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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
花火大会編・オープニングセレモニー
483/733

481話・世界の秘密を解き明かす者たち

 ※今回は三人称でお送りします。


挿絵(By みてみん)


 ──逢魔が時。


 夕日が西の空を燃やし尽くすように赤く染め上げている。


 天頂付近は薄紫の空だった。


 夜のセレモニーを前に、法王庁のテーブルにも長い影が伸びる。


 ──法王さまは、何だってあたしなんかを直々に指名しちゃったのか。 


 聖龍教会・第67代法王ラー・スノールの隣席に、知里は座っている。


 ──まいったなぁ……。


 周りには高位の聖職者や聖騎士たち。


 冒険者として過ごした知里のこれまでの人生では、余程のことがない限り接点のなかった者たちとの同席だ。


 知ってる顔も、生臭坊主ジュントスと女騎士リーザくらい。それも知里にとっては微妙な関係の2人だ。


 ジュントスは性欲の権化のような男で、知里にも興味津々。


 一方のリーザとは、何度か命のやり取りをしたり、罵り合ったりしたかたき同士だ。


「あたしのようなお尋ね者の冒険者を呼ぶなんて、法王さまもお戯れが過ぎるようで……」


「……頼みたいことがあるのです。内々の依頼ではないので、あのように第三者がいても構いません」


 法王は空間を挟んだ遠く向かい側のテーブルを見ている。


「……」


 知里の表情が硬くなった。


 ──第三者っていうか、クロノ王国は明確に敵だけどね……。


 法王庁と知里は決闘裁判で一悶着あったが、クロノ王国とは文字通り殺し合いをした関係だ。


 向かいの長テーブルに座る者たちのうち、死霊使いソロモン、隻眼の騎士グンダリは親友の仇でもある。


 できればこの場で殺してしまいたいほどに、知里は彼らを憎んでいた。


 それをしないのは、彼女なりの直行や法王への義理立てと、冒険者としての矜持だった。


 そんな知里に、静かに語りかける法王ラー・スノール。


「『時空の宮殿』で、貴女が得た宝物について、知りたいのです」


 ラーが尋ねた。その問いは、知里が一番怖れていたものだった。


 砂漠の果てにある遺跡『時空の宮殿』の探索。それは、彼女にとって思い出したくない記憶だった。


「……なんの……こと、でしょう?」


 ──どうする? なんて答えたらいいか……。


 知里は肌がざわつくのを感じた。


「クロノ王国が『窃盗』で貴女を指名手配しているということは、当然何かしらの〝物〟を手にしているはずです」


 知里が時空の宮殿で得た宝物は、親友が命懸けで託してくれたものだ。


 一方でそれは「兄が使っていたスマートフォン」という、知里以外の者にとっては価値のない単なる「工業製品」でしかない。


 なぜ、砂漠を超えた先の古代遺跡にそんなものがあったのか──?


 知里が『時空の宮殿』で体験した「元の世界の記憶」は現実なのか否か──?


 1000年前の遺跡の謎と、兄のスマートフォンの意味──?


 そもそも法王は、「兄のスマホ」について、どこまで知っているのか──?


 知里は、ラーから視線を逸らし続けていた。


 やろうと思えばその心を読める。彼は妨害魔法を使っていない。


 ──「心を読みたければどうぞ」と言わんばかりの余裕ね……。


 逆にそのことが、彼女をより不安にさせる。


「……話したくなければ、『答えるフリ』だけでも構いません」


 まるで彼女の不安を見透かされたかのようで、知里はぞっとする。


 心が読める知里が、逆に心理状態を読まれている。


 ごまかすことはできないだろうと、知里は腹を決めた。 


「……〝宝物〟だと、法王猊下はおっしゃいましたけど、〝それ〟はあたしの個人的な思い出の品で、この世界の人々にとっては、まったく価値のないものです」


「……そうでしょうか。法王庁に伝わる文献には、『時空の宮殿』の宝物は『世界の秘密を解き明かす鍵』だと記されています。心当たりはありませんか」


 ラーは遺跡『時空の宮殿』について、数少ない文献と、「特殊な冒険者のふりをした」現地調査の経験を照らし合わせ、独自の研究を続けていた。


 その結果、かの迷宮には「世界の創造」に関する重大な秘密が隠されていると思われた。


 一方、知里はそこまでの真相にはたどり着いていない。


「心当たりはありません。いえ、まったく……」


 ──世界の秘密? 法王はあたしの知らないことまで知っているの?


「……そもそも、あたしが彼女から託された〝それ〟が、猊下の言われる〝宝物〟に当たるのか、確証はありません。本当に〝それ〟自体は、向こうの世界では誰でも簡単に手に入るものですから……」


 知里は慎重に言葉を選んだ。


 向かいの長テーブル、クロノ王国の席から視線を感じる。


 ラーも、彼らの視線に気づいているようだった。


「公の場で貴女にこの話をしたのは、ふたつ理由があります」


 彼も肩越しにクロノ王国の席に視線を送る。それは「あなた方クロノ王国を話題にしています」と言わんばかりのものだ。


 法王は話を続ける。


「貴女はクロノ王国から『生死は問わず』の指名手配を受けています。当然、向こうは暗殺を含めて様々な手段で宝物を奪うつもりでしょう」


「まあ……そうですね」


「貴女の力ならば、降りかかる火の粉を払うのは容易たやすい。ですが、親しい人が人質に取られる可能性は常にあります」


「そこまで親しい人は、もういないのですけどね……」


 知里もラーも、心に思い描いた人に目を伏せて少しの沈黙が流れた。


「……クロノ王国は、貴女が持つ『世界の秘密を解き明かす鍵』を狙っています。法王庁としても、誰が手にしているかを常に把握している必要があるのです」


「異界人のあたしが持っているという事実の方が、よほど問題ではなくて?」


 ラーは、どちらかとえば異界人に寛容ではあるものの、そこまで慈悲深い人間ではない。


 必要であれば異界人だろうと手を組むし、利用価値がなければ側近だろうと粛清してしまう。


 知里とラーが行動を共にしたのは、ほんの2週間ほどの短い間だったが、ともに命がけで遺跡に挑んだ経験は、百度の会食よりもお互いの気質を理解できた。


「もちろん。異界人が『時空の宮殿』で宝物を手にしたのは由々しき問題です。ですが、手にしたのが貴女である以上、『鍵』を使えるのは貴女だけという可能性もあります」


 ラーがそう言う根拠として、古代魔法王国時代の遺物には、最初の所有者だけが装備できたり、使用できる魔法道具や魔法武器の存在がある。


 今回の『鍵』が、そうであるかは分からないが、ラーは『鍵』の所有者である知里の動向には、目を光らせておく必要があった。


「そういう意味で、クロノ王国には、うかつに貴女の命を奪ってほしくないと思っています」


 こうして法王と知里が『世界の秘密を解き明かす鍵』について話をする。この内容は間違いなくクロノ王国側に伝わっているだろう。


 ──彼らはすでにあたしたちの会話に、魔法で聞き耳を立てている。


 知里はガルガ国王の側近のひとり・仇敵ソロモンを睨みつけた。


 ※本編中に登場した『時空の宮殿』についての詳細は、スピンオフ『知里の冒険譚・紅薔薇と裏切りのダンジョン〝時空の宮殿で起きたこと〟』に書かれています。


こちらはイメージボードと登場人物一覧図です。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 全30話完結済みです。第10回ネット小説大賞の運営様より感想もいただいておりますので、興味がある方は是非ご覧ください。


 https://ncode.syosetu.com/n6039gy/


 次回の更新は7月26日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言] ( *´艸`) キナ臭くも面白い展開の予感!! ますます楽しみです!!
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