか」


 そして何よりも、法王は、他国の内政に一切関与してはならないのだ。


「こうしてお前が命を繋いでくれなければ、おれは末期まつごの言葉も伝えられなかったのだな……」 


 ガルガは弟の気遣いが、痛いほど身に染みていた。


 かつて自分に遠慮するあまり出家を決断したことも含めて、弟はずっとそうしてきたのである。


「兄上。後事を託しておいてください」


 だが今回、ラーは故意に生意気な口をきいた。


「兄上は致命傷です。私は奇跡を起こすつもりですが、奇跡はあてになりません。国のために、伝えねばならないことは、家臣たちにきちんと言い残しておいてください」


「お前は……」


 ガルガは言いかけて、やめた。


 ──気遣ったつもりでいるのだろうが、それでは逆効果だぞ……。


 兄王は、弟が本質的に他者との意思疎通が苦手な性質たちであることをはじめて理解した。



 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。


「10月5日は時刻表記念日ですわ♪」


「1894年、日本初の本格的な時刻表が発行された日だな」


「ではそんな時刻表記念日の次回予告ね! 次回の更新はいつ? 何時何分何秒? 地球が何回回ったとき?」


「うわー懐かしい小夜子さん。でもその言い方、いまの子は知ってるのかな?」


「待って計算してみよう。地球は1日に1回、自転してるよね。だから1年で365回×46億年で計算すればいんじゃね?」


「より厳密には1年は365.25219040日ですからね♪ ×46億で=1兆6801億6007万5875回(22年10月5日現在)ですわ♪」


「いや待てエルマよ。何億年前は、地球の自転はもっと早かったらしいぞ。46億年前は、1日は4時間だったとも、6時間だったともいわれている」


 ※今回のネタは空想科学研究所の柳田理科雄さんの記事を参考にしています。


「柳田理科雄さんが22年7月15日に作った公式によれば、〝地球が回った回数=3兆1184億5150万4961回+2022年7月15日からの日数+(時×3600+分×60+秒)÷8万6400〟これに、今日までの日付を足せば、より正確な数が割り出せる」


「というわけで、次回の更新は22年10月9日。3兆1184億5150万5046回地球が回ったときです」



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― 新着の感想 ―
[一言] とても大変なくだりで… 文章も絵も力がこもっている感じですね… お疲れ様です<m(__)m>
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