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472話・花火大会の前夜

 王女と勇者の婚約パーティーの前夜。


 勇者自治区には、各国から首脳陣が訪れている。


 自治区内のホテルのラウンジは従業員たちに加え、諸侯お付きの騎士たちで物々しい警備態勢が敷かれていた。


 ジュントスの話では、王女の実兄のひとり、ラー・スノール法王も滞在しているとのこと。


 法王が勇者自治区に足を踏み入れたのは史上初のことだ。現法王の実妹であるクロノ王国の姫が勇者トシヒコに嫁がなければ、このような状況には決してならなかっただろう。


 もちろん政略結婚のことは、まだ諸侯には秘密にされているのだが。


「直行どの、ご挨拶はいかがなさいますかな?」


「いや。いくらなんでも、信徒でもない異界人の俺があいさつ程度で法王猊下にお目にかかるのは図々しすぎる。これまで通り、ジュントス殿にはクッション役をよろしく願います」


 さすがに法王に直にお目通りを願うのは分不相応だ。決闘裁判で、法王庁に恥をかかせた負い目もある。


 しかし他の主だった諸侯たちには、きちんと挨拶回りをした。


「これはこれは〝恥知らず〟殿。勇者自治区は聞きしに勝る威容。明日の船上パーティも楽しみですな」


 諸侯たちの反応は、表向きはおおむね良好だった。マメに親書をしたためたり、特産品のマンゴーを贈ったりした甲斐があったというものだ。


 とはいえ水面下では何やらキナ臭い動きがあることを、俺は嗅ぎつけている。


 諸侯たちの中には、ガルガ国王に領地を差し出してクロノ王国で地位を得たい者もいる。その一方で、反クロノ連合にも参加しているようだ。実に信用ならない、日和見な連中だ。


 それは心が読める能力『他心通』を持つ知里が、ラウンジでワインを飲んでいた時に仕入れた情報だった。


 物証はないし、誰と誰がどこでつながっているかも分からない。


「諸侯はアテにできないな……」


「何を当たり前なことを言ってるんですか直行さん♪ 信じられない人間を信じるフリをして美辞麗句を並べ立てるのが貴族の外交ですのよ♪」


 俺たちは、とりあえずホテルの部屋に集まり、ルームサービスで軽食をとる。


 俺はこの異文化交流を名目としたパーティーの仕掛け人だが、表向きはディンドラッド商会の発案ということにしてある。


 それに法王庁と勇者自治区が乗り、法王と勇者の名の元にクロノ王国に参加を打診したということになっている。


 ちょっと回りくどい段取りだが、ロンレア領とクロノ王国は領土を巡って戦争したばかりなので、こういう措置を取った。


 ◇ ◆ ◇


 明日の本番を前に、俺たちは最後の打ち合わせをした。


 今回集まったメンバーは最も信頼のおける仲間たちと言っていい。エルマ、レモリー、知里、小夜子……ジュントス。そしてなぜかネンちゃん。


「ヒナちゃんには連絡がつかなかったわ。彼女も、首脳会談の前の非公式会談で大忙しみたいだし。明日着ていく服どうしよう」 


 小夜子は不安げだが、食欲は旺盛のようで、ナポリタンとハンバーグ、大盛りライスをモリモリ食べている。


 余談だが、ここ1週間のレストラン関係者の仕事は修羅場だったろう。要人が集まっているだけに晩餐会をはじめ、色々開かれたようだ。


「いつものビキニアーマーでいいんじゃないですか♪ チュードムドム♪」


挿絵(By みてみん)


 エルマは相変わらずのタピオカミルクティーだ。


「いいえ。英雄である小夜子さまは、キチンとしたお召し物を着る必要があります」


 レモリーはコンソメスープとクラブハウスサンドを上品に食べている。


 程よくトーストされた三段重ねのパンに、ローストチキンやベーコン、トマトやチーズがサンドされた一品だ。


「レモリー、仕立て屋のティティを手配してくれ。あと、ネンちゃんのことは少し心配だ。小夜子さんと知里さんは目を離さないでやってほしい」


 俺はコーヒーを一口飲んで、本題に入った。


「それで……明日のことだけど、呪殺対策として俺は〝ナオルキ〟と名乗ろうと思っている」


 俺の一番の目的は、異文化交流会という名目で開く、この勇者トシヒコとクロノ王国の王女との婚約パーティーをお膳立てすることで、ロンレア領の孤立を防ぐことだ。


 そして警戒すべきはクロノ王国の動向。


 例の疑惑が事実なら、ネオ霍去病が呪殺系魔法で俺たちの暗殺を目論む可能性が高い。


「過去が見えるというネオ霍去病に、実名をもじったような偽名なんて通じないと思いますけどね♪」


 エルマの言うことはもっともだ。気休めかも知れない。


「でも、呪殺には本名が必要だって、よく言うだろう。それに『宿命通』とかいうスキルで過去が見えると言ったって、現代日本のことまでは見通せないだろうし」


 俺たちは、クロノ王国に自己紹介をする際に、ちょっとフェイクの経歴を盛り込むことにした。


「敵の呪殺の威力自体はタカが知れてるけど、個人情報が知られたら呪殺の成功率は格段に上がる。あたしたち現代組は大丈夫だとしても、レモリー姐さんとジュンちゃんは要注意ね」


 そう言って知里は、紫色の宝石がはめ込まれたネックレスを2つ取り出した。


「昔、遺跡でゲットした対呪殺のアミュレット。2人とも首にかけといて」


 ジュントスはネックレスを受け取ると、さっそく装着する。


「ありがたや知里どの。それにしても、呪殺とは恐ろしいですな。用心しましょう」


「ですが知里さま、対呪殺の装備は、直行……否、ナオルキさまが装備した方がよいのではないでしょうか?」


 レモリーは俺に、ネックレスを差し出す。


「俺は大丈夫だ。異界人だし、名前にフェイクを入れるし、『逆流』スキルでぬえましらの呪殺系魔法を緩和したこともある」


「ですが……。私の代わりなら探せばおりますが、直行さまは」


 レモリーは心配そうにうつむいた。


「総合的に判断すると、あたしはレモリー姐さんがもっとも危険だと思うよ。霍去病の性格はよく分からないけど、直行を直接やれないなら、大切な女を奪うことで心を折りに来るかもしれない」


「レモリー、お前の代わりなんていない。自分を大切にしてくれ。俺たちは花火大会を成功させて侵攻を回避しよう」


「はい……」


 明日の異文化交流会が、単なるイベントで終わるか、凄惨な結果となるかは分からない……。


 俺たちの未来がどうなるかなんて、神のみぞ知ると言ったところだ。


 生ぬるい風を受けながら、湖上の会場は静かにたたずんでいた。

 次回予告

 ※本編とは全く関係ありません。


「レモリーと直行さん、この後メチャクチャ〇〇〇した! ってやつですわ♪」


「コラお嬢。お子様がそんなこと言うもんじゃないよ」


「何をおっしゃいますか知里さん♪ 膝枕して耳掃除ですよ♪」


「そ、そう……」


「知里さん赤くなって、意外と初心なんですわね♪」


「まあね」


「次回の更新は7月5日を予定しています♪ 『中年同士の恋の行方』お楽しみに♪」

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