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495話・青嵐の若王・ザ・イリュージョン

「去病よ。余が出るぞ。場を整えよ」


 飛行船の船室で、花火大会の様子を伺っていたガルガ国王は、腹心のネオ霍去病にそう伝えた。


 ◇ ◆ ◇


 一角の武人であるにも関わらず、ガルガ国王が影武者を置くのには理由がある。


 それは本人がもっとも気にしている「魔法の才能がない」という事実のためだ。


 日々の鍛錬によって達人クラスの武辺者たるガルガ国王ではあったが、本人に魔法の適正がないのは警備上、致命的なリスクがあった。


 剣と魔法、どちらかが優勢かは時代によって異なる。


 剣士と魔導士が戦った場合、先に攻撃を仕掛けた方が圧倒的に優位に立つ。基本的には闘気をまとった剣士の方が速い。


 魔法使いには魔法を発動させる詠唱時間、あるいは術式の発動時間があるため、高度な術になるほど時間がかかるためだ。


 しかしこの時代『スキル』と呼ばれる個人の特殊能力と、古代魔法を組み合わせる術式が編み出されていた。また、「圧縮」と呼ばれる術式の簡略化も、高速で正確な魔法戦が展開できるようになっていた。


 魔導士優位、剣士劣勢の時代。


 さらに暗殺の場合、どこに敵が何人潜んでいるか分からない。また、魔法罠などの仕掛けや、何日もかけて魔法陣を描くなどという自在な戦術への対策も考慮しなければならない。 


 このような「スキル+魔法全盛時代」に、暗殺の脅威から完全に身を逃れる方法はない。


 腕に覚えがある武人の国王だからこそ、それを実感できた。だからこそ「信頼できない場所に姿を現すときには影武者を置く」という基本姿勢を徹底している。


 ──だが、誇り高き王としては、いつまでも傍観者でいるのは苦痛だった。


 ガルガは耐えきれなくなっていた。


 いま、勇者自治区とクロノ王国で起きているのは些細な諍いにすぎない。


 しかし錚々たる面子である。勇者たち一行と、子飼いの七福人たち。


 弟である法王と、侵攻を打ち破り、完敗を喫したロンレアの恥知らずども。


 妹のアニマも、ことを収めようと必死になっている。


 ここに、自分だけが取り残されているように感じ、どうにも我慢ができなかった。


「会場の敵意・魔力感知はどうだ?」

 

 ガルガは近くにいた若き魔術師でソロモンの副官に尋ねた。


「……はっ。敵意感知、並びに周辺の魔力反応でも反応は見られません」


 彼は祖父の代から宮廷魔術師を務める家系に生まれた。既得権益の嫡子として生まれたので七福人には属さない。

 本来であれば保守派に属する彼だが、ガルガの親政と改革に心酔し、ソロモンと共に禁忌なき魔道の実験にいそしんでいる。


「去病。過去、周辺に不審者の侵入の形跡はないな?」


 ガルガは用心深く、索敵を命じた後に、再度ネオ霍去病に尋ねた。


「ございません、陛下!」


 ネオ霍去病は力強く、自信に満ちた声で言い切った。


 対象の人物や風景の過去を読むことができる特殊能力『宿命通』を持つこの青年に、ガルガは全幅の信頼を置いていた。


 ネオ霍去病が見せてくれた「苦い過去」、そして「他者の弱み」……これらを利用して保守派を黙らせ、若き国王は改革を断行できた。


 出自の不明なネオ霍去病は、国王に取り入ることで地位を手に入れ、ガルガもまた彼を腹心とすることで反対派を一掃することができた。


「去病、ソロモンにつないでくれ」


 そしてもう一人の腹心である死霊使いソロモン。


 彼の父親は宮廷魔術師長で、クーデターの首謀者だった。


 その事実を知ったラーは、あえてことを公にしなかったが、ソロモン本人に謀反人の子という自覚は強い。


 宮廷魔術師長とは血のつながりのない養子ではあるものの、連座制で処刑されてもおかしくはない立場でもあった。

 

 そのような自身の微妙で複雑な立場を払拭するために、名を捨てて七福人ソロモンとしてガルガに忠誠を誓っていた。 


「よし。ではソロモンよ。余を会場まで移送せよ」


「御意」


 ソロモンは影を操る闇の魔法で、自身の影を果てしなく伸ばした。


挿絵(By みてみん)


 不自然なほど長い影が地面を伝い、飛行船の内部、ガルガ国王のいる船室へと伸びていく。


「さあ、我の影にお入りください陛下……」


 船室に敷かれた赤い絨毯を黒く染め上げるように伸びた影は、ガルガ国王が座る椅子の足元にまで迫っていた。


 影の中を通って移動する禁呪。これで、誰にも気づかれずに影武者と本人を入れ替えることが出る。


「よし!」


 ガルガ国王は、武人らしく威風堂々と影に飛び込んだ。


 その先に待っている自身の運命と、ここを起点に起こる、あるきわめて重大な事件の顛末が、どのように歴史に作用していくのかなど、まるで知る由もなかった。




「9月3日はホームラン記念日だな」


「知ってるわ! 王選手がホームランの世界記録を達成した日よね!」


「1977年に王貞治選手(当時)が通算756本目のホームランを打ち、ハンク・アーロン氏の世界最高記録を更新したんだ」


「野球には興味がありませんわ♪」


「エルマは剥製が好きだろ。後にアーロン氏は、王さんにフラミンゴの剥製をプレゼントしているんだ」


「どうしてフラミンゴなんですか♪」


「知ってるわ! 一本足打法だからよ!」


「打法はともかく、フラミンゴの剥製はあたくしも欲しいですわ♪」


「次回の更新は9月6日を予定しています。『逆襲のフラミンゴ』お楽しみに」


「お嬢、闘犬に剥製好きって、悪趣味……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 息もつかせぬ展開!! しかも語り部の重厚さが全体を引き締めて あとがきの可愛らしさを引き立てています(#^.^#) これはさぞかし力が入る事かと… お疲れ様です。(^^;)
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