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488話・狼藉

挿絵(By みてみん)


「あっ!」


 小夜子とヒナが座る丸テーブルは、ちょうどクロノ王国と勇者自治区の要人たちに用意された長テーブルの真後ろにある。


 勇者自治区の執政官であるヒナの席は長テーブルにあったが、小夜子はロンレア領の客人として呼ばれていたため、専用の席はない。


 そこでヒナは母親である小夜子と一緒に座るために、丸テーブルの席に移動し、コース料理を小夜子とシェアしていた。


 二人の座る丸テーブルからは、クロノ王国の様子がよく見えた。


「!!」


 先ほどのサナ・リーペンスが小皿を投げつけるようにしたこと、ネオ霍去病が床に落ちた獣肉を蹴り飛ばしたことも目に入ってしまった。


 貧民街で炊き出し事業を行う小夜子にとっては、それは決して見過ごせないことだった。


「……食べ物を粗末にするのって、よくないわよ。旧王都には、満足に食べられない人もいるんだから」


「ママ、落ち着いて。外交の席だよ」


 ヒナが小夜子を諫めようとするものの、一歩遅かった。


 彼女は超スピードで長テーブルまで赴き、ネオ霍去病とサナ・リーペンスを公然と非難した。


「裸の女狂戦士か。爵位のない分際で、身の程をわきまえろ」


 ネオ霍去病は一顧だにせず、食べていた骨付き肉を投げつけた。


 一瞬、何が起きたか分からない小夜子。


「破廉恥な英雄崩れさん。ねえどうして今日は裸じゃないの? 見られると興奮するんでしょ。服なんて着てたらダメじゃん」


 サナ・リーペンスは囃し立てる。


「……わたしは何を言われてもかまいません。でも、旧王都をはじめこの世界には満足な食事にありつけない人が大勢います。そのことは、どうか心にとめておいてください」


 一方、小夜子も自分の意思を曲げることはなかった。骨付き肉を拾い、悲しそうな目でそれを見ていた。


「バッカみたい」


 サナ・リーペンスは鼻で笑って、食べていたアカザエビの殻を小夜子に投げつける。


 彼女は寂しそうな愛想笑いを浮かべながら、エビの殻も拾った。


「……ママ、席に戻ろう」 


 ヒナはサナに対する怒りを抑えながら、小夜子の手を取る。


「小夜子さま。ここ数年は豊作続きで、収穫は倍々に増えています。にもかかわらず、満足な食事にもありつけない人々というのは、働く気が足りないのだと思います」


 近衛騎士団の中から、もっとも若い騎士リベルが発言した。彼は先のロンレア防衛戦で、直行らと停戦交渉を行った青年だ。当然、小夜子とも面識はある。


「あなたは確かリベル君ね。先の戦いではお世話になりました」


 小夜子はぺこりと頭を下げた。


「……あ、いや小夜子さま。これはその、陛下の御前で、過ぎた発言をお許しください」


 リベルは頬を赤らめながら小夜子に一礼し、思い出したように国王に向かって深々と頭を下げた。


 階層化社会のクロノ王国では、自由な発言は許されてはいない。それでも、彼が発言したのは小夜子に興味を惹かれていたからだ。


 鬼神のような働きを見せた〝裸の狂戦士〟こと月島小夜子。

 ロンレア侵攻以来、リベルは片時も忘れることができなかった。


 見事な肉体美と破格の強さと性格のやさしさのギャップに、もう一度会いたいと心から願っていた。


 奇しくも今夜、まさか同席するとは夢にも思わなかった。


 しかし新体制下のクロノ王国の教育を受けて育った彼にとっては、小夜子の発言など、まるで意味が分からない。


 嬉しさと価値観の違いに戸惑ったことが、リベルに我を忘れて発言をさせてしまった。


 小夜子はそんな青年騎士に視線を送った後、ガルガ国王ら首脳陣に言った。


「……わたしは、みなさんと議論をするつもりはありません。勇者トシヒコさんとアニマ王女さまの婚約発表のおめでたい席に、無粋な話題なのは承知しています。ですが、どうか飢えた人々のことは心に留め置きください」


「…………」


 小夜子は魔王討伐メンバーで、慈善事業家ではあるが、何の肩書もない。彼女の発言はクロノ王国首脳陣には全く届かなかった。


 アニマ王女は、きょとんとした顔で小夜子を見ている。


 ヒナと小夜子は国王とその妹姫に一礼し、その場を去ろうとした。

 事態は、これで収まるかにみえた。


「おい! 誰ださっき俺様の大事な大事な小夜ちゃんにエビの殻なんざ投げつけた奴は!」


 いつの間にか、どこからともなく飄々と現れたのは勇者トシヒコ。

 

 彼はグラスに残ったスパークリングワインを宙に浮かべ球体を作る。

 そして指先を振り下ろすと、球体は高速で移動し、サナ・リーペンスの顔面に命中した。


挿絵(By みてみん)


 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。


「8月13日といえばお盆だな。そういえばエルマよ。ロンレア領ではお盆やお彼岸はどうしてるんだ?」


「当家は代々、聖龍教会の熱心な信徒♪ 仏教徒でもないですし、神も仏も知ったことではありませんわ♪ ねえ知里さん♪」


「罰当たるよお嬢。あたしは一応、亡くなった冒険者仲間の御霊は弔ってるつもりよ。けっこう皆よく死ぬしね」


「知里はしっかりしてるのね! 偉いわ! 送りお盆といえば、キュウリとナスで『精霊馬』を作るのよね!」


「次回の更新は8月16日を予定しています。『お盆だよ全員集合!』お楽しみに」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  敵方の女性キャラが小夜子さんに挑発するまでは既定路線というか普通の展開だったのですが女性には甘い性格なんじゃないかと思っていたトシヒコさんがやり返した場面などは良い意味で意外性のある展開…
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