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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
花火大会編・オープニングセレモニー
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474話・この景色は誰のもの?


「いよいよ各勢力の出航だ」


 ドーン。ドドーン……。


 紙テープセレモニーに続いて、礼砲が夕暮れ前の空に鳴り響いた。


 初めて聞く大きな音に、驚いたり耳を塞いだり、慌てて船の安全を確認したり、頭を守るような仕草をする人たちの姿が見える。


「ほら、言わんこっちゃない」


 ここは鉄砲すら存在しない、いわゆる剣と魔法の世界だ。空砲とはいえ大砲をうち鳴らすのはどうかと思っていたが、勇者トシヒコたっての希望により実行された。


「多分トシヒコさんは、このセレモニーで〝勇者自治区〟の御威光でも示したいのでしょうね♪」


 俺は法王庁や各諸侯が驚かないように、前もって段取りや音の大きさ、礼砲の意味などを説明していたものの、やはり勇者自治区からの威嚇とも受け取られかねない行為だ。


「俺は、あくまでも平和的なセレモニーを企画したつもりなんだけどな……」


 実質的な発起人は俺だけど、勇者自治区に法王庁、クロノ王国のほか、小さな領土を治める領主たちの思惑が絡み合う。 


 打ち合わせは伝令の馬が運ぶ文書でのやりとりがメインだった。場合によっては数日のタイムラグがあったりしたので、まるで伝言ゲームのように当初の予定や目的からズレていった。


 もっとも、それは各勢力による主導権争いが入り乱れての結果なのだけど。


 ドドーン……。


 各諸侯には、身分に応じた数の礼砲が放たれる。


 今回は異文化交流が名目のセレモニーなので、礼砲の意味などは特製の紙片でパンフレットをつくり、エルマが『複製』して前もって各勢力に配っておいた。


 〈法王庁とクロノ王国には、国家元首の扱いとなる最高位の21発〉


 〈勇者自治区と諸侯たちには、それに次ぐ首相や国賓クラスとして19発〉


「なるほどね。形式的には相手を立てているわけね。でも、主導権はあくまでも勇者自治区にあるというトシヒコの意志を感じるわ」


 知里が紙片をペラペラさせながらコメントした。


「もう! みんな仲良くすればいいのに! トシちゃんは変なところでプライドが高いんだから」


 堂々と湖上を行く勇者自治区の蒸気船を見ながら、小夜子はこぼした。


「あたくしたちにも40発くらい派手に礼砲を鳴らしてほしかったですけどね♪」


 エルマは口では不満を言うものの、自分たちの置かれている立場は理解している。


 今回、黒子役の俺たちには礼砲は用意されていない。


 俺たちの立場は、あくまでも商会つきの後援者。そして目的は、クロノ王国によるロンレア領侵攻の回避だ。


 法王庁や諸侯たちが手を結ぶ機会をつくり、クロノ王国と勇者自治区との急接近を和らげようと、たくさんの小さな勢力を巻き込んで〝異文化交流会〟という名目を掲げた。


「はい。では、私たちもそろそろ出航いたしましょう」


 各諸侯の船を見送った俺たちは、最後に港を後にした。


 目指すは中央湖に俺たちが設営した花火セレモニーの会場だ。


 ◇ ◆ ◇


 俺たちは各諸侯を見守るように最後尾から会場に向かっている。


「この湖はまだ、誰のものでもない」


 この世界はまだ、俺たちがいた現代社会のように、水の上まで領土が確定しているわけではない。


 漁業権のようなものはあるようだが、漁師たちの縄張り程度のゆるい制度らしい。


 広大な中央湖の真ん中付近は、未だどこの領土にも属さない中立水域なのだ。


 魔王の脅威にさらされていた頃は、船旅は水棲の魔物に襲われる可能性が高く、航海など無謀な冒険以外の何物でもなかったという。


「でも、諸国は今後、水域についても領土争いをするだろうな」


 遅かれ早かれ、クロノ王国はガルガ国王の名の下で中央湖全体の領有権を主張するだろう。


 今回、異文化交流会を湖上で開催するのは、沿岸地域の諸侯との間で安全保障などを話し合っておこうという狙いもある。


「それにしても直行さま。ご覧ください。壮観ではありませんか……」


 レモリーがため息をついた。


 前方に連なる幾多の船が白波を立てている。差し込む強い日差しと紺碧の空を舞う聖龍。


「これらの景色は、直行さまが導き出したものです」


 マナポーションの横流しから始まり、決闘裁判、スキル結晶の密貿易、暗殺組織〝鵺〟との死闘、対クロノ王国のロンレア領防衛戦……。


 われながら、よく生き残ってきたと思う。


 ほとんど降りかかる火の粉を払うようにあがいてきたが、今回の首脳会談だけは俺が主導した。


「直行さん♪ 7合目あたりまでは来ましたか♪」


 クロノ王国による第二次侵攻を未然に防ぐことができれば、当面ロンレア領は安泰だろう。


「……そうだな。ゴールは見えつつあるか」


 俺はエルマの頭をポムポムと叩き、レモリーの肩に手を置いた。


 ◇ ◆ ◇


「レモリー、セレモニーの主だった参加者を確認してくれ」


「はい。まずは勇者トシヒコ様をはじめとする、魔王討伐パーティメンバーの4人。全員出席しておられます」


 勇者トシヒコ

 賢者ヒナ・メルトエヴァレンス

 戦士八十島小夜子

 商人カレム・ミウラサキ


 小夜子を除く3人はクロノ王国から一代侯爵の称号を授けられ、領土を与えられたのち勇者自治区を建設し、その要職を務めている。


 彼らはこの世界の改革者であると同時に、文化破壊者とも言われている存在だ。


 ヒナ・メルトエヴァレンスが中心となって現代日本から技術者などを召喚し、現代文明を持ち込んだ。


挿絵(By みてみん)


 また彼女は勇者自治区の執政官として政治に携わり、理想郷を目指して善政を敷くとともに、近年は英雄の自衛力に頼らない民主主義国家への移行も進めている。


 一方、勇者トシヒコは公式には「ハーレムに引きこもって自堕落な生活をしている」とされている。


しかし裏では強力な秘密警察を組織し、ドローンを使っての監視体制で、ヒナの理想郷を文字通り影で支えていた。


反乱分子の排除など、汚れ仕事を勇者自らが行っている事実は、一般には知られていない。


「なりふり構わず世界をつくり変えてきたヒナさまやトシヒコさまたちが、ここへ来てさらに表立って周辺国を威嚇するような行動を取っているのは気になります」


 レモリーは不安そうだった。


 それというのも、スキル結晶の取り引き等では慎重に偽装工作をしたり、目立たないようにしていたが、ここへ来て現代から持ってきた風習や文化を、これでもかと示している。


「……クロノ王国側はどうだ、レモリー」


「はい。御姿こそ確認できておりませんが、全員出席との報告を受けています」


 一方、クロノ王国からは、今回勇者トシヒコとの婚約を発表するアニマ王女。


 その兄で青嵐の国王と呼ばれる国王ガルガ・スノール以下、〝七福人〟と呼ばれる急進派の側近集団のうち、5人の参加の申し入れがあった。


 ネオ霍去病

 ソロモン改

 グンダリ・アバター

 ネオ・ゴダイヴァ(サナ・リーぺンス)

 パタゴン・ノヴァ

 

 しかし、5人は一向に姿を見せない。

 セレモニーには、不穏な影がちらついていた。


 次回予告

 本編とは一切関係ありません。


「直行さーん♪ 7月7日は七夕ですわね♪」


「おっ。短冊があるな。定番の『世界が平和でありますように』これは小夜子さんかな?」


「え、分かっちゃった?」


「『おとうさんにおしごとがみつかりますように……』……って、これネンちゃんか?」


「おじさん、ネンはそんなお願いしません」


「『過酷な児童労働がなくなりますように』これはエルマだろ。どうせチョコなんか食べながら書いたんだろ。深刻な問題を茶化すのはやめろよ」


「あたくしは書いてませんわ♪」


「『みんなの願いが叶いますように』って、キザだなー。もしかして知里さん?」


「さあね」


「そういう直行さんはどんなお願いをしたんですか?」


「次回の更新は7月9日を予定しています。『俺の願いは何だろう』お楽しみに」

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― 新着の感想 ―
[一言] まさに題名通りといった感じですね! ヒナ様きれい!(*^。^*)
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