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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
花火大会編・オープニングセレモニー
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484話・ノー・サイド! 闘犬大会の合唱♪

 水平線に日は落ち、宵の口が訪れた。

 深い紺色の空と、さらに濃く沈んだ水面。


 人工浮島には、精霊石の明かりが灯る。


 第3回エルマ杯は、白コボルトの優勝に終わった。

 本人以外にとっては心底どうでもいい茶番劇だったが、エルマは嬉しそうに小躍りしている。


「敷物! 再ゲットですわー♪」


 エルマとコボルトのエ○ザイルダンス。

 正式名称は知らないが、上半身をグルグルと交互に回すやつだ。


 クロノ王国の重臣たちは、どう反応していいか分からずに戸惑っている。

 

「酔狂というか……。つい先日まで徹底抗戦していた領主とも思えない道化ぶりですな」


 さすがのネオ霍去病も、エルマのあまりにも奇矯な振る舞いにはついていけない様子だった。


 そんな中、エルマは唐突に俺を「ビシッ」と指さした。


「あたくしの夫が元いた世界では〝ノー・サイド〟という言葉がございましてね♪」


 全員「ポカーン」だった。

 七福人たちの混乱など一向に構わずにエルマは小躍りを続けた。


 4匹のコボルトたちも〝グルグル・ダンス〟をしながら、エルマを立てる。


「敵同士が殴り合っても、リングを降りたら恨みっこなし♪」


「ノーサイドッ!」


 エルマの言葉に、コボルトたちは歌うように合の手を入れた。


 彼らは犬頭の人型モンスターだ。声帯も人間とは違うだろうに、〝ヌォーサイド〟と、良い感じの発音で喋っていた。


 エルマは言葉を続ける。


「あたくしたちは不幸な誤解から、多くの血が流れました。戦場に散った命に哀悼の意を示しつつ。あたくしたちは未来に向けた関係を構築すべきだと考えております♪


「ノーサイッド!」


 エルマの奴は茶化しているのだか真面目なんだか、俺にはまったく判別がつかなかった。


「国王陛下♪ 王女様の未来に、このお歌を捧げますわ♪」


 そう言うとエルマとコボルトは横一列に整然と並び、歌い出した。

 コボルトたちも低い声から高い声まで、小器用に合唱する。


 華やかな饗宴会場に、素朴なメロディーが鳴り響いた。


「この曲は……」


挿絵(By みてみん)


 エルマたちが歌っているのは、『ケンタッキーの我が家』という古い歌だ。

 アメリカ合衆国ケンタッキー州の州歌として知られているが、某巨大資本のフライドチキン・チェーン店のCМソングといったほうが、日本人には馴染み深いのかも知れない。


「歌……下手じゃね」


 女錬金術師サナ・リーペンスは呆れた。

 滔々と声を張り上げるエルマだが、子供っぽいダミ声の上に微妙に音程を外している。


 しかしどうやって訓練させたのか、コボルトたちは絶妙なコーラスワークだ。


 パンツ一丁なのはご愛敬だが、テナーからバリトン、ベースまで、本格的な混声四部合唱を聴かせてくれる。


 その歌声、まるで往年の男性の重唱団(ボーカル・グループ)を思い出させる。


「まあ! なんて可愛らしい領主さまでしょう。お兄様、わたくしとても嬉しい気持ちです」


 アニマ王女は嬉しそうに瞳を輝かせていた。


「くくっ」


 隣席からその様子を見ていた知里は、笑いをこらえるのに精いっぱいだったようだ。


 ──しかし、直行。お嬢もよくやるよ。しかし家宝の虎の敷物って、どれほどのものなんだろうね……。


 わざわざ『他心通』と『逆流』を使ったテレパシーで、そんなことを伝えてくる。


 法王庁産ワインの特別な逸品「血の教皇選出」で満ちたグラスを回しながら、知里とラーは闘犬大会の喧騒を見ていた。


 俺は警備用の無線でレモリーを呼び出し、風の精霊術で知里との遠隔会話を頼んだ。


「もしもし知里さん。ロンレア伯爵家の家宝の虎の敷物は、実は俺も見ていないんだ。エルマの話だとピンク色の巨大虎らしい。博打好きの先々代がピンクに塗ったんじゃないかって説があるけど……」


「ふうん……」 


 知里は返答に詰まっているようだ。


 何だかよく分からない沈黙が続いていたが、レモリーは律儀に風の精霊を行き来させて知里と法王の会話を届けてくれていた。


「知里。あれは異世界の歌ですか。独特な音程なのですね」


「いえ法王猊下。あれは歌い手の音程が少しはずれているのでそう聞こえるのでしょう」


 盗み聞きのようで少し心が痛んだが、知里と法王がいつの間に仲良くなっていたのか、気になるところではある。


「〝彼女〟がロンレア伯の一人娘エルマですか。物々しい二つ名で呼ばれているわりに、奇矯な振る舞いが目立つようですね」


 法王ラーは、俺が聞き耳を立てていることをお見通しなのだろう。俺をチラリと見ながら、エルマについて触れた。


「まあ……でも、あたしの雇い主の共同統治者なので、何とも申し上げられません。二つ名は〝鬼畜〟ですが、この世界に害をなす存在ではないですよ」


 一方、知里はそう言ってフォローしてくれた。


 何はともあれ、闘犬大会は無事終了し、いよいよメインイベントの花火大会が始まろうとしていた。

 次回予告

 ※本編には全く関係ありません。


「8月1日は水の日ですわ♪」


「何の語呂合わせ?」


「さすが小夜子さん♪ いい質問ですわ♪ 1年を通して8月が一番水を使う量が多い月だからですって♪」


「ちゃんとした理由なのね」


「8月1日は他にも〝パイ〟ってことで母乳の日や、麻雀の日でもありますわ♪」


「次回の更新は8月4日を予定しています♪ 〝小夜子危うし!まさかの脱衣麻雀回!〟お楽しみに♪」


「水の日を流してるんじゃないよ……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 一瞬目が…『・』で…爆笑!! 唄の様子を目で見る事ができるなんて!! さすがサトミ☆ン様です!!(#^.^#)
[良い点]  今回のお話、私の要望を取り入れてくれてどうもありがとうございます。一番良かったのはエルマさんの歌に対する敵方の酷評でした。しかし読んでいる限りでは物々しい雰囲気に包まれた社交場を和やかに…
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