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47話・三つ巴の突破口


 マナポーションをめぐって異なる立場の者たちによる膠着状態は続いていた。


「その箱は法王庁の物資である以上、盗品の疑いもある」

「直行とか言ったな。商人に化けた異界人め……」


 俺たちの周囲を取り囲んでいる神聖騎士団は、ほとんどが抜刀している。

 中には飛竜に騎乗したまま、槍を構えて威圧してくる者もいる。

 隊長を務める、紅い髪の若い女性リーザ・クリシュバルト子爵も緊張した面持ちだ。


 戦闘態勢と言っていいだろう。

 加えて厄介なのは、彼らが法王庁という、信仰集団である点だ。


「待ってくれ。持ち主には正当な許可を得て販売している」


 俺は礼服を着ているが、正規の商人の証は持っていない。

 そんなものがあるのかさえ知らないので、突っ込まれても答えようがない。

 しかし、神聖騎士団たちの「聞く耳の持たなさ」は、そういう理屈が通じるような段階ではなかった。


「盗品だろうと正当な商人だろうと!」

挿絵(By みてみん)

 紅い髪の隊長・リーザ・クリシュバルトは啖呵(たんか)を切った。

 彼女の瞳は、信じるものに対してどこまでもまっすぐだ。


「わが法王庁からの物資を、異界人が勇者自治区に横流しすることを、断じて許すわけにはまいりません!」

「そうだ!」

「その通り!」

 

 リーザの声に、騎士団の男たちが追従する。


「たとえ、上級魔神(グレーターデーモン)を倒した『他心通(たしんつう)』使い=『頬杖』と事を構えるとしても、法王庁としては、看過(かんか)できる問題ではない!」

「おお!」

 

 ……。

 この集団にはある種の同調圧力があり、あいまいな決着を許さない雰囲気がある。

 号令一つで、今にも俺たちに飛びかかりそうだ。

 彼女は、やる気だ。


「積み荷を押収せよ!」


 号令とともに振り下ろされた刺突剣が一閃。

 騎士たちが荷台めがけて押し寄せてくる。

 しかし、小夜子の障壁(バリア)が、飛竜の牙も、騎士の槍をもはじき返した。


「わたしが荷物には指一本触れさせない!」


 小夜子はバリアを張って積み荷を守りながら、知里に目配せをした。

 知里は小さくうなずき、「やれやれ」と苦笑いをしながら魔法の詠唱に入った。


「……うっふ~ん」


 小夜子は、何の脈絡もなく腰をくねらせたり、巨大な胸を寄せたりと、急に悩殺ポーズを繰り出した。

 顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに髪をかき上げたりしている彼女の周囲に、ピンク色の障壁が現れ始める。


「……はあ?」

「ハレンチな異界人が、聖龍法王庁を愚弄するのか!」


 予期せぬ行動に、騎士団員たちがドン引きした。

 しかし、視線は小夜子の悩殺ポーズに集中し、釘付けだ。

 男の哀しい(さが)だな。


「ああんもう恥ずかしい! 知里もういいでしょう」

「お小夜、もっと視線を集めて」

不埒(ふらち)な異世界人たち、やめなさい!」


 激昂したリーザ・クリシュバルトが小夜子に光弾を放つが、ピンクの障壁は魔法攻撃をも吸収してしまう。


 その隙に、知里は集めた男たちの視線の先、小夜子との中間地点に術式を飛ばした。

 何の術か俺には分からなかったが、2人は示し合わせて、膠着した状況を吹き飛ばす「何か」を行うつもりだったのだろう。


 ところが、そうはならなかった。


「ハハハ、おふたりの連携技、すごいや。でも集めた視線の先に置く術式は、『麻痺(スタン)(アイズ)』なんかじゃなくて、闇属性の『石化(ペトリファイド)』にした方がいいんじゃないですか? そうすれば、神聖騎士団なんて、全滅しちゃいますよね?」


 割って入ったいぶきが無神経に(あお)った言葉が、状況を狂わせたようだ。

 騎士団の視線が、いぶきの方へ逸れた。


「貴様は何者だ!」


 紅い髪リーザの刺突の細身剣が、いぶきの額を狙った。

 光弾を小夜子に打ち込んでから、ノンステップでの物理攻撃。

 リーザの速度は俺には追えなかった。


 しかし、彼女の突きも、すでに知里には読まれている。

 知里は唱えようとしていた魔法をキャンセルし、物理反射魔法に切り替え、いぶきを守った。

 反射によって刺突は弾き返され、剣を繰り出したリーザ本人の額から血が流れた。


「作戦を台無しにしてくれたメガネの坊やが何者か知らないけど、誰かをむやみに傷つけたら話がややこしくなるじゃない?」


 知里はいぶきを守ったものの、素っ気ない。

 いぶきは、へなへなとその場にへたり込んでしまった。

 手ごわい交渉相手だと思っていたが、意外と荒事には弱いんだな。

 それはともかく……。


「なぁ知里さん。いま、何をやろうとしたんだ?」


 俺は少し気になったので、知里に聞いてみた。


「『麻痺の瞳』と目を合わせた者は、緊縛状態になるの。お小夜の悩殺ポーズで騎士団の視線を集めて、一気に全員を金縛りにしようとしたんだけど、あの眼鏡君が横から視線をさらっちゃったので、失敗した」

「なるほど、知里さんは、彼らを傷つけたくないんだな」

「だって、フリーの冒険者と炊き出しボランティアが法王庁に睨まれるのは、さすがに避けたいじゃない?」


 ごもっともな話だ。

 そして、この人を信頼してよかったと思った。


「厄介な護衛任務になって申し訳ない。ちゃんと追加料金払うから」

「アテにしとくよ」


 とはいえ、膠着状態の突破口は塞がれてしまった。

 

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