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471話・花火大会の準備

 中央湖で、花火大会特設ステージの施工が始まった。


 花火をより楽しむために、観覧席を設けたい。湖上に人口の島を浮かべ、それをいくつもつなげてステージや飲食スペースを併設する。きっと派手な湖上パーティーになるだろう。


 俺とエルマとレモリーは連日現場に入り、設営の指揮を取ったり職人たちの工期を調整したりと、目が回るほど忙しい。


 とくに勇者自治区から出向してきた建設系の魔導技術者たちは、アイデアを形にする上で実に頼りになる。


 彼らは現代日本からの転生者や、ヒナが召喚したさまざまな分野の専門家エキスパートたちだ。確かな知識と技術を持った上で、この世界の魔法をも使いこなせる。


 ◇ ◆ ◇


挿絵(By みてみん)


「ストロンチウム(Sr)が紅、銅(Cu)が緑青、カリウム(K)が紫ですわよ♪」


「はい。わかりました」


「試しに打ち上げてみましょう♪」


 エルマとレモリーは、リハーサルも兼ねて花火の炎色反応をチェックしている。


 打ち上げ花火とはいっても、魔法の存在する世界だから、花火を打ち上げるのは魔導士の役目となる。


 できるだけ派手で見栄えのする属性魔法と、金属を含んだ火薬を組み合わせて、色を表現するのだそうだ。アイデアを出し合うふたりはとても楽しそうだ。


「やはり婚約発表ですから、ハート形の花火にしましょうか♪」 


「はい。ですが、ハート型が愛のシンボルだという説明がないと、現地人には分からないのではないですか?」


 現代文明を知っている被召喚者の俺や転生者たちと、もともとこちらの世界で生まれたレモリーのような現地人と、イメージのすり合わせを行い、誰が見ても分かるような演出を心がけたい。


 物資の調達に関しては、ディンドラッド商会やドン・パッティ商会の流通網を頼りに、物資の輸送や、食材の手配などを請け負ってもらっている。


 料理人に関しては、このためだけに設けた現代風のオープンキッチンに、ヒナちゃん御用達のレストラン・アエミリアのシェフたちと、我らがBAR異界風いかいかぜのワドァベルトに入ってもらう。もちろん、法王庁や諸侯の料理人たちにも協力を要請してある。


 今回はコースだけではなく、立食形式のビュッフェも用意する。


 貴賓に対して立食ビュッフェは失礼かもしれないが、異国文化を手軽に味わってもらうために、併設することにした。


 勇者トシヒコとアニマ王女の婚約発表は、花火大会を兼ねた少しリゾート風のリラックスした饗宴となるだろう。


 ただ、異文化交流を名目に掲げているので、諸侯から出せる範囲のお宝を出してもらって、展示スペースも設けたい。


 勇者自治区からは現代日本をモチーフにした設備、法王庁からは宗教色のある荘厳な調度品を借り受ける予定だ。

 

 各国の諸侯や首脳陣が集まる実質的なサミットなので、万国博覧会のように各勢力の文化を体感できる会場にするつもりだ。


 作業は急ピッチで進められ、やがて湖上に豪華な特設会場が出来上がった。


 ◇ ◆ ◇


 久しぶりにロンレア領に戻った俺たちだが、内政を一任しているギッドにつかまって、長々とつまらない報告を受けた。


「……以上です。ところで、小夜子さまの炊き出しボランティア事業の予算ですが、どう捻出なさいますか」


 日々の業務を放っておいたのがたまっていた。派手なイベントの準備にかまけていたのだから仕方ない。


「婚約パーティー、知里は行かないの? 花火キレイだよきっと」


 そんな小夜子は、俺の頭痛などお構いなしだ。吞気にパーティーへ着ていくドレスを選びながら、知里を誘っている。


 知里は相変わらず、無関心そうに頬杖をついている。


「あたしはいいよ。少なくとも表舞台は。だいたい、お尋ね者がサミットに堂々と顔を出すなんて、おかしいじゃない」


 屈指の冒険者である知里は、誰よりも頼れる用心棒だ。


「あたしは裏で、クロノ王国の諜報とか刺客とかに警戒してなくちゃいけないし」


 彼女は数カ月前の冒険が原因で、クロノ王国から指名手配されている。同国に対して強い警戒心をもっている点で、俺たちと利害が一致しているのだ。


 ◇ ◆ ◇


 ところがある日、そんな知里の元に、品のある立派な封書が届いた。


「あたしに? どこから」


「法王庁からだ。ラー・スノール猊下直々の……らしいよ」


 俺は、使者の飛竜騎士から受け取った署名入りの封書を知里に渡した。


「こんな時期に、何事だろう」


「知里さん、きっとまた何かやらかしたのですわ♪ 今度は法王庁から、逮捕状ですね♪」


 エルマが小躍りして茶化す。


 不審そうに封を開けた知里の表情が、さらに曇った。


「ほら、お尋ね者ですわ♪」


 俺は首を突っ込んで書面を見ようとした。


 知里は隠そうとしたが、側にいた魚面うおづらが掠め取って読み上げた。


「ナンだ、招待状じゃナいカ。例ノ婚約パーティーの。法王庁側の席をご用意シマスっテ……はえっ?」


 魚面は目を飛び出しそうにして驚いている。俺もびっくりだ。


「知里さん、法王庁にジュントス以外の知り合いなんていたのか? ……っていうか、猊下直々の書状だよな、これ?」


「すごーい。知里、法王さまとお知り合いなんだ」


 小夜子も目を丸くして身を乗り出してくる。


「いや……でも、困ったわ。どうしよう……」


 書状を奪い返して、行ったり来たりする知里は明らかに戸惑っていた。


「良かったじゃない! 皆で一緒に花火を見ようよ! たーまやー」


 嬉しそうにはしゃぐ小夜子に、「やれやれ」といった感じの知里。


 あまりのことで詳細はよく分からないけど、知里が参加してくれるのならば、心強いか……。


 ◇ ◆ ◇


 パーティー前夜。


 俺たちは、勇者自治区のホテルに滞在していた。


 宴席にVIPとして席がもうけられたのは、伯爵令嬢エルマ、勇者パーティの一員である小夜子、そして法王庁側の席になぜか冒険者の知里。


 ディンドラッド商会からは長男が参列し、ギッドもつなぎ役として古巣へ出向する。


「え? どうしてネンちゃん?」


 ……そしてなぜか、ハーフエルフの少女、ネンちゃんの姿もあった。


「わたしが連れてきたの。お父さんが行方不明で塞ぎ込んでいたのよ。気分転換に美味しいものを食べようねって」


 確かネンちゃんの父は転生者の人間で、エルフ族の射手スフィスの妹に手を出した挙句、エルフ族の女王に祭り上げたということで、彼の逆鱗に触れていた。


 そうなると、現エルフ族の女王は、ネンちゃんの母親ということになるが……。


「ネンちゃんをこんなところに連れ出すのは、政治的にもマズいんじゃないか」


「それにお小夜、ハーフエルフは法王庁から存在を認められてはいない。いくら今の法王が話の分かる人物だとしても、周りが納得するとは思えないよ」


 現に、ネンちゃんは以前、マナポーション横流し事件の際に、紅の姫騎士リーザ率いる飛竜部隊に逮捕されそうになった。


 その現場に、小夜子もいたはずなのだが……。


「大丈夫。これはヒナちゃんとも内々で話したんだけど、可能ならわたしたちが法王さまに直訴することを検討しているわ」


「ネンは美味しいものをいっぱい食べたいです」


「……俺は心配だ。クロノ王国がどう出てくるか分かったもんじゃないし」


「危害を加えるならあたしがぶっ潰す」


 クロノ王国が絡むと、知里はきわめて好戦的になる……。


「ここでネンちゃんの存在を認めてもらうことができなければ、何のための異文化交流会よ。わたしに任せて!」


 一方、小夜子は楽観的すぎる気もする。


 花火大会は波乱含み……。何ごともなく友好的に終わればいいのだが……。

 次回予告

 本編とはまったく関係ありません。


「直行さん♪ あたくしたちの元いた世界は連日の猛暑らしいですわね♪」


「場所によっては気温40℃近くのところもあるみたいだな」


「それだけ高気温だと、みんな小夜子さんみたいに裸でいるんじゃないですか♪」


「エルマちゃん! わたしは一応ビキニだから! 大事なところは見せてないから!」


「直行さんも北京ビキニか、ブーメランパンツ履いてもいいですわよ♪」


「次回の更新は暑いので未定……ではなく、7月3日を予定しています。熱中症には十分気をつけて、猛暑を乗り切りましょう」 

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