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498話・透明と虹色

挿絵(By みてみん)


ガルガ国王が、突然喀血してもだえ苦しんでいる。


「……なに?」 


「……なにがあったの? 食当たり?」


 何事かと騒然とする会場。


「問題ない! 影武者だ影武者! 宴席を続けてくれ! ほら花火も上がってるぜ」


 グンダリは右手を上げて諸侯たちを制する。


「陛下はご無事である! 影武者とて死なれると困るので治療しているが、陛下はご無事である!」 


 ソロモンも同調し、医療班には引き続き治療を命じた。


 諸侯たちの不安まで払拭することはできなかったものの、どうにか混乱は収まりそうな気配だった。


「………」 


 一方、この暗殺劇に直行は言葉を失っていた。


 彼自身には、殺されたのが影武者なのか本物かどうか確かめる術はない。


 知里ならクロノ重臣たちの心を読んで分かるだろうが、いまは法王と歓談中だ。


 国王の真贋はともかく、直行が見たのは間違いなく「透明な蛇」だった。


 確認するまでもなかったが、直行は通信機で魚面を呼び出した。


「前に俺たちを襲った〝透明な蛇〟を見た……」


「国王の死因は『毒魚(ドクギョ)』だヨ。『鵺』に伝わる暗殺法だヨ、直行サン」


 魚面はかつて所属していた『鵺』の暗殺術だと言った。


「『毒魚』……だと?」


「魚とはイうけど、蟲だヨ。内臓を食い破る(むし)。その威力はスさまじく、相手の体内で繁殖しながらラ、食道から直腸までをズタズタに食い荒らス」


 魚面はそう説明した。


 損傷した部分は重篤な毒素が発生するために、回復魔法での治療がきわめて困難でもあるという。


「……俺たちのときに使われていたら、アウトだったな」 


「通常は、性交後に眠っている相手に使ウ。料理に混ぜるやり方は初めテ知った……」


 〝鵺〟の〝(ましら)〟たちによるロンレア領襲撃事件は、暗殺だけが目的ではなく、旧ディンドラッド商会出向組への威嚇や、近隣住民への恐怖の植え付けもあったために、芝居じみた襲撃となった。


「〝猿〟や〝蛇〟にしたラ、『破裂の呪い』は破らレるわ、知里サンやヒナサンの『敵意感知』で、攻撃パターンは読まれまくルのは、想定外ダッタろうシ……」


 直接、刃物などで首を落とそうとすれば、〝敵意感知〟の魔法によって感知されてしまう。


 しかし〝敵意感知〟や〝虚偽探知〟の魔法はそう何度も連続して打てるわけでもない。


 要人暗殺を請け負ってきた鵺にとっては、想定外だった。


 ヒナ・メルトエヴァレンスと知里との戦いで思い知った〝透明な蛇〟が編み出した技──。


 蛇の〝透明になる〟という特殊能力、殺意を忘れるほどの自己暗示、捨て身の覚悟が生んだ一世一代の暗殺術だった。 


「賊がァァ!!」 


 いっせいに襲いかかる〝七福人〟たち。


 姿なき暗殺者であろうと、一度凶行に及んだ以上は痕跡は残る。


 こうなれば〝蛇〟が追跡をを免れる方法はまずない。


 『宿命通』の使い手ネオ霍去病は、ガルガ国王の暗殺現場の過去を見る。


 さながら動画を巻き戻したように、のたうち回り、苦しむ国王の姿が脳裏に映る。彼はそのイメージを『逆流』スキルによって現出させ、〝七福人〟たちに共有した。


 魔術師としても剣士としても中途半端なネオ霍去病の能力では、姿なき暗殺者〝蛇〟を追うことはできないのだ。


「逃してはならぬ! 仕留めよ! ブチ殺せ!」


 ネオ霍去病は上ずった声を張り上げた。


「くそっ! 奴の姿が見えねえと〝未来視〟が通じねえ」


「我に任せろ。〝影〟よ伸びろ!」


 死霊使いソロモンは自身の影を伸ばして、暗殺者の微かな〝痕跡〟を探り、追う。


「アタシに任せて!」


 錬金術師サナ・リーペンスは犯行現場の床に薬品を撒いて、消えた足取りを追う。


 ──一騎当千の〝七福人〟たちによる追跡は、〝透明な蛇〟を追いつめつつある。


「…………ダメだ」


 一方、法王ラー・スノールは焦りといら立ちを隠せなかった。


 もちろん兄王の心配もあるが、背後関係も調べないうちに実行犯を処断すべきではないと考えていた。しかし、出家した元王子の立場では、自ら兄の治療に赴くことも、血気にはやる七福人を止めることもできなかった。


「殺してはならぬ! 背後関係が誰か分からない……!」


 いくら声を出したところで、七福人を諫めることはできなかった。

 

 法王の立場ではクロノ王国の重臣たちに命令する権限はない。


 ──おそらくは単なる実行犯。捕らえて首謀者を明らかしなければ……。


 ラーは忸怩たる思いだったが、ふと思い出した。


  ──いや……待て。……聞いた。余は、確かに聞いたぞ……。


 『天耳通』が先ほどまでに耳にした会話の中で、ロンレア領の者たちが何かを言っていた。


  ──〝恥知らず〟たちが言っていた〝透明な蛇〟そして〝毒魚〟……。


 ラーの顔に戦慄が走った。


「……!!……」


 知里は一連の当事者たちの心の動きに、不穏な予感を感じるばかりであった。

 次回予告

 ※本編とは関係ありません。


「直行さん♪ 昨夜の十五夜はすごい月が出てましたわねー♪」


「雨ばかり続いてたから、久々の月夜だったな」


「月見といえば、ファーストフード店が軒並み〝月見もの〟を推していますわね♪ ねえ直行さん♪」


「ハロウィン前の九月の商戦だな」


「わたしのいた時代では、お月見と言えば団子だったのよ!」


「団子じゃ商戦になりませんわ♪ コストの安い玉子を使えば利ザヤも大きいですし♪ みんな大好き玉子♪ 巨大資本らしい、隙のない経営戦略ですわね♪」


「ちなみにエルマのおススメの月見シリーズは何だ?」


「特にありませんわ♪ 次回の更新は9月14日を予定しています♪」


「お月見は団子よ! 上新粉をこねて作れば安くて安全で美味しいわよ」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  色々な意味でターニングポイントな回でした。次回が超楽しみです。 [一言] ソロモン(周瑜)が顔面蒼白となったガルガ公王に駆け寄る。  「ガルガ(孫策)、これはどういう事だ⁉」  ガル…
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