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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
花火大会編・オープニングセレモニー
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479話・第3回エルマ杯・世界セレブ御前闘犬

 夕暮れが近づいていた。


 湖上に造られた人口の浮き島。そこに設えた野外晩餐会の会場は、大まかに三段に分かれている。


 最上段には法王庁、クロノ王国、勇者自治区の要人が座る長テーブル。当然、この位置からが最もよく花火が見える。


 二段目には、諸侯たちが座る席。ここからでも十分に花火は楽しめるが、最上段の様子は見えないように配慮がなされている。


 さらに一段低くなった位置の最先端に、特設ステージがある。この後方がオープンキッチンで、各勢力を代表するシェフが腕によりをかけた料理をふるまう。


 饗宴外交はフルコースが基本だ。


 しかし直行は今回ビュッフェ形式を提案し、料理人たちの承認を得た。


「現代日本、ファンタジー世界、それぞれの料理を好きなように選んでもらう。自分たちの好きなものを好きなように味わってもらうんだ。そうすれば、どちらかの食文化を一方的に押し付けるような形にはならないだろうし、お互いに興味をもったときに食べやすいだろう」


 直行にはこの饗宴外交で諸侯らと親睦を図り、裏で同盟関係を結びあって、大国からうかつに侵略されないような外交関係を結びたいという意図があった。


 ◇ ◆ ◇


 ドレスアップした勇者自治区の要人たちは、先んじて席についている。


 勇者トシヒコの白いタキシードや賢者ヒナ・メルトエヴァレンスのハリウッド風スパンコールドレスはとくに人目を引いた。


 それ以外にもアイカの和柄ドレスをはじめ、技術官僚たちのタキシードや和装など、さながら勇者自治区の長テーブルは現代のセレブリティ・パーティみたいな感じだった。


 その後ろを、ロンレア領など諸侯の席が取り囲む。男性陣はいかにも貴族的なフロックコートとシャボタイ。女性陣はクラシカルなドレス。


 一方、クロノ王国は黒い鎧の近衛騎士団を従える威風堂々とした国王。異能の側近集団〝七福人〟たちは勲章のたくさんついた近代欧州風の軍服を着ている。


 そうした中で、ひょっこりとステージに上がったのはエルマだった。


「世界の皆様、ごきげんよう♪」


 まだ座席が埋まらない中、先行したエルマがスピーチを始めた。彼女はこの日のために誂えた白いブラウスとダークレッドのスカートを身に着けている。


「ようこそおいでくださいました♪ 打ち上げ花火を前に、余興として、ささやかな闘犬大会をお楽しみくださいませ♪」


 そんなものは直行らが取り決めた段取りにはなかった演目だ。


 慌てて直行はエルマに詰め寄ろうとしたが、すでに特設ステージには闘犬用のリングが設置されている。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。どういうことだ、レモリー」


 彼は精霊石の通信機でレモリーを呼んだ。


 何度もリハーサルを重ねたはずだが、こんなのは予定になかった。


「いいえ。私も存じ上げませんでした。申し訳ありません」


 いつのまにかステージに闘犬リングが設営されている!


 これは、あらかじめ組み立てたリングを別の場所に置き、空間転移魔法を応用して召喚したかのように見せる荒業だった。


 そのわきにはエルマの召喚獣コボルトが、すでに4匹控えている。


挿絵(By みてみん)


 白、黒、茶色……。おなじみの者たちに加えて桃色の毛皮の変わり種コボルトまで、グローブとボクシングパンツを装備して並んでいた。


 諸侯の客席からどよめきが起こる。


 だが、それは闘犬に対してではなく、諸侯たちの注目は船着き場の辺りに集まっていた。


 直行は、頭を抱えながらステージの方へ行こうとして、足を止めた。


「法王猊下のご到着! 皆さま、ご起立をお願いします」


 クロノ王国、諸侯をはじめとするお歴々が一様に席を立ち、桟橋の方を向いた。


 どこからか厳粛な音楽が鳴り響き、白と金の僧服と鎧をまとった一団がお出ましになる。


 派手な頭飾りをつけた聖騎士を先頭に、法王庁の重臣たちが入場してくる。


 その中には見覚えのある顔、姫騎士リーザや生臭坊主ジュントスの姿も見えた。


「法王猊下に礼!」


 諸侯たちは左手を胸に当て、法王庁の一団に敬意を示す。


 クロノ王国の一団も同様だ。


 普段はふざけた様子のエルマまでが急に左手を胸に当て、恭しく頭を下げている。


 勇者自治区のトシヒコや賢者ヒナたちも、見よう見まねで左手を胸に当てて礼をする。


 敬礼をしないのは、ファーのような飾りをつけた黒い鎧のガルガ国王と、ティアラを被ったアニマ姫。彼らは起立したまま掌を見せる。


 本来であれば国王といえども地上における神の代理人=法王に対して頭を下げなければならない。しかしガルガ国王自らが政治を行う親政において、法律を変えた。


 それは、現法王がガルガの実弟でなければ変えなかったであろう法律だ。魔法の使えないガルガ国王は、血を分けた弟で魔道の天才でもあるラー・スノールに深い劣等感を抱いていた。


 そうした事情などつゆ知らぬ諸侯たちの礼に、法王庁の一団は静かに左手を挙げて応える。


 場の空気が一変した。


 先導するジュントスの後ろをゆっくりと歩いてくるのは、まだ少年の面影が残る童顔の青年。遠目でも整った目鼻立ち。


 直行はその姿に見覚えがあった。


 ジュントスに用があって法王庁へ行った際に、何気なく部屋へ入ってきたとたん無理やり上座に座らされた少年がいた。あのときはまさか法王だとは思わなかった。


 ──直行は思う。


 それにしても当時、あどけない聖騎士ドンゴボルトは彼を〝新入り〟〝従者〟扱いしていたが、法王の顔も知らなかったのだろうか……。


 今回、ドンゴの姿は見えない。左遷されたのだろうか──。


 直行の雑念はさておき……。

 

 法王の入場で会場の雰囲気は厳粛なものへと一変した。


 にもかかわらず、エルマは闘犬大会を続けようとしている。


 直行は、そそくさと彼女に近づき、声をかけた。


「エルマ、どういうことだ。闘犬なんてリハーサルになかったはずだ」


「直行さんに言ったら、どうせ止められていたでしょうから、秘密裏にことを運びました♪」


「何のために? 悪ふざけも大概にしないと」


「悪ふざけなんかじゃありませんわ♪ あたくしは大まじめです♪ いつまでもヒナさんに気後れしているあたくしではありませんから♪」


「……だからって、世界のVIPを前に闘犬大会ってのは……」


「家宝の虎の敷物を取り戻すチャンスと見ました♪ 優勝賞品として、ガルガ国王に提案してみますわ♪」


「……はい?」


 以前、直行とエルマが共同統治するロンレア領とクロノ王国が交渉する際に、使者キャメルに持たせた土産……虎の敷物。


 それは、ロンレア領の中興の祖で武闘派だったエルマの曽祖父が遺した家宝だった。しかし没収されて帰って来なかった。エルマの両親は、その事実を知らない。


 エルマ以外、誰一人として気にも留めていなかった案件だった。


「……まさかお前、闘犬大会で八百長して、ガルガ国王から虎の敷物をせしめるつもりか?」


 あまりにも突拍子もない提案に、直行は戸惑った。


 領地を武力で奪おうとして返り討ちに遭ったばかりの国王が、そんな余興に乗るとも思えない。


 しかしなぜかエルマは自信たっぷりに笑っていた。


(こんなデタラメな思いつきで、果たして勝算があるのかよ……)


 空が茜色に染まりだす。


 花火大会は、日没後……。


 その前座として、まさかの闘犬大会が始まろうとしていた。

 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。


「2022年7月18日は『海の日』ですわ♪」


「あれ? 『海の日』って7月20日じゃなかったっけ?」


「03年から祝日法のハッピーマンデー制度で7月の第3月曜日に変わったんだよね」


「祝日とか関係ない生活をしてると、旗日の実感がなくなっちまうよな」


「知里さんも毎日が日曜日なのによくご存じでしたわね♪」


「まあね……って、一言多いよお嬢」


「『海の日』かー。昭和の時代には『海の記念日』って言ったのよ」


「次回の更新は7月21日を予定しています。『夏休みだよ鬼畜令嬢』お楽しみに」


「小夜子さんは夏がお似合いですからね♪ ビキニもポロリでお願いします♪」

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