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4話・マナポーションを売りさばきましょう!

「ご存じですよね? MP回復薬」


 エルマはうず高く積まれた木箱をひとつ取り出して、開けた。

 中には栄養ドリンクほどの大きさの小瓶が、20本ほど入っている。

 その1本をつまんで、俺に見せた。


挿絵(By みてみん)


 それは、ゲームなどではおなじみのアイテムだ。

 魔法を使うと精神力を消費する。

 大抵は宿屋に泊まるかしないと回復しない精神力を回復するアイテム。

 もちろん実物を見るのは初めてだった。


「魔法の回復薬、マナポーションとかエーテルとか呼ばれてる奴だよな?」

「この世界ではマナポーションです♪」


 それを売れ、という。

 1つ2つならまだしも、これだけ高く積まれた箱を売り切るとなると、気が遠くなりそうだ。


「……これだけの数、売りさばくのは難儀だな」

「だからその道のプロを召喚したんですのよ♪」


 エルマは人ごとのように言って笑った。


「……で、コレ1本当たり、おいくら万円かな?」

「1本4800ゼニルです」


 そう言われてもピンとこない。


「この世界の物価とか分かんないけど、〝高い〟ってことでいいんだよな」

「貴重なMP回復アイテムですからねー♪」


 まあ、ゲームによっては店で売っていなかったりするからな。

 傷薬などのアイテムより割高なのは共通した話だ。


「で、こいつが24本入った箱がいくつある…?」

「600箱ですわ」


 倉庫を埋め尽くす木箱の威容に、改めて気圧(けお)されてしまった。


「これを仕入れるのにいくらかかった?」

「仕入れ値が約半分の2400ゼニルですから、約3000万ゼニルでしたわね♪」

「3000万……」


 思わず声が裏返ってしまった。

 しかし、こんなものを売るためにわざわざ現代日本から呼び出されるとは……。

 何とも不条理なものがある。


「しかし、なんでこんな大量に在庫を抱えてるんだよ! 発注ミスかよ」


 まさかコンビニやスーパーの発注みたいに、ケタひとつ間違えたとか?

 従者がいて、お嬢様と呼ばれて、貴族のような屋敷に住んでいるのに、商売に失敗したとか?


「どうですか1本?」

「話を逸らすなよ、俺は一文無しだし、1本も買えねえよ」

「商品の確認用です♪」


 そう言われて俺は差し出された小瓶を手に取ってみた。


 ちょうど、栄養ドリンクくらいの大きさの(びん)で、ラベルは貼っていない。

 当然スクリューキャップなどではなく、コルクで密封(みっぷう)されており、小さな(ふだ)のようなものが貼られている。


「こんなんでMP回復するんだ?」

「直行さんは『魔法スキル』お持ちでないみたいだから、飲んでも意味ないですけどね♪」

「意味ないなら、よこすなよ」

「まあまあ♪ 落ち着いてくださいよ」


 エルマの言動はトリッキーでつかめない。

 だが俺も外見は若返ったが32歳のオッサンだ。

 子供相手に忍耐を示すのも大人のたしなみって奴だ。


「しかし、マナポーションって言ったっけ。ゲームでしかお目にかかったことのないアイテムを生で見るのは何とも変な感じだな」

「ええ。マナポでも通じますわよ」

「略語でも通じるんだ? どういう理屈だよ?」

「それはこの世界の言語の秘密とも関連していますわ。この世界の会話は、あたくしたちの思念を声に出すようなイメージで行われますの♪」


 そう言うとエルマお嬢様は持っていた黒い扇子を指し示した。

 レースで編まれている中に文字のようなものが見える。


「直行さん、この文字が読めますか?」

「読めるわけねえ……って、いや〝親愛なるわが娘エルマへ〟って書いてある?」


 なるほど、伝わる。

 それは、書いた文字が直接頭の中で言葉に変換される感覚だ。


「でしょ。だから普通に日本語で文章を書いてくれれば言葉のニュアンスは相手に伝わります♪」


 そういえば家具に貼ってあった『差し押さえ』の文字も読めたしな。


「言葉が通じるのは助かるよな」

「実際、あたくしは転生して13年間、普段喋ってる言葉が何語かなんて意識することもなかったです♪ ただ……」

「ただ?」

「相手が知らない概念や言い回しによっては、伝わらない可能性もあるんですけどね」

「なるほど。言葉については何となく把握できた」


 俺は持っていた茶色の小瓶に再び目をやった。

 コルクに貼られた小さな札は、どうやら『劣化防止』『破損防止』の術式がかけられているようだ。

 と、いうことは『差し押さえ』の家具にも、何らかの術式がかけられているのか。


 さっき見た時はいまひとつ理解できなかったが、エルマの話を聞いてからはスッキリと分かった。

 

「……それはそうと、何でこんなに在庫を抱えているんだ? さっきは話をはぐらかされたが、ちゃんと答えてもらわないと困るぞ」

「それには深いわけと、()み入った事情がありまして……」


 エルマは言いかけて、大きくため息をついた。


「直行さん、場所を変えてもいいですか? この在庫を見ていると気が滅入りますので」

「好きにしていいから、ちゃんと説明してくれよ」

「バルコニーに出ましょう。この世界の現状も踏まえて、詳細をお伝えしておきますわ♪」


 エルマと俺はうず高く木箱が積み上げられた倉庫を後にした。


 この異世界の、現状……か。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 商品はマナポか。 マナポなら需要ありそうだけど、 こんだけ在庫あるのは何かあるな。 というか3000万近く買うとは……。 こんだけ売るのは色々と厳しそうですね!
[一言] 想像してみました 『マナポーションって言ったっけ。ゲームでしかお目にかかったことのないアイテムを生で見るの』 コルクかあ~ ウィスキー的なものなら飲めるかしら…(^^;)
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