表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
花火大会編・オープニングセレモニー
484/734

482話・伝説のワイン・血の教皇選出

※今回は三人称でお送りします。


「知里。『鍵』を渡せとは言いません。ただ、今後『知り得たこと』は話してほしい。それを頼みたくて、ここにお呼びしました」


 法王ラー・スノールの言葉には、ふたつの意味があった。


 「秘密の共有」と、「抜け駆けを禁止すること」──そう知里は理解した。


「それは法王猊下が直々に、〝札付きの冒険者〟に依頼したと解釈すればいいでしょうか」


「ええ。〝札付き〟などと呼ぶつもりはありませんが。知里、貴女に自覚はなさそうですが、貴女もまた、この世界に重大な影響を及ぼしうる異界人のようですから……」


 そう言ったラーの心には、敵意はなかった。


 一方、そんな2人のやりとりを、クロノ王国の七福人・死霊使いソロモンは闇魔法を応用した術で盗聴していた。


 知里はその動きを感知している。

 

(ソロモン……奴とはいずれ決着はつける。だけどいまは我慢しよう)

 

 可能であれば、すぐさま殺したいほどの因縁がある。


 クロノ王国側の長テーブルでは、親友の仇。暢気にワインを飲んでいる騎士グンダリと、こちらを警戒している死霊使いソロモン。


 2人とも、知里に心を読まれない対策、魔力妨害の魔法具を身に着けていた。


「なあソロモン。あのクソ猫。この場で始末しちまわねぇか……?」


「法王猊下には深いお考えがあるようだが、あの女が我らを仇とする以上、静観はできない……」


 グンダリもソロモンも、いつ知里が仕掛けてきてもいいように、警戒は怠らない。

 和やかな雰囲気の会場で、この3名だけが殺気を帯びていた。


 ラーは殺意の中を泳ぐように、穏やかな微笑みを浮かべた。


「さて知里。『鍵』のことはひとまず置いておいて、とっておきのワインがあるので、よろしければお付き合いください」


 そう言ってラーは、控えていた従者に目配せをする。

 たったそれだけのアイコンタクトで、従者たちはアンフォラと呼ばれる陶器に入ったワインを持ってきた。


挿絵(By みてみん)


「〝血の教皇選出〟……!!」


 法王庁が誇る祭祀用ワインだった。ごく限られた土地で、選ばれた聖職者によって栽培された赤ワイン。苗木の植え付け作業から、特別な祈祷と浄化魔法によって〝聖化〟されるという。


 このワインが飲めるのは、法王や王族の即位など、極めて限られた関係者に限られる。


 かつて勇者トシヒコたちが一代侯爵の爵位を得たとき、そのワイン欲したことがあったが、わざわざ〝異界人は飲んではならない〟という法律まで作って飲ませなかったという、いわくつきの逸品。


「まさしく法王さまにとって、勝利の美酒でしょう。あたしなんかが飲めるものじゃないですよ」


 さすがの知里も遠慮せざるを得ない。

 だが、法王はにこやかに笑って言った。


「今回の異文化交流会では、各勢力が互いに歩み寄ろうとしています。お互いに守るべき伝統は守り、歩み寄る姿勢はとても好ましく思います」


「守るべき伝統だったらなおのこと、血の教皇選出(それ)を異界人に飲ませたらダメなのでは」


「世界の秘密の口止め料としては、安い物でしょう」


 法王は再び従者に目配せをした。

 従者は静かに歩み寄り、手慣れた様子でワインを開ける。そして優雅な手つきで、ゆっくりとグラスに注ぐ。


 一連の作業を済ませると、従者は静かに席を外した。流れるような動作だった。


 知里と法王は、お互いの盃を捧げる形で乾杯をする。


「『不死者たちの砂漠』の夕暮れを思い出します」


 唐突に、法王ラー・スノールは茜空に目をやった。


「……そうですね」


 知里にとって、忘れることができない親友。


 彼女は、赤い薔薇のような人だった。


 すぐ向かいのテーブルには、その仇が座っている。


 ──お互いの攻撃射程内で……会食なんて……。


 隙をついたら一撃で仕留められる。


 ──不意打ちで仕掛けるか……?


 しかし、いかに無頼の冒険者である彼女としても、誘ってくれた法王や、雇用主である直行とエルマの顔に泥を塗ることはできないとも理解している。


 ましてや、グンダリもソロモンも相当な手練れだ。戦うとなれば、この会場を巻き込みかねない。


 知里の心の中で、憎悪と理性が天秤のように揺れる。


 ──向こうがその気なら、迎え撃たないわけにはいかない。


 彼女は2人に鋭い視線を投げかける。

 その瞳は魔力の炎で燃えていた。

 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。


「7月27日は〝スイカの日〟だそうですわね♪」


「夏真っ盛りだから〝スイカの日〟ね!」


「違いますわ小夜子さん♪ スイカの縞模様が夏の綱……な(7)つのつ(2)な(7)でスイカの日ですわ♪」


「ちょっと無理に寄せた感はあるけどな」


「あたしは鳥取の〝大栄西瓜〟と山形の〝尾花沢スイカ〟が好きだな」


「北海道の〝でんすけ〟や、〝ダイナマイトすいか〟も有名だな」


「同じダイナマイトでも直行さんが好きなのは旧王都下町産〝八十島スイカ〟ですわ♪」


「やーねーエルマちゃん!」


「スイカほどお胸があっていいじゃないですか♪ あたくしと知里さんなんかささやかなものですわ♪」


「次回の更新は7月29日を予定しています。『スイカの小夜子とパイナップルのヒナ』お楽しみに」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ